さらば友よ、絆は永遠に。
明らかなオーバーキルにやり過ぎたか、と苦笑いを零しながらも、15階層攻略を素直に喜び少しだけ疲れた様子のリュウとハイタッチを交わし後続のメンバーを待つ。
「ド派手にかましたなっ!いいとこ取りどころか手柄独り占めとかやり過ぎだよバカやろー!なははっ!!」
満足気な二人にお褒めの言葉と共に、飛び付く様にして駆け寄ってきたカケルとお互いに拳をぶつけ合い勝利を喜ぶ。
「それで拠点に戻るの?それともこのままダンジョン攻略を続行?」
「当然ダンジョン攻略を続行するさ。誰も負傷してないし、他のチームが足踏みしてる間に一気に行けるとこまで行くだろ。」
「りょーかい。」
メグの悲しそうな表情はスルーしてクリスタルでの帰還ではなく16階層へと足を進める。
階層間の境界を越える際の違和感が過ぎた後、いつまでたっても慣れない密林ならでは湿った空気が出迎えてくれる。
予想していたとはいえ、変わり映えしない密林地帯に多少がっかりしながら小猿を待つが、いつまで経っても小猿の姿が現れない。
「カケル、猿達はどうした?」
「いや、俺にもさっぱり分からん。とりあえず一回戻って話し聞いてみるか。」
15階層へと戻れば、必死に境界線を越えようとする猿達の突撃とタイミングが被ってしまい、鳩尾に強烈な頭突きを受ける羽目に。
そのまま押し戻される様にして16階層へと戻るも、抱えていたはずの小猿の姿が無い。
もしやと思いながらも再び15階層へ戻れば、カケルを囲む小猿達の大合唱。
「「「ウキャキャ、ウキキー!!」」」
「そっかそっか、ご苦労さん。ここまで案内してくれてありがとな。」
「「「ウッキーーーー!!」」」
「全員聞いてくれ、コイツらが付いて来れるのはどうやらここまでが限界らしい。出会いは微妙だったけど、猿神さまと出会えたのも攻略がスムーズに進んだのもコイツらのお陰だ。だから攻略は一旦ストップしてコイツらにきっちりお礼をしたい。スッゲェ我儘だけどダメかな?」
小猿の一匹一匹を労う様にして頭を撫でるカケルの姿に、何となく状況を把握して溜め息ひとつ。
「...猿達のお陰で楽が出来たし、異議無し。」
「猿達には世話になったし、パァーッとやるのも悪かねぇわな。」
「宴会を開く為の食糧はたっぷりあるし、階層突破のお祝いも兼ねて宴会でもしようか?」
「カケルの指示で食糧はたっぷりあるから問題無いよ。」
「俺も賛成だ。」
すまん、と答えたカケルが猿達にいくつか指示を出した後で深く息を吸い込む。
「今夜は宴会だぁぁあああ!」
「「「ウッキー!!」」」
カケルの号令で動き出し、ユイと二人で食糧ぜんぶ使い切る勢いで料理を作り始めれば、キャンプファイヤーでもするかっ、と意気込み薙ぎ倒した木々を重ねていくリュウとそれを囲む様に魔法で簡単な座席を作るタモツ。
カケルとメグも料理に参加して、みんなでワイワイと盛り上がりながら宴会の準備をしていれば、大量の小猿達を引き連れ現れたのは猿神さま。
<随分と楽しそうな事をしておるの、妾も混ぜて貰って良いかの?>
「こりゃまた随分と大物が来ちまったな。流石に御神酒までは準備してないぜ?」
<構わん、眷属の楽しそうな姿を眺めに来ただけよ。>
「さいでっか、それならどうぞご自由に。」
まさかの神様登場に慌てたのは料理班。
ユイと二人で御神酒もどきと御供え出来そうな食材を準備しようとアタフタしていれば、軽い感じで顔を出した猿神さまから一言。
<妾は俗世に近い神じゃから、凝ったものでなくて構わんぞ?因みに好物は梅の入った握り飯じゃ>
「そ、そうなんですか?では梅のお結びを用意しておきますね。」
<うむ、宜しく頼む。>
まさかの猿神さまからの注文に慌てて梅のお結びを作りだすユイを尻目に、興味深そうにハジメの左腕を見る猿神さま。
<そなた、その呪印どこで受けた。>
「え?ああ、これはダンジョンで出会った大鬼から受けたもので、これをご存知なのですか?」
<うむ、遥か昔に良く似た呪印を見た覚えがある。酒呑の小僧が顕現した際に気に入った相手に込めておったわ。>
