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運命の一戦、思いは共にあると信じて。

駆け出したリュウとカケルの後を追う形で走り出せば、こちらを押し潰そうとする大猿の群れが両脇から迫ってくる。


足を止め迎え討とうとすれば掛かる声はタモツの怒声。


「そのまま突っ走れぇぇええ!!」


止めようとした足を前へと踏み出せば、タモツの魔法が炸裂する。

両脇にそり立つ壁は押し固められた地面を押し上げ大猿の群れを抑え込む。

抑えられた時間は僅かかもしれないが、その僅かな時間が白い大猿への道をこじ開ける大きな一歩になる。


振り返る時間も惜しく、前だけを向いて全力で駆け抜ける。

前を走る二人も後衛からの援護を信じ、白い大猿への最短距離を駆け抜ける。


後ろから聞こえる大猿の悲鳴にも似た鳴き声の原因はメグの強弓なのだろう、と思い更に力強く踏み込み白い大猿へと迫る。


「だらぁぁぁぁあああああ!!」

「うぉおおおらぁあっぁああああ!!」


先行していた二人が白い大猿へと襲い掛かれば、通常の個体よりも二倍近い巨躯を持つ白い大猿は二人の渾身の攻撃を易々と受け止める。


「ウガッァァァアアアア!!」

「「うおっ!?」」


いくら二人とも本調子では無いとは言え、メンバー内でもトップの攻撃力を誇る二人の攻撃を容易く弾き返す白い大猿に警戒度を数段上げて、後詰の役割を果たす。


二人を弾き返す為に乱れた構えを好機とし、駆けてくる中で練り上げた魔力を一気に解放。

ケセラセラに送り込んだ魔力が自身と同じくらいに巨大な鉄杭を生成する。


その凶悪な鉄杭を勢いよく撃ち出せば態勢の整っていない白い大猿は避ける事も出来ずに直撃する。


更に追い討ちとばかりに全力で鉄杭を押し込むリュウの剛腕と衝撃魔法を模倣したハジメの全力の打ち込みにより更に食い込む巨大な鉄杭。


「このまま押し切るっ!」


更なる追い討ち。

巨大な鉄杭の内部に仕込んだ魔力を無理やり爆発させて白い大猿の体内を焼き尽くす。


「ウガッァァァアア!?」


生じたその隙を逃さずにすかさず斬り込むカケルの聖剣は白い大猿の剛毛に弾かれるも、体毛に覆われていない右眼を貫き視界を奪う。


バシバシと駄々を捏ねる子供の様に暴れ始めた白い大猿から距離を取り、次の一手を考えたのが唯一で致命的なミスだった。


「ウキャァァァアアアアアア!!!!」


怒号にも似た鳴き声を合図に、狂った様に暴れ始めた大猿の群れがタモツの作った壁を打ち壊し、メグの強弓に怯む事も無くこちらへと襲い掛かってくる。


「二人とも掴まれっ!」

「「お、おぉおおおぉぉおおお!?」


一気に魔力を放出し、ケセラセラで模倣したのはタモツの土魔法とメグの空気魔法。

暴れ狂う白い大猿は一旦放置して、大猿の群れから距離を取る為に自身を打ち出す様にして斜めに生成した土柱と二人を運ぶ為の補助として空気の膜で抵抗を減らし距離を稼ぐ。


咄嗟の事で方向や力加減まではコントロール出来ず、地面に転げ回り着地を果たした三人を待ち受けていたのは狂気に満ちた大猿の群れの姿。


この空間を囲むように存在する密林の合間から見える狂気に満ちた赤い目が迫ってくるのだ。

それも数匹なんてものではなく、視界の入る範囲で確認出来るだけで数十匹。


「撤退するぞっ!!」


言うが早いか動くが早いか、立ち上がると同時に階層境界へと駆け出すカケルを追う形でリュウと共に走り出せば、密林の奥から迫る脅威。


メグとユイは階層境界付近に退避出来たらしく、カケルの声を聞いてすぐに撤退の準備に取り掛かっている。

自分達も距離はそれなりにあるが、突破力のある三人が揃っている為、階層境界まで辿り着くのは無理では無い。

位置的にマズいのはタモツである。


後方に敵を流さない様に、前衛のカケル達をサポートする為に、広場の中心部まで食い込んでいたタモツは凶化した大猿達に絡まれ撤退出来そうにもない。


一気に魔力を放出した反動により全身を襲う倦怠感を噛み殺し、走りながらに魔力を練り上げていく。


「カケルっ、俺はタモツの援護に回る!さっきの要領で階層境界まで飛ぶから先行しててくれっ」

「メグっ、避けろっ!!」

「「えっ?」」

「はっ?何言って...。」


-ずがぁあぁぁぁあああんっ!


