可愛いあの子に首ったけ。
新装備の調整も兼ねた久しぶりのダンジョン攻略は、現在苦戦の真っ只中にあった。
出発してすぐの頃は新装備のお披露目など心踊る様な事が多々あり、メンバー全員が楽しげにしていたのだが、木の根などで凹凸が激しい足場に加えて密林特有の湿った空気、先へ進めば進むほどに普段以上に疲弊してしまい、楽しげな雰囲気は一転して口数は減っていく。
そして極み付けは虫の存在。
ブンブン、と纏わりつくように周囲を飛び回る虫は非常に鬱陶しく、メンバー内で誰よりも嫌悪感を露わにするメグの苛立ちは相当なものがある。
それは索敵の精度を著しく低下させ、その隙を狙ったかのような敵襲が更に空気を悪くさせてしまう。
「っしゃ、これで終わりっと。階層が変化したけどそこまで強くなった様には感じないな。どちらかというとこの環境のほうが強敵だな。」
「...ごめん、次は絶対に見逃さないから。」
「なははっ、誰だって苦手なもんの一つや二つあんだから気にすんなって。ハジメもムカデが苦手だし。」
「ムカデは誰でも苦手だろ。あの奇妙なフォルムに異様なまでの脚の数、そして咬まれた時の尋常じゃない痛み。あれを好む人間はそうそう居ないって。」
カケルの慰めもほとんど効果を見せず、沈んだ様子メグの姿にどうしたものかと悩んでいれば、横から立ち昇る魔力が集束し放たれる。
バキバキと密林の木々をまとめて薙ぎ倒した強烈な一撃によって出来上がった拓けた空間。
「オイっ、葉っぱが邪魔だから適当に刈ってくれや。あちぃし足も疲れたしここらで一旦休憩しようや。」
「えらく豪快にやったな、まぁ見晴らしが良くなって丁度良いか。よしっ休憩!!」
少々乱暴なやり方で雰囲気を変えたリュウ。
そんなリュウの思惑にすぐさま乗っかり、サクサクと更に斬れ味の増した未完成の聖剣を振るい場を整えるカケルの号令で休憩へ。
薙ぎ倒された木々の枝葉を払う為に、ケセラセラを斧へと変化させてカケルを加勢する。
後ろではタモツが椅子や天幕を組み上げ、密林地帯のど真ん中に簡易拠点を作り出す。
気温も湿度も高い場所での肉体労働は相応のリスクも孕んでおり、慣れない作業で疲れた身体を更に痛ぶるような気候に根を上げてしまいそうになる。
滴り落ちる汗を拭おうと顔を上げれば、タオルと飲み物を持ったユイが近付いてきて労いの言葉と共にそれらを渡してくる。
「ぷはっ、ありがと。これでもう少し頑張れるよ。」
「無理して倒れないでね?」
「流石に倒れはしないけど、明日は筋肉痛の予感をひしひしと感じてるよ。」
「もうっ、筋肉痛治すためにレピィ呼び出したら拗ねられちゃうよ?」
ははは、と二人で笑いながら進めていれば、作業はひと段落。
余った木材を大胆に使用した結果、防備もそこそこな簡易拠点の完成度に皆んなで喜ぶ。
ギスギスしていた雰囲気もどこかへ消え去り、今は楽しげに昼食を囲み作戦会議へ。
「この地形と気候に関しては仕方が無いけど、虫と奇襲は何かしら手を討たねぇと色々とキツいよな。」
「...お風呂入りたい。」
「市販の虫除けスプレーって効くのかな?」
「どうだろ?最初の頃にゴブリン相手にしてた劇薬投与は効果が薄かったから、市販の虫除けじゃ効かない可能性が高いよね。」
市販の虫除けでは効果が出ない可能性はあるが、自作しようにも何をどうすればいいのやら。
うーん、と検証担当二人が頭を悩ませていれば、寡黙だが気の利く男NO.1に輝くタモツから出たバリアという魔法の言葉に閃く。
「...バリアなら作れそうかも。」
「「「えっ?」」」
伊達に二週間も引き篭もりに復帰していたわけではないのだ。
研究課題のに挙げていた防御手段の一つにバリアの作成を試みていたのだ。
未だ完成のは至っていないものの、すでに構想は練られているため、あとはそれを実行するのみ。
「属性相性的に俺の炎じゃ構築出来なかったんだけど、リュウの衝撃系の魔法なら擬似的なバリアを生成出来ると思うんだよね。」
「よりによってオレかよっ!?ったく仕方ねぇ、で?どうすりゃいい。」
普段は検証に参加したがらないリュウを巻き込んだ新装備の作成にワクワクしながら、あーでもないこーでもない、と試行錯誤を繰り返して完成まで漕ぎ着けた時は時刻は明け方。
途中で長丁場になりそうだ、と中止しようとしたが、メグの視線を受ければ言い出せずにズルズルと完成まで粘ってしまった。
ユイと顔を見合わせて苦笑いを零しながら、朝までの短い時間まで仮眠を取ればあっという間に眠りに落ちる。
揺さぶられ目を覚ませば呆れた表情のカケルが熱々のコーヒーを渡してくる。
ふぅふぅ、と冷ましながら啜る一杯がやけに美味しく感じるのは、密林地帯という普段味わえない環境だからか、はたまたやり遂げた達成感からか。
「出来たのか?」
「ああ、流石に大鬼相手には役には立たないけど、虫程度なら軽く弾き返せるよ。持続時間は魔力を込めて2-3時間程度だけど、後から充填するのは誰でも出来るから使い勝手は悪くないかな。」
「上出来だよ、流石は検証担当ってとこだな。」
バシバシと叩かれる背中の痛みとわずかな倦怠感も今は心地よく、全身を襲う筋肉痛だけが憎らしい。
強張った身体を解しながら出発の準備を整えていれば、簡易拠点の入り口に当たる場所に佇む一つの影。
愛嬌を振りまいてこちらを油断させた後に颯爽と盗みを働いた憎い小猿である。
何も言わずに炎弾を生成し、小猿へ向けて放てば慌てたように逃げ出す小猿の姿に少しばかり溜飲も下がる。
その後、全員で朝食とミーティング、そして新装備のバリアのお披露目と説明を行なった後の少し空いた時間。
懲りずに拠点入り口で待ち構えている小猿に、次は本気で炎弾をぶつけてやろうと考えていれば、なにやら必死な様子で何かを訴えかけてくる。
「カケルー、友達が遊び来てんぞー。」
「おー、って馬鹿たれっ。流石に猿の友達はいねぇよ。」
「あれ?じゃあリュ「殴るぞ?」冗談っす。」
朝から楽しい話題を提供してくれた小猿君の事は見逃してあげようと、寛大な気持ちになれたところで、ベチャリ、という子気味のいい音と共に黒に染まる視界。
一瞬の混乱の後、煮え繰り返るほどの怒り。
補助無しでの自身最大の生成数である32の炎弾を宙空に生成し、小猿目掛けて放とうとすれば肩を叩かれ止められる。
何を、と思い振り向いた先に居たのは、同じ様に顔に泥を浴びた男性陣の姿。
「「「ぶっ殺す!!」」」
顔に付いた泥を拭い、新装備のバリアを装着して密林に消えた小猿との鬼ごっこが始まる。
ニートのダンジョン攻略記。
謎のモンスター小猿に翻弄されるハジメ。
そして被害はメンバー達にも及び始め、遂に始まった小猿の命運を掛けた鬼ごっこ。
次回も乞うご期待。