「猿神さまなら、これの解呪は可能ですか?」
<やれん事もないが、神が干渉すればそれだけの対価を支払わなければならん。末代まで妾に扱き使われるのは堪らんじゃろ?>
「それは...。」
<その呪印は負の感情を好む。心まで呑まれぬよう、せいぜい心を強く保つことじゃな。ではの。>
「ご忠告感謝します。」
猿神さまに忠告を受けた呪印の特性と会話の中で出て来た酒呑という鬼について考える。
文献-ラノベ-でも比較的多く登場する酒呑童子と呼ばれる大鬼。
その強さは凄まじく、どの文献も最強の鬼として描いている事が多く、弱点と言えば大酒飲みという点だけ。
毒入りの酒を飲ませ弱った所を狙い討伐したという伝承も残っているが、10階層で出会った大鬼が酒呑童子と決まってはいないし、大人しく酒を飲むとも思えない。
自身の1番の武器である文献の知識も役に立たない事に、ふぅ、と溜め息をひとつ洩らせば、お結びを作りながら心配そうにこちらを窺うユイに気がつく。
「そんな心配そうにしなくても大丈夫だよ。何か言われた訳じゃないし、解呪自体はダメ元で聞いてみただけだしね。」
「そっか、それならいいけど。一人で無理はしないでね?」
「ああ、今はとりあえず猿達が涎まみれになる前にご飯を作ってしまうのが先決だね。」
こちらを待ち遠しそうに見つめる猿達が良い加減可哀想になってきたので、作るペースを早めてささっと仕上げてしまう。
ダンジョン内は太陽が届かないはずなのに、外世界と同様に徐々に暗くなっていく不思議を今だけは堪能しながらキャンプファイヤーに火を灯す。
生木だからどうかと心配したが、ダンジョン産の木々は魔力が含まれているようで下手な灌木より火付きが良い。
メラメラと燃え上がるキャンプファイヤーに照らされながら宴会が始まる。
「オマエらのお陰で迷う事なくすんなりとここまで来れた。ここで別れる事になるが、オマエらの事は忘れねぇ!礼と言っちゃなんだが、今日は好き放題飲み食いして盛り上がっていこうや、乾杯っ!!」
「「「ウッキー!」」」
「「「乾杯っ!」」」
葉っぱで作った大皿に山ほど盛られた料理を、口いっぱいに頬張る小猿達を見てケラケラと笑いながら、自分達も料理に手を付けていく。
時間の関係で多少の手抜きもあるが、それでも美味しいユイの料理とこれぞ男の料理と言わんばかりの豪快で大味なカケルの料理。
どちらも美味しいが、唯一誰にも手をつけられないのがメグの作った物体Xもとい暗黒物質。
食材が本来持っていたはずの色を黒く染め上げたメグの作り出した逸品は、どこまでも黒い。
その黒さが一体どこから出て来たのかは誰にも予想出来ないほどにドス黒いその姿と食欲旺盛な猿達すら一匹も手をつけない異常性に気がついてしまえばそっと目を逸らさずにはいられない。
暗黒物質から視線から外せば、そこには楽しそうにはしゃぐ猿達とそれに混ざって騒ぐカケルとリュウの姿。
視線を戻せば、その一画だけ静けさが支配する暗黒物質コーナー。
「なぁユイ、もしかしてメグって...」
「それ以上先を言わないで。私も想像以上の出来栄えに絶句してる一人なの。」
「あーそっか、なら仕方ないね。」
......。
..............。
まさか最後の最後まで手を付けられないとは誰が予想出来ただろうか。
もしかしたら、なんて甘い考えを持って近付いたであろう一匹の猿が暗黒物質に近付いた後で手を伸ばさずに戻って来た場面を見てしまえば、冗談でも食べてみろとは言えない。
「よしっ、そろそろお開きにするか!」
「「「ウッキー!!」」」
「だな、どうせ騒ぐなら酒を用意しときゃ良かったな。」
「酒は流石に怒られるって。」
「「「ウキキー」」」
「猿達にも言われてんぞ。」
「生意気な小猿どもめ、アレ食わせるぞこら」
「「「....。」」」
場が凍りついた瞬間でした。
ニートのダンジョン攻略記。
ここまで案内役として活躍してくれた猿達との別れ。
カケルの願いによって開かれた宴会は概ね大成功に終わり、ダンジョン攻略へ向かい歩き出す。
次回、止まらない快進撃と階層主。
乞うご期待!




