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久方ぶりとなる自慢の露天風呂に浸かりながら、ここ最近でやけに凝ってしまった肩を労わる。
そんなカケルを見てカラカラと笑うリュウの表情は明るく、スタンピードで受けた傷を勲章の様に誇りながら、以前より洗練された肉体でバシバシとカケルの背を叩きながら笑う。
「なんでそんなに機嫌がいいんだよ。」
「あ?ようやく此処に戻って来れたんだ、そりゃ機嫌も良くなるだろ。」
「確かにな、どれだけ頑張っても報われない環境よりか何倍もマシか...。」
カケルの言葉で少しだけ下がった場の雰囲気を誤魔化す様に、タモツがダンジョン攻略の日程へと話を変えるが、ここで浮かび上がったのは物資の不足。
全世界が未だ混乱の最中にあり、人的な被害もそうだが、それ以上に深刻なのが物資の不足である。
日常生活の中ですら満足な食事を取れていないのに、この危機的状況にダンジョン攻略の為に充分なだけの物資を確保するのは非常に難しいのだ。
組織に依頼して要請はかけているが、交通機関すら麻痺している現状では輸入する術がほぼない為、到底満足出来るだけの物資を確保出来ていない。
それでもカケル達のやる気は無くならない。
むしろ、これまで以上に最短最速でダンジョンを踏破し、ハジメに追い付こうと意気込む始末。
当然、そんな無茶を許可する和田ではない。
和田の必死の説得によりダンジョン攻略再開は延びてはいるが、メンバー達の、中でもユイの強い希望によって攻略が始まるのも時間の問題な状況にある。
「スタンピードのおかげでってのはあれだが、随分とレベルも上がったし、あの日よりも実力も付けたつもりだ。早いとこダンジョンに潜りたいもんだぜ。」
「今頃ハジメは何階層まで行ってんのかねー。」
「魔法やダンジョンの事となると誰よりも化けたからな、急がないと大鬼の待つ場所まで行ってしまうかも知れないな。」
ハジメと別れてから既に2ヶ月以上経つ。
組織に目撃情報などをそれとなく探ってはいるものの、人がモンスターへと変貌したなどという事実を大っぴらに出来るはずも無く、ハジメの生存を疑ってはいないが、それを証明してくれる何かしらの情報も得られずにいる。
あの日以降、メンバー達の心境にも大きな変化があり、その中でもユイとリュウの二人はこれまでとは打って変わった様に全ての時間をダンジョンに注ぎ込む様になってしまっていた。
ユイは少しでも空いた時間があれば知識を求め、ダンジョンの考察レポートや組織からの報告書、ハジメの残した実験記録などを片っ端から読み漁り、モンスターの特性や魔力という未知のエネルギーの活用法などを学んだ。
リュウは自身の戦闘スタイルを全面的に見直し、これまで培ってきた剛拳を捨て、スタンピードで対峙した大量の敵を練習相手とばかりに思い付く限りを試しに試した。
そしてどうにか形となったのが、魔法を巧く取り入れた静の拳。
流れる様に拳を振るい、纏った魔力がインパクトの瞬間に爆発的な火力を叩き出す。
身体全体を使って振るわれるそのチカラは、悪環境でもそのチカラを十分に発揮出来た。
「カケル、2日後の出発まで肩慣らしがてら軽く潜ってくる。ユイも連れてくが心配はしなくていい。」
「へ?潜るってダンジョンにか!?」
「地上と感覚の違いもあるだろうし、軽い調整程度だ。」
ザバッ、と湯から上がった後、衝撃魔法で水を振り払うリュウの繊細な魔法に驚いた表情を浮かべる二人を背に、リュウは風呂から出て行った。
ニートのダンジョン攻略記。
攻略再開へと備え、それぞれ思い思いにそれまでの時間を過ごして行く。
次回、果てし無き頂きへの道。
乞うご期待。




