夢と希望とダンジョンと。
パチパチ、と音を上げ、周囲に火花を散らす焚火に悲痛な面持ちを照らされ、普段ならば滅多に吐かない溜め息を何度も吐くリュウを叱れる人間はこの場には居ない。
そう、人間は...。
<随分と覇気が無いの。あの小僧を一人残して逃げ出した事を後悔しとるのか?それともチカラの無い自分への苛立ちか?>
「...さぁ、どっちだろうな。鬼の呪ってやつで当たり散らかして散々迷惑掛けた挙句に、このザマじゃあ格好はつかねぇだろ。それにハジメを待つって言った俺が一番その可能性を信じてやれてなかったんだ。ほんと情けねぇぜくそったれ。」
一晩という時間制限を設けてハジメの帰還を待つ事になったメンバー達だったが、ユイが未だに目覚めない為に、戦いで負った傷を癒す事が出来ず動けないままでいた。
そんな中、一番傷が浅いリュウが寝ずの番を名乗り出て、重症の他のメンバーを休ませていた。
「神様ならハジメがどうなったか分かってるんだろ?聞かせてくれよ。」
<ふむ、本来ならば魔石を大量に貰うとこではあるが、おんし等がこんなところで終わるのを見るのは忍びないしの...よかろう、小僧がどうなったか位は教えてやろう。>
そう言って淡々とした語り口で戦いの顛末を述べていく猿神の言葉を、焚火を眺めながら静かに聞くリュウの表情は固い。
<...かくして、あの小僧は餓鬼に堕ち、鬼の呪に導かれるままに階層を彷徨う事となったのよ。>
「それじゃあ、まだハジメは生きてんのか!?」
<ふむ、なんとも難しい問いよな。あれを小僧と言えるのかどうか。一つだけ言える事は、小僧の残した心器はまだその灯火を絶やしてはおらん、という事だけじゃな。>
摑みかかる勢いで猿神に迫るリュウを、ひょいと躱し、変わらぬ口調で希望を告げた猿神はそのまま姿を消してしまう。
その場に一人取り残されたリュウは、慌ててその姿を追いかけ必死に探すも、完全に姿を消した猿神を見つける事は出来ずに簡易拠点へと戻る。
そこに待っていたのは、腹部に風穴が空いて満足に動けないはずのカケル。
「寝てなくていいのか?」
「...何処と無く猿神さまの気配を感じてな。今更になって神頼みってのも可笑しな話なんだけどな。」
「さっきまでそこに居たけどな。ハジメの事を聞いたら心器がどうのって言い残して消えちまったよ。」
「っ!?ハジメはまだ生きてるのかっ!?」
「妙に曖昧な言い方だったが一応は生きてるらしいぜ。とりあえず心器ってのが何なのか分からんから、ユイが起きたら聞いてみるしかねーな。」
興奮した勢いのまま立ち上がったカケルの傷口から滲む血を見て、ひとまず落ち着かせて寝床へと戻らせればまた一人に。
焚火を眺めながらわずかに残された希望に涙が零れ落ちていく。
「ったく、あの化け物相手に一人で勝つなんて相変わらずぶっ飛んでんなハジメは。負けてられねぇよな、装備だのコンディションだのと言い訳ばっかしてても強くはなれねぇ。最強になる為にここに来たんだ、こんなんじゃ納得できねぇ。」
パチパチ、と爆ぜる火の粉に照らされたリュウの表情にはもう悲壮感は無い。
そこには決意を固め、前だけを向いた戦士の姿があった。
ニートのダンジョン攻略記。
ハジメの生存を知ったリュウは、決意を新たに拳を握る。
それは自身が目指す最強への一歩でもあった。
そしてダンジョン最後の夜が明けた。
次回もお楽しみに。




