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組織のノルマとお給料。

この世には、歩合制の給料というものが存在している。

歩合制とは一言で言えば、頑張った分だけ報酬が増えるという夢のようなシステムだ。

だがよく考えてみれば、結果が伴わない場合には、逆に報酬が減るという残酷な一面も持っている悪魔との契約の様なシステムでもある。


では例を挙げてみていこう。

和田雄三、何だかんだと苦労人な彼はくたびれたスーツが良く似合う中年男性。

そんな彼もダンジョン対策本部を辞めた後は、とある組織にスカウトされ、ギルドメンバーの躍進と共にお給料の方もぐんぐん上昇。

冒険者制度の為に各地を奔走する彼の悩みは、お金はあっても使う暇が無いというものである。


御堂カケル、ご存知の通りギルドの代表であり自身も神の試練に挑む凄い奴。

最近の十階層突破により組織からの評価は一段と上昇し、寝る間も惜しんで理想実現の為に奔走する彼のお給料も中々な額である。

和田とは違い、全力で趣味に走る部分がある為か、メグのご機嫌取りの為かは分からないが、拠点の充実に貰った給料の半分近くを注ぎ込んでいるらしい。


そして、この作品の主人公である周防ハジメ。

何かと面倒ごとに巻き込まれやすい彼は、組織の方も評価に悩んでいるのは極秘事項の一つである。

ギルドの検証担当である彼は、相方の久遠ユイと共に日頃から研究に魔石を投じており、本来は組織に納めるはずの魔石すら使用してしまう彼らの研究バカっぷりはもはや狂気すら秘めている。

そんな二人のお給料は魔石を過剰に使用した分を減算され、かなり少ない。

更に実家の両親の為にと仕送りをすれば、もう学生のお小遣い並にまで落ち込んでしまう。


さて、登場人物達の懐事情は何となく察したと思うが、今回起きたスキャンダルによりダンジョン攻略を中断し、自室謹慎を命じられたハジメの今月のお給料を想像してみよう。


騒動が落ち着くまでの二週間。

彼は自室にある研究機材をフル稼働させて取り憑かれた様に研究に没頭していた。

彼が使用した魔石の数は二週間で八十個、ドロップ率3割程度の現状から逆算すればゴブリン240体分もの魔石を使用したのだ。

そんな蛮行にも思えるハジメの行いも、スキャンダルによって傷付いたハジメの気持ちが少しでも楽になるなら、と気を遣った仲間達によって黙認されてしまう。

...地獄の給料明細が届くまでは。



いつも通りに目覚めた朝。

最近はいつも研究資料に埋もれる様に寝てしまう為に身体のあちこちが凝り固まってしまい、目覚めた時にいつも後悔してしまう毎日。


バキバキ、と軽く伸びをするだけで身体が悲鳴を上げ喜ぶ。

もはや毎朝の日課となった準備運動をこなせば昨晩、行き詰まり途中で終えてしまった課題について再考し検証を重ねる。


全ていつも通りのハジメに訪れた変化。

それはノックの音と共にハジメへと襲いかかる。


-コンコンコン。


「はーい、どうしました?」

「ハジメさん、これをカケルさんから預かってます。読んだら一度連絡をするようにとの言伝も」

「分かりました、いつもご苦労様です。」

「いえ、では失礼します。」


最近、ハジメのガード役として活躍してくれている黒服さんと軽い会話を交わし別れ、部屋に戻って封筒を開ける。


中身は至って普通の給料明細。

唯一普通では無い部分があるとすれば、支給金額の頭にマイナスの記号が付いている事くらいか。


「あれ?なんでマイナスなんだろ?とりあえずカケルに連絡するか。」


何かの間違いだろうと言伝通りカケルへ連絡を取るために久々に携帯の電源を入れる。

画面に明るさが戻った途端に大量に表示される着信履歴の数に辟易しながら、連絡帳からカケルを選び発信。


プルル、プルル、と何度目かのコールの後で聞こえてくるカケルの声にいつもの覇気は無い。


「もしもし?警護の人から連絡しろって言われて連絡したんだけど、今で大丈夫?」

「あ゛ぁ、うぅーんっと。悪いな、寝起きだったからさ。とりあえず何個か話しあるから電話切るなよー。」


電話の向こうでガサゴソと何かを探す音をBGMに手の中で加工途中の魔石を転がしながらカケルを待つ。


「あったあった、ハジメ聞こえってか?」

「ああ、聞こえてるよ。どうしたの?」

「連絡来たって事は今月分の明細見たと思うんだけどさ、あれどうする気?」


明細と言われ再度確認すれど、金額の頭に付いたマイナスの記号は見間違いでは無い。

多分それの事を言ってるのだろう、とカケルに詳細を聞けばまぁ納得出来る。


本来なら所属する組織に納めるはずだった高純度の魔石もアリスとの交渉で手に入れた大量の通常魔石も組織に納めずに研究や装備新調に使ってしまい、更にはスキャンダルによって延びたダンジョン攻略によって、予定していた魔石の追加分は消えてしまった。

それなのに連日連夜研究に没頭するハジメの魔石消費量は普段以上に膨れ上がり、在庫から出していると勘違いしていたハジメの魔石の買い取り寄せによって消費量は尋常じゃない量に。


「つまり明細書に書かれた金額はマジって事。それにウチの在庫は空っぽだから、助けようにもメンバー全員今月の給料ゼロだからなぁ...マジでどうするよ?」

「えぇ?この金額マジなの?そこそこ厳しい金額が表示されてるけど...え?マジなんか。」


ハジメの明細書に書かれた金額はマイナス140万。


いつのまにか背負ってしまった多額の借金を返す当てなど無いハジメの顔色がサァーっと青く染まっていく。

冒険者になるまで引き篭もりニートだったハジメの貯金額はお年玉を一生懸命貯めている小学生に負ける程度しか無い。


「カケルどうしたらいい?」

「どうもこうも、お前が自分でした事なんだから責任取って少しづつでも返していくしかねぇだろ。幸いな事にお前のスキャンダルは監視カメラと不法侵入とかを前面に出して相手に謝罪記事を書かせたから収まり出したし、来週にはダンジョン攻略は再開出来るだろうから頑張れよ。」

「マジか、はぁ。」


電話口の向こうでカケルが励ましの声を掛けてくるが、どうにも上手く頭が回らない。

最近の自分の情け無さに泣きそうになりながら、手の中で転がる魔石をキツく握り締める。


気が付けばいつのまにか切れていた電話にため息を吐き、携帯をベッドへ放る。


自分の中でぐるぐると蠢く負の感情を上手く吐き出せないまま、ダンジョン攻略が始まろうとしていた。



ニートのダンジョン攻略記。

まさかの請求に戸惑うハジメ、ギルドのメンバー全員にも迷惑を掛けてしまい罪悪感に押し潰されそうな中で告げられたのはダンジョン攻略再開の一報。

次回、男子三日会わざれば刮目せよ。

乞うご期待。

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