悪童吠える。
すれ違うモンスターからの攻撃を掻い潜り、持ち前の電光石火の様な身のこなしで戦場と化した街を駆け抜ける。
そんなカケルが手にしている聖剣は既に半ばからへし折れ、今は護身用程度の頼り無さしか無く戦いになろうものなら苦戦は必至。
それ故にカケルは走り続ける。
少しでもダンジョンから溢れかえったモンスター達の注意を引くために、少しでも多くの人が避難出来るように、と。
だが、既に1時間以上走りっぱなしで限界はとうにきており、身体は至る所から血が流れぼろぼろ。
この状況で唯一頼りにしていた雷魔法による驚異的な身体強化も魔力切れが近く、魔法が途切れるまで残り時間は少ない。
そして背後に迫るモンスターの影。
聖剣をキツく握りしめ、多少バランスを崩しながらも振り向きざまに気合い一閃。
迫る敵影を粒子へと還すも、それに続く形で迫ってくる二つの敵影の対処に手間取っていれば、後方から聞こえてくる頼りになる風切り音。
バスっと敵に突き刺さったメグの援護射撃に助けられ、どうにか窮地を脱して倒れ込むカケルを抱き留めたメグが状況を告げていく。
「...周辺住民の避難は完了。あとは作戦を決行するだけ。」
「はぁはぁ、犠牲者の数は?」
「...やれるだけの事はした。全てを救える程わたし達は強くない。」
遠くから響いてくる轟音と共に戦場と街を隔てる巨大な壁が形成されていくのを見て、慌ててカケルを担ぎ上げ撤退を開始するメグ。
二人が壁の内側に入ったと同時タイミングで壁が完成し、壁の内側へと避難した人達の安全が確保される。
「くそったれがっ!」
悔しげに地面を叩きつけるカケルを諌める様に、レピィに回復を行なわせながらも立ち上がる為の手を差し伸べるユイ。
「まだ終わってないよ、そんなとこで悪態吐いてる暇があるなら今やれる事をして。」
「...すまん。」
「はぁ、聖剣の補修はこっちで済ますから。とりあえず着替えて一旦休んで来て。仮眠程度の時間しか取れないとは思うけど、休める時に休んでおかないと持たないから。」
すまん、と肩を落としながら急遽組み上げられた拠点へと足を進めるカケル。
そんな後ろ姿を見送りながらテキパキとスタッフに指示を出すユイの目の下には濃い隈が出来ており、彼女もまた限界ぎりぎりで戦っている事が伝わってくる為、誰もキツい物言いに対して文句など言えない。
神の試練が始まり一年が経ったあの日。
世界中に点在するダンジョンからモンスターが溢れかえった。
攻略が行なわれていないダンジョンを対象とした一斉スタンピードの発生である。
出現するモンスターは様々であったが、唯一共通する部分があるとすれば、それはモンスターは人類の敵、という部分だろう。
溢れかえったモンスター達は破壊の限りを尽くし、命は奪われ、文明は壊され、その日を境に世界は変わってしまった。
勿論、人類とて一切対策を取らなかった訳では無い。
事前にスタンピードを警戒していた組織によってスタンピードが発生しない地域もあったし、スタンピードが発生してすぐに戦力を集中させて殲滅した地域もあった。
だが、全てを守る事など当然出来るはずもなく。
世界の人口は大幅に減少し、文明すら破壊し尽くすモンスターんp影響によって食糧やエネルギー等の問題が積み重なり世界は大混乱へと陥った。
そんな中、日本国内で発生したスタンピードから人々を救おうと動いたのがカケルを筆頭とした冒険者組合-ギルド-である。
国内で発生したスタンピードの中でも一番危険性の高い場所へと飛び込んでいき、タモツの土魔法でモンスター達を遮る壁を形成。
怪我をしたり、逃げ遅れたりした住民をモンスターから守るリュウやカケルの奮闘と救護から避難指示まで幅広く活躍するユイやメグのおかげでスタンピードが発生したにも関わらず、犠牲者の数は世界的に見ればかなり少ない。
当然、少ないというだけで守りきれなかった命も多くあり、それがメンバーの心に重くのしかかるも、立ち止まってはいられないのだ。
日本国内で発生したスタンピードは18件。
そのうち政府主導の下、対策が取られたのが6件。
被害を出しながらも、住民が避難したのが6件。
そして、運悪くスタンピード被害が爆発的に拡がり絶望的な状況下に置かれた地域が6件。
多くの命が失われた。
そして、多くの冒険者が生まれた。
戦うチカラを得る為に。
モンスターへ復讐をする為に。
生活を守る為に。
全てを終える為に。
様々な理由はあれど、始まりから一年が経った今、ようやく人類は神の齎した試練に向き合い始めたのだ。
ニートのダンジョン攻略記。
多くの悲しみを生み出しながら、ようやく全人類が神の試練と向き合う事となった。
それは初めから決められていた事なのか。
はたまた、幼女神による怠惰な人類への天罰なのか。
次回、全ては神のみぞ知る。
乞うご期待。