絶望が牙を剥く。

ゲラゲラと愉しそうに笑う白い大猿の巨躯と大猿の群れに押し潰された階層境界がミシリッと嫌な音を立てるが、流石は神の作ったダンジョンと言ったところか。

撤退の難易度は跳ね上がったが、階層境界は消失する事なく大猿達の背後に存在してくれている。


「無事か?」

「...無事だけど、衝撃でユイが気を失った。」

「撤退するのも命懸けなんて聞いちゃいなかったぜ。流石にマズい展開か?」


大猿数匹を片付けてタモツを連れ戻れば、気絶したユイと細かい傷を負ったメグの姿。

状況がどうであれ二人が無事だった事を素直に嬉しく思っていれば、渋い顔をしたカケルが作戦とも呼べぬ策を絞り出す。


「さっきハジメが使ったぶっ飛ぶ魔法で階層境界前から一瞬でも押し退けて、土柱をリュウが破壊しながらそのまま雪崩れ込む形で撤退する。」

「気絶したユイは誰が?」

「俺とタモツで運ぶ。ハジメとリュウは自分の役割をしっかり頼むぜ。」

「分かった。」「任せとけ。」


徐々に狭くなる大猿達の囲いも作戦を決行するのに支障が出る位置まで来る寸前の為、綿密に作戦会議をする事も出来ず、最低限の流れを理解してあとは出たとこ勝負。


「行くぞっ!」

「「「応っ!」」」


体内で圧縮生成した魔力を一気に解き放ち、模倣魔法を発動させる。

炎・空気・衝撃・土魔法を同時に発現させ、白い大猿とその取り巻きの大猿達を上空へと押し上げる。


タイミングを見計らい駆け出したリュウの右腕に視認できる程に濃密な魔力が纏われたかと思えば、響く破壊音。


降り注ぐ土塊を回避しながら階層境界目指して駆け出す。

ここまでは作戦通り順調だった。


土魔法と衝撃魔法で上空へ打ち上げ、炎と空気魔法で滞空時間を大幅に伸ばす。

打ち上げるのに使った土柱はリュウが一撃で打ち壊し、狙い通りに階層境界への道は開かれた。


ただ一つの誤算は、白い大猿が魔法に似た何かを使用した事くらいだろうか。


-ズドン。


その音がやけに不吉に思えて、音の発生した方へと視線を向ければ倒れ込むタモツとメグの姿。


何かを必死に叫ぶカケルの姿と背中に走る悪寒を信じて全力の回避行動。

次の瞬間に先程までいた場所に深々と食い込んでいるぼろぼろの鉄杭に驚く。


とりあえずメグとタモツを助けなければと駆け出せば、すでに階層境界まで辿り着いたリュウが魔力を滾らせ降り注ぐ土塊と鉄杭を吹き飛ばす。


それが目眩しになった瞬間を狙い発動するのは姿を隠せる魔法<陽炎>と衝撃魔法。


「リュウっ、先に行けっ!」

「あぁ!?くそっ、待ってるからな!」


ユイとカケルに陽炎を掛け、倒れた二人はリュウに投げ付ける形で衝撃魔法で押し出せば、上手く受け止めたリュウがそのまま二人を抱えて階層を脱出。


標的を見失った白い大猿のヘイトが全てこちらに向かうのを痛いほど感じながらカケルに脱出を促す。


「不完全な陽炎だから長くは保たない。早くユイを連れて脱出してくれ。」

「...お前はどうする気だよハジメ。」

「そりゃみんなを救ったヒーローとして堂々と凱旋するさ。」

「これは俺のミスだ、俺自身で責任は取る。」

「陽炎は視界を遮った状態でもなければ効果を発揮しないんだよ。ユイの事を頼む、今じゃ俺以上の文献-ラノベ-好きだから頼りになるぜ?」

「どうしても譲らねぇんだな?」

「簡単に死ぬつもりは無いさ、検証班のファンタジー担当だぜ?切り札の一つや二つ隠し持ってるさ。...もう時間が無い、早く行けっ!」


苛立った様に鉄杭を撃ち込んでくる白い大猿が、長い滞空を終えて上空から戻ってくる。


それに対峙するのは俺一人。

せめて全力で足掻いてやろうと、鬼の呪印に魔力を満たす。

昨晩、リュウの刻印を剥いだ時からずっと感じていた疼痛は、魔力を与えれば大人しくなる。

その代わりに腕全体を覆う様に伸びた鬼の呪印は肩を、胸を、半身を、とどんどんと身体を侵食してくる。


そして全身を侵食されてしまえば、異様なまでの暴力的な思考に侵される。


ミチリ、と全身の筋肉をしならせ打ち出す一撃は迫ってくる大猿を易々と倒していき、瞬く間に数匹の大猿を粒子へと変える。


やや警戒する白い大猿を睨み付けながら鬼が吼える。


鬼の呪に頼り、バケモノへと姿を変えたハジメの孤独な戦いが今始まる。



ニートのダンジョン攻略記。

鬼の呪印に自ら呑まれたハジメは、かつて対峙した大鬼の様な圧倒的なチカラを手にする。

だがそれは同時に人である事を捨てる事にもなり、撤退した仲間達との別れでもあった。

次回、悲しみの咆哮、宿る希望。

乞うご期待。

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