果てし無き頂きへの道。
「おい、カケルの許可貰って来たから調整がてら潜るぞ...おまえ何やってんだ?」
ガチャガチャとお菓子作りなんかで使われる金属製の型抜き相手に苦戦しているユイを呆れた様に見つめるリュウ。
そんな視線に気が付いたのか、やや恥ずかしそうにしながらも、ガチャガチャと型抜きを箱に押し込もうとするユイが言い訳の様に早口で捲し立てる。
「あー、もうっ!なんで入らないのよ。大体、この量の型抜きがこんな小さな箱に収まってる方がおかしいのよ。普段ハジメがちゃちゃっと収めてるから気にしてなかったけど、絶対におかしい。なによ?そこで笑いながら突っ立ってるだけならリュウがやってみなさいよっ!」
「おうおう、えらく荒れてんな。」
苦笑いを零しながら我関せずとばかりに早々に白旗をあげ、出発時間を思うリュウを尻目に未だガチャガチャと音を立てながら型抜き相手に苦戦するユイを救ったのはすっかり餌付けされたメグ。
「...クッキー分けてね?」
そんな言葉と同時にすんなりと収めたメグをまるで救世主を見るかの如く崇めるユイが、仰々しくクッキーを一袋献上する姿に、いい加減待ちくたびれたリュウが出発を急かす。
「すぐ行くから入り口で待っててー。」
「ったく、先行ってるからな。」
クッキーを手にし満足げなメグが残りの片付けも名乗り出て、他数種のお菓子をゲットしホクホク顔でユイを送り出せば、リュウ曰く、調整がてらのダンジョン探索が開始する。
恒例のクリスタル操作を行い、調整と言いつつ跳んだのは雪辱を舐めた20階層。
境界線を越えた際の何とも言えない違和感の後、二人を迎え入れてくれたのは。
「ようやく来たか。わざわざ出向いて来てやったのじゃ、相応の土産は期待して良いのかの?」
「「っ!?」」
「なんじゃその反応は。せっかく気を効かせて出迎えまでしてやったと言うのに、妾でなければ首が飛んでも文句は言えぬぞ?クカカっ、冗談じゃ真に受けるでない。」
やけにフレンドリーな猿神の神様ジョークに苦笑いを零しながら、呼び出す手間が省けたと前向きに考えて、荷物から次々と供え物を取り出して行く。
見た事も無いような菓子類の数々に目を輝かせる猿神に再び苦笑いを浮かべるユイの横で、交換条件だ、とばかりに伸びてくる手をやんわりと遮るリュウをギロリと欲に染まった瞳で睨みつける猿神。
全く恐ろしさを感じない猿神の威嚇に今度はリュウの方が苦笑いを零し、本題を切り出して行く。
「今ハジメがどこにいるのか教えて頂けませんか?勿論、対価が足りないようなら更に追加で用意します。」
「よいよい、未知の甘味は対価としては充分よ。むしろ貰いすぎやも知れんな。」
「ならっ、ハジメの情報をお願いしますっ。」
猿神を妨げていたリュウの腕をやんわりと退かせれば、持ってきた菓子類を頬張り始めた猿神を期待を込めた目で静かに待つユイ。
数分もすれば持ってきた菓子類は半分以上が猿神の胃に収まり、満足気な猿神が黙々と食べるのをやめてようやく口を開く。
「実に美味しかったぞ、残りは眷族のモノ達に分け与えるとしよう。さて、対価の情報だが...あの小僧は今34階層辺りにおる。なかなかヤンチャしとるようで心配は無用よ。」
「良かった、無事なんですね...本当に良かった。」
ポロリと溢れる涙が頬を伝い落ち、ハジメと離れ離れになって以来どれだけ辛くても、どんなに悲しくても零す事の無かったユイがようやく泣けたのだ。
それを見たリュウが静かに拳を握り締め、決意を新たに魔力を発起させ戦意を滾らせる。
「クカカっ、お主らは随分と無茶する者が多いの。それは半ば人の道を外れとるぞ?扱いにはせいぜい気を付けることじゃな。」
「構わねぇさ、情けねぇ姿見せるより無茶する方が性に合ってる。」
スタンピードの激戦を越える為、ハジメが残していた資料から編み出した禁忌とも言える処置によって、無理矢理に膨大な魔力をその身に宿したリュウには失いかけた自信を取り戻しつつあった。
神に対して不遜な態度すら、かつてハジメと出会った頃のようである。
そんな邂逅の中、対価となるだけの情報を払った猿神は軽い足取りで眷族達の待つ密林へと消えて行くのだった。
そして二人の調整がてらのダンジョン攻略が始まる。




