止まらぬ快進撃と階層主。
猿達とのどんちゃん騒ぎを終え、随分と減ってしまった物資の補充の為に地上へと戻ったギルドの面々は、身体を休める為に数日の休息が与えられた。
そんな中、散々に騒ぎ散らかし後に到来する一抹の寂しさを久し振りに思い出し、一人苦笑いを溢すハジメを不思議そうに見るユイ。
「...楽しかったね、まさかダンジョン内であんなに騒げるなんて思いもしなかった。」
「そうだね。猿達もモンスターなのにあんなに仲良くなれるとは思ってなかったよ。カケルの人望もここまで来ると恐ろしいよね。」
「ふふっ、確かにそれは言えてるかも。猿神さまもカケルだけに加護を与えたみたいだし、選ばれし勇者みたいな存在なのかも?」
「カケルが勇者か、それなら俺たちは勇者パーティーの一員か。なんかやる気出てきたかも。」
そんな他愛無い話で寂しさを紛らわせてくれるユイの心地良い優しさに甘えて、簡単に揺らいでしまう自分を保つ。
こんなにも自分を思ってくれる人が隣にいるから大丈夫だと必死に言い聞かせ、小さく疼く呪印を落ち着かせる。
「そろそろ戻るよ。わざわざありがとね。」
「ハジメは寂しがり屋さんだから心配だったの、もう大丈夫そうだね。」
「え?俺って寂しがり屋認定されてるの?」
「え?自覚無かったの?すっごい顕著な例として挙げられる位に分かりやすい寂しがり屋さんだよ?それにさっきも落ち込んでたし...?」
「そ、そっか。そんな寂しがり屋に見えるのか。まぁいいや、今日のとこはおやすみ。」
「うん、おやすみ。」
一人になれば戻ってくる若干の寂しさも、自室の扉を開ければ吹っ飛んでしまう。
まるで自分の部屋だと言わんばかりの堂々とした振る舞いで部屋を占領する男の存在。
この男は、宴会の席で言ってはならない禁断の台詞を口走った所為で、恐怖の大王メグが降臨させ彼女のあまりの恐ろしさに速攻で寝返り敵となったカケルと猿達に押さえつけられ顔面をフルボッコにされたアホな男、その名もリュウである。
「人の部屋で何してんのさ。」
「ん?イチャイチャしてるとこ邪魔すんのは野暮かと思って、気を遣って部屋で待っててやったんだよ。」
「...そこに気を遣えるなら宴会の席でもそうしろっての。」
「あー、あれは失敗だったな。まさかあそこまで怒ると思わなかったからよ。」
カラカラと豪快に笑うリュウに呆れながら、自室まで押し掛けてきた理由を尋ねる。
「カケルが進めてる冒険者制度の事だよ。半年遅れでスタートした俺らの攻略ペースはそう悪くねぇのに、なんでカケルはあんなに焦ってんだ?」
「それはカケルに聞いた方が早いんじゃない?」
「カケルに直接聞いたが納得出来ねぇから、ハジメ大先生に教えを請いに来たんだろぅが!」
「...あくまでこれは俺の予想だけど、組織もカケルもスタンピードを警戒してるんだと思う。」
「あぁ?スタンピードは入り口を塞がなけりゃ起きねぇんだろうが。」
「これから先もそうとは限らないってことだよ。」
これまでのスタンピードはダンジョン攻略を諦めて、入り口を塞ぐ事を禁止する為に起きていた。
だが、四年という期間をただ放置されることが許されるだろうか。
一定期間放置されたダンジョンは暴走するのではないか、それを警戒した組織と和田は、スタンピードが起きた際に巻き込まれないようにギルドの攻略するダンジョンをこんな辺鄙な山奥に決めたのだ。
そう説明すれば、魔力が漏れ出るほどに怒りに染まったリュウが部屋を出ようとする。
原因を作った張本人としてはそれを素通りさせられるほど無責任ではいられない。
「リュウ、一旦落ち着けよ。」
「テメェも知ってたなら同罪だぞハジメ大先生よぉおお!!」
「あくまで可能性だし、俺たちが呑気に寝てる間もカケルは走り回って冒険者制度の為に動いてる。何もしてこなかった俺たちが文句を言うのは筋違いだろ」
「対策本部では逃げ出して、スキャンダル騒ぎでは迷惑掛けたオメェが言える事じゃねぇだろっ!」
「っ!?ならもう好きにしろよっ!」
リュウを部屋から追い出し、必死で落ち着こうとすれど心の騒めきは収まらない。
-ドクンッ
左腕の呪印が脈打つように暴れ出すのを抑え込もうと方法を模索しようと頭を働かせるも、浮かんでくるのは暴力的な思考のみ。
このままではまずいと思い、ケセラセラに魔力を送り込みタモツの魔法を再現。
タモツの魔法は文献-ラノベ-の中で土属性と呼ばれる属性に近い性質を持っている。
基本的には土や鉱物に干渉出来るチカラで、大鬼戦では見上げるほどに高い土壁を作り上げたり、戦闘時に敵の攻撃を受ける際には大盾の下部に杭を生成して踏ん張れるようにしたりと割と使い所の多い魔法である。
そんな魔法を再現した理由はただ一つ。
十分な魔力をケセラセラに込めて自分を巻き込むように土で包み込む様に拘束する為である。
ギチギチ、と音を上げながら締め付けてくる魔力を媒体に生成された金属によって自身を拘束。
暴走気味な左腕はより重点的に拘束を行えば、ボテっとその場に転げて身動きが取れなくなる。
その直後に完全に暴力的な思考に支配されてしまい暴れ始めるハジメ。
ギリギリで間に合った拘束具がハジメの動きを阻害してその場で跳ね回るだけに留まる。
そのまま床でジタバタとしながら一晩を過ごしたハジメだった。
ニートのダンジョン攻略記。
カケルや組織が想定しているスタンピードへの懸念を知ってしまったリュウとの衝突。
それによって起こってしまった呪印に秘められた暴走を間一髪で抑え込んだハジメだったが、今夜の出来事はハジメ、そして不信感を募らせたリュウにどのように影響するのか。
次回へ続く。




