止まらぬ快進撃と階層主。
16階層へと足を踏み入れたギルドメンバー達だったが、思った以上に待ち受けていた環境が厳しい。
ここまでの階層以上に深く、そして想像以上に足場の悪さが目立つ。
戦闘時の踏み込みは浅くなり、回避や移動での立ち回りで消耗していく体力がとにかく多い。
「ぜぇぜぇ、ったく足場が悪過ぎてまともに踏み込めねぇ。」
「だな、ここまで来るだけで一苦労だったのに、次への階層境界は未だ発見出来てない。これは本気でマズい展開だぞ。」
「早々に撤退の算段なんか立てんじゃねぇよカケル。大体、こういう時の為に後衛で控えてる奴がいんだろうがっ、とっとと打開策考えろや。」
「ウッキー。」
「舐めてんのかっ!?」
「なら俺が前衛で戦うからリュウが後衛で打開策を考えたらいいよ。碌にマッピングも出来てない状況で迷うのは当然だし、階層境界の場所なんて誰も分からないのにどうすりゃいいのさ。」
出発前から荒れ模様だったこともあり、思い通りにいかない攻略にギスギスした雰囲気は加速していく。
そんな事は御構い無しとばかりに、密林地帯にウンザリとした顔で索敵に移るメグ。
そんな彼女が告げたのは、終わったばかりだというのに次の襲撃。
「...中型が5体接近してる。」
「くだらん喧嘩はそこまでにして二人とも襲撃に備えろ。」
「分かってるっての。」
疼く左腕を抑えつつ、迫る襲撃者を迎え討つ為に備えておく。
密林特有の湿気が多くて、得意の炎は勢いを失ってしまう為に使える手段は限られている。
武器で戦おうにも生まれてこのかた喧嘩も碌にした事も無いのにモンスター相手に対峙出来るはずもなく、近接戦闘の手段は消える。
ケセラセラによる模倣魔法は連発しようものなら魔力の消耗が凄まじい事になる為、普通の戦闘で使用するのは中々に厳しい為に、これも無し。
打つ手無しか、と白旗を振りながら前衛のメンバー達に軽い強化を掛けながら、一応の備えに魔力を立ち上げておき最悪の状況への対処だけは想定しておく。
「さっきと同じ様にタモツが抑えて、俺とリュウが各個撃破してすぐに行く。メグは戦況を見つつ援護で、ハジメとユイは危ない場面があれば手段問わずに介入してくれ。」
「「「了解。」」」
「はいはいっと。」
現れた大猿の内の三匹を大盾と障壁でその場に抑え込むタモツ、木の根や泥濘みで踏ん張りが効かない場所でも魔法を最小限で使用して器用に立ち回る姿に安心感を与えられる。
あっと思うような際どい場面もメグの強弓が睨みを効かせており、木に登って高い位置から油断無く戦場を見つめるメグの援護射撃も前線の安定感を支える要因の一つである。
残りの大猿は、変幻自在に戦場を駆け回るカケルとインファイトで対峙するリュウが一体ずつ受け持っている。
カケルはその身体能力を活かして敵を翻弄しつつ、着実に敵を削っていくスタイルの為、足場の悪さと視界の悪さに苦戦しつつも被弾無しで大猿を相手にしている。
リュウは得意の格闘技と衝撃属性を組み合わせたインファイトを展開するも、踏み込みが浅く自慢の強烈な一撃は威力を殺され、密林に慣れた大猿のトリッキーな動きに振り回される場面も少なくない。
このままではタモツの負担が大きいか、とケセラセラに魔力を込めて模倣魔法を発動させる。
圧縮した空気を解放した瞬間のエネルギーで魔法金属を射出。
暴風を纏った鉄杭がタモツが抑えている大猿へと迫るも、ギリギリで気付かれて致命傷には至らない。だが、そんな隙だらけの大猿を逃すメグではない為、強弓の餌食となり粒子へと変わっていく。
次の鉄杭はタモツのフォローもあり見事命中し一撃で大猿を粒子へ変え、残り一匹はメグの射撃とタモツの大盾に仕込まれた鉄杭に貫かれて粒子へと変わっていく。
-ズガァァァァアアアアンッ!
そのタイミングでリュウの戦っている方から破壊音が響く。
様子を見ていたユイが、細かい傷を幾つも負ったリュウへと駆け寄っていく。
「だぁああ!ピョンピョンと逃げ回りやがってめんどくせぇ!大人しく死んどけやっ!!」
「随分荒れてるね、レピィ回復お願い。」
「回復なんざ後回しで構わねぇ、残りをやらねぇと。」
「向こうはメグとハジメで片付けたから戦闘は終了。怪我人は大人しく治療を受けて、レピィが怖がってるから。」
少し離れた場所で戦っていたカケルが戻ってきたところで、ただ消耗していく現状を変えるべくハジメが動く。
「カケル、このままじゃ碌に進めない。いっそのこと全部薙ぎ倒すか焼き払った方が早い。」
「おまっ、随分と荒っぽい方法考えてるな。コストのリスクもあり過ぎて当然却下だアホ。」
「でもこのままじゃこの階層すら突破出来ないまま撤退なんて事もあり得るぞ?」
「分かってる。ハジメには散々無茶をさせてきたから、次は俺が無茶する番だろ?任せとけ、猿神さまの恩恵を使えば簡単に攻略出来るさ。」
パチリ、と自信有り気にウインクまで付けて返事をしてきたカケルを訝しげに見ていれば、カケルから立ち上る高密度の魔力。
金色に変化したカケルの瞳がキョロキョロと周囲を伺ったかと思えば、ある方角を指差した後、崩れ落ちる様にしてカケルが地面へと倒れ込む。
地面に倒れ込む寸前でどうにか身体を支えるも、突然の出来事にプチパニックに陥ってしまう。
「ちょっ、誰かユイ呼んでっ!」
「...すぐに呼んでくる。」
「タモツ、悪いけど支えるの手伝ってくれ!この体勢だと支え辛くて落としちゃいそう。」
駆けていくメグを確認した後、タモツに手伝って貰いながらカケルを木にもたれ掛からせて座らせる。
倒れた時の状況とカケルの症状から、魔力の枯渇なのではと考えて先程の戦闘で手に入れた魔石をカケルの手に握らせる。
駆け付けたユイに状況を説明した後、カケルは任せて指差した方角について考える。
直前の会話から察するに、猿神さまから得たチカラを使った事と次の階層への道を探していたのは分かる。
つまり、指差した方角に階層境界があるというのが一番に浮かんだ考え。
そうだ、と記憶が鮮明な内にカケルが指差した方角に向けて印を付けておく。
レピィの回復と握らせた魔石によってすぐに復帰したカケルに確認してみれば、猿神さまのチカラを一時的に借りる様な能力らしく、膨大な魔力と引き換えに吉凶の報せを届けるらしい。
「無茶し過ぎだよバカヤロウ。」
「いつもとは逆の立場になっただけだよバカヤロー」
「二人共大馬鹿野郎だから安心しなよ。」
ユイの厳しいセリフに顔を見合わせながら苦笑いを零し、指差した方角に向け足を進めていく。
ここから攻略が加速していく。
ニートのダンジョン攻略記。
猿神さまから得たチカラの正体とリスク、そしてその有能さを知ったギルドの快進撃がここから始まる。
次回もお楽しみに。




