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「食糧はどうにか集まったみたいですね。」
「流石に日本を代表する冒険者を裸一貫で送り出す事は出来ませんからね。」
苦笑いを浮かべながらも淡々と仕事をこなす和田に、悪いね、と口では言いながらも一切悪怯れる様子も見せないカケルに、深い溜息を吐きながらも仕事を優先してか、スタンピードの対応に追われてか、何か言うわけでも無く黙々と仕事に没頭する和田のスーツは相変わらずくたびれている。
「随分と忙しそうじゃないですか、橘が原因ですか?」
ふと思いついた様に会話を続けようとするカケルがその名を出した途端に、ビクッっと大袈裟なリアクションを取る和田の姿に、今度はカケルの方が苦笑いを零しながら話しを聞いて見れば。
暫定ではあるが、現場のトップとして動かしてみれば橘の働きぶりは目を見張るものがあり、最初は良い方向へと向かっていると思っていたが、調べて見れば扇動者じみた事を行なっているらしく、冒険者を志望する人が増大したらしい。
当然、冒険者資格はある程度の運動能力と人格を試験した上で発行されるものの為、すぐさま冒険者になれるという訳では無い。
スタンピード直後から一気に増えた志願者すら捌ききれていない現状を知ってか知らずか、次々と増えていく志願者にてんてこ舞いになっているのだと教えられた。
「橘の目的が分かんないですね。このまま冒険者増やして攻略が成功した時に影の立役者にでもなるつもりか?」
「彼女なりの償いなのかも知れないよ?冒険者が増えればスタンピードの危険は減るし、新しいエネルギーとして注目を浴びてる魔石の獲得量も増える。何より、冒険者という職への理解が深まれば君たちも動きやすくなるだろう?」
そりゃまあ、と言葉を濁しながらも少し不安そうなカケルを見て、一旦仕事の手を止めいくつかの資料をカケルへ渡しながら諭すように言葉を続ける。
「いま世界は混乱の真っ只中にある。実際にスタンピードと対峙した君たちなら身に染みて分かっているとは思うが、周囲の理解度の低さが被害を拡大させている。魔物に対して既存の力は意味を為さず、築き上げた文明は破壊されていく。それを止める為には例え扇動者だと罵られても冒険者を増やしてくれる人材は貴重なんだよ。」
「せいぜい寝首を掻かれない程度に手綱は握っておいてくださいよ?」
参ったな、と苦虫を噛み潰したような表情のままPCを畳み、部屋を出ようとする和田に今回の少し無理のある要求に改めて感謝しながら外まで見送る。
「最初に言った通り、君たちは日本を代表する冒険者なんですから、こんな所で蹟かれちゃ困るんですよ。この程度の無茶なら幾らでもフォローしますから、どこまでも駆け上がって下さいね。」
少しだけ真剣味を帯びた和田の温かい言葉に驚きながらも、久し振りに感じた温もりを有り難く思いながら、悪童らしい返事で応える。
「そうすりゃ和田さんのスーツももう少し立派なのに変わるかな?」
困った顔で襟元を正す和田の姿が遠く見えなくなるまでその温もりを噛み締めた後、夕焼けに染まる山間のダンジョンを見つめながらニヤリと笑うのだった。
ニートのダンジョン攻略記。
様々な問題をどうにか解決し、各々がスタンピードの激戦を経て得た新たなチカラを携え、明日よりダンジョン攻略が再開される。
次回、再び快進撃っ、猿と蛇と鬼と鬼。
乞うご期待。




