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止まらぬ快進撃と階層主。

カケルの無茶を切っ掛けにダンジョン攻略のスピードは段違いに上がって、メンバー内に流れる空気も詰まっていた頃より穏やかである。


戦闘時にある悪環境のストレスは変わらないが、以前の様にギスギスした雰囲気は薄れ、それは討伐に掛かる時間に大きく響き、体力的にも精神的にも攻略を後押ししてくれている。


進む道が分かっている以上、極力最低限の戦闘で済ませるという前提もあり、魔力を惜しみなく使ってカケルへの負担を減らそうとするハジメの働きは凄まじく、鉄杭を撃ち出す魔法は的確に立ち塞がる大猿達を倒して行く。


「ったく、初っ端からそうやってしてりゃ無駄な時間過ごさなくて良かったのによ。」

「リスクがある以上は慎重になって当然だろ。それとも仲間より攻略が優先か?リュウ、そろそろいい加減にしろ。」

「そりゃそうだが、実際こうやって上手くいってるんだから愚痴の一つくらいはいいだろうが。」

「普段のお前ならそんな風には言わないだろ、本当どうしたんだよ。」


17階層を越えるタイミングでリュウの愚痴とそれを宥めるタモツの声が聞こえてくる。

もはや恒例となりつつあるリュウの悪態に一々反応するのも馬鹿らしく感じ、そそくさと横をすり抜け階層境界を越えてしまう。


僅かな違和感の後には、これまでと同じで攻略の行く手を遮る密林地帯が広がる。

分かりきってはいたが、はぁ、と溜め息をひとつ零した後でカケルの補助をせねば、と頭を切り替えて体内に巡る魔力を立ち上げてカケルへと歩み寄る。


「さて、ぱぱっと済ませて休憩にしようかー。」

「流石のカケルも魔力枯渇は厳しいみたいだね。」


魔石を手渡しつつ、ケセラセラによる補助でカケルの身体に魔力を満たす。

カケル自身も魔力を立ち上げており、高密度の魔力を纏ったカケルが道を示す。

出来るだけ正確な方向を記録して、意識を失い倒れ込むカケルを受け止め休憩時間に。


「...毎回倒れるのどうにかならないの?」

「カケルの魔力量が倍くらいまで上がればどうにかってとこじゃないかな?」

「...今こそハジメ大先生の出番。」

「メグまでそんな風に言うなって。俺なんてその辺に幾らでも居る凡人なんだから無理なものは無理なの。」


不満気な表情でカケルの看病に勤しむメグを視界から外し、休憩時の軽食と飲み物を準備しているユイの手伝いに回れば苦笑いで迎え入れられる。


「ご苦労さま。こっちの準備はほとんど終わってるからゆっくりしてていいよ。」

「全部任せちゃってごめん。リュウがあの調子だからって、無理してあのチカラを使わなくても良いのにね。」

「どっかの誰かさんみたいに三日も昏睡しないから気が楽ではあるけどねー。」

「あの時はまだ若かったんだよ。」

「なにそれ、まぁ今となってはいい思い出なのかもね。はい、コーヒーどうぞ。」


ありがと、と淹れたてのコーヒーを受け取り冷ましながら啜っていれば、目を覚ましたカケルが気怠そうにこちらへと向かってくる。


かつて何度も味わった魔力枯渇の気怠さを思い出して渋い顔をしていれば、呆れた様に笑いながら隣へと座るカケル。


「何て顔してんだよ。これまでサボってたツケが回って来ただけだ、この程度なんて事ねぇよ。」

「魔力枯渇の気怠さを思い出してウゲーってなってただけ。毎度毎度ご苦労さま。」

「とりあえず20階層まではこの調子で一気に進む気だけど、問題は階層主戦だよな。正直、どうよ?」

「一回当たってみないと何とも。ただ、他のチームが足止め食らってる以上は一筋縄ではないんだろうね。」


んー、と唸るカケルの回復を待って、18階層攻略を再開すれば、溜まった鬱憤を晴らすかの様な豪快なリュウの活躍と階層境界の距離が近かった為に、あっという間に18階層を攻略出来てしまう。


