強敵襲来、日本の国技舐めんじゃねぇ!4
霞む視界の先で繰り広げられる戦いを、身体に走る痛みを頼りにどうにか意識を繋げて眺める。
先程の攻防で受けた石飛礫が腹の中で暴れまわっており、断続的に与えられる痛みも勝利の為には必要なのだと思えば少し笑えてくる。
「ハジメ、大丈夫か?」
「ああ、どうにか意識だけは繋いでるよ。戦況はどんな感じ?」
「押してる、と言いたいとこだが良くて五分と言ったところだな。」
最大の切り札ですら届かないほどの実力差に自身の無力さを感じながら、枯渇しかけている魔力残量が選択肢を狭めている現状に歯噛みする。
せめて半分程度でも魔力が残っていれば次の一手も打てたのだが、ケセラセラ発動の為に手持ちの魔石は全て使い切り、残されたのは粉末状にした魔石が少しだけ残っている程度。
それすらも腹から流れる血を止める為に使ってしまえば、ハジメに打てる手は無くなる。
肉が焼ける痛みに顔を顰め戦いから目を離した隙に戦況が大きく変化する。
ハジメの真横を吹き飛んでいくカケルの姿。
咄嗟に差し出された腕を掴むまでは良かったが、成人男性一人が吹き飛ぶほどのエネルギーを満身創痍のハジメが止める事など出来るはずも無く、二人揃って仲良く転げ回る事になる。
「ああクソっ、すまねぇ助かったぜ。」
苛立ちを隠さずに地面を殴り付けるカケルの姿にどこか懐かしいな、と場違いな事を思いながらふと思い出すのは子供の頃の出来事。
「カケル覚えてるか?俺たちがガキの頃に参加したわんぱく相撲のこと。俺らの大将はカケルでさ、対戦相手が同い年とは思えない程にデカい奴で今みたいにカケル吹き飛ばされたんだよな。」
「...あん時も盛大に吹っ飛ばされてボロボロになったなぁ。わんぱく相撲が終わった後も何回も挑戦しては吹っ飛ばされて、結局俺は最後まで勝てなくてハジメは勝ったんだよな。」
激戦の中で子供時代の思い出に浸る時間なんか与えられるはずも無く、タモツに抱えられる様にして運ばれてきたリュウの姿に絶句する。
ケセラセラ発動により癒えたはずの怪我は戦いに挑む前よりも酷く、ハジメが絶え間無く送り続けているわずかな魔力でどうにか生き長らえていると言っても過言ではない程に状態は酷い。
ギルドメンバーの中で通常の回復手段を持っているのはユイだけであり、ステージ上に残された四人にはハジメのケセラセラしか無い。
頼みの綱のケセラセラも今は弱々しい点滅を繰り返し、いつ途切れてしまうか分からないような状態で、どん詰まりな現状の打開を期待できそうも無い。
「おーいリュウ生きてっか?」
「あぁ゛!?大丈夫にきばっでんだろぉが!」
「なははっ、歯ガタガタになってるじゃん。まぁアレ相手じゃ仕方ないわ。」
吹っ切れた様に笑うカケルが指差した先には、所々に浅い傷を負いながらも愉しげに嗤う鬼の姿がある。
「なかなかに楽しいひと時だった。及ばぬと知りながらも果敢に攻める姿勢は愚かではあるが、痛快でもあった。」
「別にお前を楽しませるためにボロボロになった訳じゃねぇから。全てはうちの頭脳担当に弱点探らせる為の時間稼ぎだしっ」
カケルの言葉に反応し、その鋭い眼光が向けられ萎縮していれば、カケルから掛けられた言葉は、頑張れの一言だけ。
「負け惜しみにも聞こえるが、貴様に問えば答えは出るか?」
離れた場所にいる大鬼の拳からギチリと鳴る音にぞわりと背中に悪寒が走る。
がたがたと震えだしそうな膝を力の籠らない拳で殴り付け奮い立たせれば、必死で笑みを作る。
「戦いが始まる前にお前は人間を軟弱だと言ったよな?それは以前にも人相手に戦った事があるからこそ出た言葉だ。だけど十階層に挑んだのは全世界で4チームしかいない。しかも報告ではお前の情報が無いことを考えれば、お前は特殊な個体である事が分かる。」
「...ふむ、続けろ。」
カケルの策は分からないが、とりあえず時間を稼ぐべきだと思い付く範囲でそれっぽい話をでっち上げれば意外にも好感触。
「特殊個体であるお前は階層もしくはダンジョン間の移動が可能であり、ここの階層主を自ら倒してこの場所に居座ったんだろ?だからこれだけの実力差が生まれた。」
ニヤリと笑みを浮かべる大鬼の表情は獲物を見つけた肉食獣の様に獰猛そうで、ゾクゾクと背中を走る悪寒が全身に回る。
「そしてお前は本来無かったルールで挑戦者である俺たちに撤退の選択肢を与え、ある程度の実力を見た後は戦闘時にディーラーを務めていたメグをダウンさせて俺たちに撤退をさせようとした。予想外だったのはケセラセラによるブーストで戦闘を継続したことか。お前は楽しかっただろう?二人が必死で喰らい付いてる時に愉しそうに嗤ってたのは遠くからでも分かったよ。」
「そこまで分かっていながら何故退かん。今なら重傷程度で済ますが、まだ戦うようなら命の保証は出来んぞ?出来れば楽しい時間をくれた貴様等をこんな所で殺したくは無い、大人しく退け。」
ギチギチ、と威嚇するように拳を握る大鬼相手にこれ以上の時間稼ぎは厳しいと思い、こんな状況を作り出したカケルを見遣れば満面の笑み。
もうどうにでもなれと半ばヤケクソになりながら全貌を知らないカケルの策に自身の全てを賭け、大鬼へと一歩踏み出す。
「...覚悟はある様だな、ならば死ねっ!」
「うぉおおぉぉぉおおおおっ!!」
前に倒れこみながらも一歩でも前へと、思い通りに動かない身体に鞭打ち進む。
大鬼も振りかざした拳をハジメに打ち込もうと大きく踏み込み、膨大な魔力を活かした身体強化で硬い床すら踏み砕きながらハジメに迫る。
交錯する直前に頭の中に駆け巡る走馬灯に思いを馳せる。
子供時代にカケルと出会って今日これまでの出来事を思い返せば、瞬時に理解してしまったカケルの策。
「カケルっ!!」「これ使えっ!!」
ぎりぎりのタイミングで投げ渡されたのは、刃毀れし装飾もボロボロになった未完成の聖剣。
そして、その使い道はひとつ。
「ケ・セラ・セラぁあぁぁあああ!!」
瞬間。
目の前には隆起した地面と遠退く大鬼の拳。
手の中で粒子と化した聖剣を惜しく思いながら、魔力切れの反動でその場に蹲り強烈な吐き気と眠気と戦う事になる。
ニートのダンジョン攻略記。
満身創痍の中で見つけた小さな可能性に賭けた四人を待つ結末は...!?
次回へ続く!!




