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ジメジメとした空間へと再び足を踏み入れた二人は、地上よりも魔力を多く含んだ濃厚な空気を深呼吸と共に深く吸い入れ、取り込んだ魔力を全身へと巡らせていく。
「やっぱり地上とは感覚にズレがあるな。」
ピシリとガラスが割れるような甲高い音がしたかと思えば、全身の至る所から血を流すリュウの様子に慌てる訳でもなく、まるでこうなる事を予期していたかの様に素早く回復を行なうユイ。
「各地でスタンピードが起きて地上にも魔力が充満したとは言え、流石にダンジョン内とは濃度に差があるみたい。取り込んだだけでこれなら放出は腕が飛ぶかも...最初は普段の半分くらいで慣らしていけば大丈夫かな?」
「腕飛ぶって大丈夫なのか?」
「んー、部位欠損は治した事ないけど多分大丈夫だと思う!」
おいおい、とやや不安の入り混じった訝し気な目をユイへと向けながら、治療が終わった腕の感覚を確かめる様に軽く動かしながら再び深呼吸と共に周囲に漂う魔力を取り込んでいく。
取り込んだ魔力に感化され自身の魔力も発起し、全身を纏う様に立ち上る濃密な魔力を右腕に集中させて気合いを込めた一声と共に振り抜く。
-パァァアアッッンッッ!!!!
振り抜いた拳から強烈な破裂音。
背後から忍び寄って来ていた大猿を一撃で粒子へと還せば、その一撃にやや不満気な表情を浮かべながら再び調子を確認する様に拳を握るリュウの腕は所々に内出血が見られるが、先程の様に血が噴き出すほどの怪我はなく後ろでホッとした顔のユイが、落ちている魔石をレピィに食べさせながら自身も感覚の違いを調整しつつ、地上では出来なかった新たな試みをいくつか試していく。
「それもハジメが考えてた魔法なのか?」
「え?あぁ、これは私が考えた魔法。見た目が苦手な人もいるだろうから人目の多い地上じゃ中々試す機会が無くてね。」
苦笑いを浮かべるユイの魔力を糧にワラワラと湧き出てくる小さな白蛇に肩をすくめるリュウだったが、目的の為なら多少見栄えが悪かろうが今更気にしたりはしない。
生まれる端から密林へと消えていく白蛇を見送りながら、先程の破裂音を聞きつけた大猿の群れの接近を感じ取ったリュウが静かに闘志を滾らせる。
「ユイ下がってていいぞ、次こそは完璧に制御して見せる。」
「無茶はいいけど、無理はしないでね?2日後には本格的に攻略が始まるんだから。」
「その為にも多少の無理、無茶してでも慣らしておかねぇとだろ?全てはハジメをぶん殴る為に、なっ!!」
迫る大猿の剛腕を、鋭利な爪を、噛みつきを何て事ない様に鼻唄混じりに軽い感じでいなし、防ぎ、抑え込む。
一対五という側から見れば圧倒的に不利な状況を楽しむかの様に笑うリュウを諌めるユイの一声で、仕方なしとばかりに肩を竦め魔力を発起させる。
迫る大猿の猛攻を掻い潜り、軽く触れる度にその場に崩れ落ちていく大猿達。
地面に倒れ込んだ大猿達が順に粒子へと還るのを見やりながら、物足りなそうな顔をしながらも白蛇から得た情報を頼りに次の標的へと進むユイの後を追い駆けて行く。
こうして地上との感覚の違いを調整をしつつ、二人はダンジョンを遡りながら実力を磨いて2日後の攻略に備えていった。