カケルの魔力が回復しきっていないのと、不慣れな環境で溜まった疲労もあり19階層の境界付近で拠点を張り今日のダンジョン攻略は終了となる。


まだ暴れ足りない様なリュウが不満そうな表情を浮かべ反対意見を出すも、メグとユイに一蹴され天幕の中に戻る姿は少しだけ可哀想にも見えた。


「悪くないペースだ。明日の朝から動けば遅くても昼過ぎには20階層に挑める。」

「食糧的にもまだ余裕があるし、猿神さまに感謝だね。」

<ふむ、ならばクッキーとやらを妾にも寄越せ。>

「...クッキーくらいは構いませんが、いきなり現れてどうされたんですか?カケルが呼んだの?」

「いや、呼んだつもりはないけど...え?俺が呼び出したのかな?」

<このクッキー実に美味よな。対価としてはやや不足気味ではあるが、まぁ良いか。今回来たのはお主らに警告をしに来たのじゃ。鬼の呪は人を狂わせ破滅を招く、せいぜい呑まれぬ事じゃ。お主らも、そして仲間達もな。>

「鬼の呪、ですか。」

<これ以上は相応の対価を貰う事になる故、この辺で戻るとしよう。では達者でな。>


いきなり現れた猿神さまに困惑していれば、あっという間に消えてしまい、カケルと顔を見合わせ苦笑いを浮かべる。


文献-ラノベ-の知識では猿神といえば、斉天大聖孫悟空という有名処が一番に浮かぶが、他にも予知だったり、吉凶を届けたりと未来を見通すチカラを持っている猿神も存在していた。


自身が会った猿神さまは流石に孫悟空では無さそうなので、後者の方だと仮定すれば辻褄は合う。


とすれば、鬼の呪印を持つ自分とカケルが非常にマズい。


「カケルの呪印に変化は?痛みとかは?」

「いや、俺の方はなんとも無いが...ハジメは?」

「俺の方も抑えてるから問題は無い...もしかしてリュウの刻印かっ!?」


色々と思い当たることがあり、慌ててリュウの方へと駆け寄れば怪訝な顔でこちらを見るリュウと不思議そうなタモツの姿。


「リュウっ、腕の刻印を確かめさせてくれ。」

「おうおう、いきなり来てどうしたんだよ。腕くらい見せるのは構わねぇが一体何だよ。」

「いいから、すぐに見せろ。」


強引に腕を取り袖を捲れば、見えたのは本来は綺麗な青色の刻印が今は黒に侵食されつつある濁った刻印。


濁った刻印の元凶は鬼の呪印をモチーフにした部分からの侵食が原因であった。

新装備を考える際に鬼の呪印の持つ魔力伝達を取り入れようと部分的に参考にしたのがマズかったのだろう。

先日から続くリュウの悪態も鬼の呪の影響の所為だと思えば納得がいく。


とりあえずの処置として刻印を剥がしてしまおうとすれば、当然リュウが抵抗を見せる。


「ちょっ、何で暴れるんだよ!?これは明らかにマズいだろ!」

「そりゃ暴れもするだろっ!?いきなり何する気だよっ!」


仕方無しに以前自分に使った拘束魔法でリュウを拘束して、無理やりに腕から刻印を剥がしてしまう。


その際に異様な抵抗を感じたが、止む無しと考えて続けたまでは良かった。


無事に刻印を剥がし終え、リュウに細かい事情を説明すれば、どこか憑き物が取れた様な顔であっさりと納得したリュウに拍子抜けしてしまうというアクシデントはあったものの、鬼の呪による影響は最小限に抑えられたと考えていた。


そして、激動の朝を迎える。



ニートのダンジョン攻略記。

猿神さまからの御告げにより危機を脱したと思っていたギルドメンバー達だったが、鬼の呪はそう簡単に祓えるものでは無かった。

次回に続く。

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