強敵襲来、日本の国技舐めんじゃねぇ!3
ダンジョンが出現し半年以上過ぎた現在の最高到達階層である十階層。
未だ人類はその壁を超えることが出来ず、残された時間は着々と減りつつあった。
その壁に挑もうとする冒険者達のチームのひとつが今、日本の田舎にひっそりと佇むダンジョンの九階層にいた。
「よしっ、そろそろ十階層に挑戦しようと思ってる。意見があれば言ってくれ。」
以前より少し装飾の増えた聖剣でゴブリンを粒子へと還したカケルが、振り向きざまにメンバーに告げた言葉は、全員に僅かな緊張を伝える。
「おぅ、身体は十分あったまってるから俺は文句無いぜ。むしろ世界中の強者を退けるほどの強敵にワクワクしてるくらいだっ!」
「俺も賛成だ。」
一番に反応したリュウが期待を込めた目で賛成意見を出せば、タモツも展開した大盾を納めながら賛成する。
「...カケルに任せてる。」
「おーけー、あとはハジメとユイだな。二人の考えはどんな感じなんだ?」
「当然賛成だよ、これでようやく最前線なんだ。ここで退いちゃ検証班の名が廃るだろ。」
「私も賛成。レベル上げも落ち着いたし、そろそろ挑戦しても大丈夫だと思う。」
全員一致で前人未踏の十階層への挑戦が決まる。
「とりあえず普段通りに動けば大丈夫だろ。もしもの時はケセラセラ使う事も考慮してるから、遠慮せず魔石使ってけよ?」
「分かってるよ。俺達が最前線に躍り出る為には、こんな序盤で躓いてられないもんな。」
息の合った調子で握りこぶしをコツリとぶつけ合えば、階層の境界線前で最後の休憩時間。
腹が減ってはナントやら、と言わんばかりに用意した軽食を腹に入れる男どもに呆気に取られるユイを手助けしながら、十階層に思いを馳せる。
「ねぇハジメ、階層主って強いのかな?」
「へ?そりゃ強いとは思うけど、結局は相性やチームワークじゃないかな?今は頼りになる前衛の腹を満たすのが勝利への第一歩だと思うよ。」
離れた場所から聞こえるおかわりの声に苦笑いを浮かべながら、適当に盛り付けた山盛りのサンドイッチを欠食男児の前に差し出す。
あっという間に消えて行く山盛りのサンドイッチを見ながら、自分の分をどうにか確保すれば渡された熱々の珈琲を啜り英気を養う。
食事を終え腹がこなれるのを待ちながら、各々がストレッチや装備の点検を終えれば準備は完了。
「うしっ、安全第一でヤバそうなら即撤退って事を頭に入れておいて...一発突破で世界の注目集めるとしようかっ!行くぞっ!!」
「「「了解っ!!」」」
カケルを筆頭に十階層へと足を踏み入れれば、これまでとは違いだだっ広い空間とその中央にある闘技ステージか。
どこか異様な雰囲気の十階層に戸惑いながらも足を進めれば、ステージの向かいから姿を現した大型の鬼が一体。
「貴様らが俺の相手か、人間という種族はどいつもこいつも軟弱そうでつまらんな。」
「なっ!?人語を話せる魔物が存在するのかっ」
ステージ上に上がった大鬼の知性に驚いていれば更に追い打ちをかけるように大鬼が声を掛けてくる。
大鬼から伝えられたのは、この階層のルール。
大鬼曰く、闘技ステージ上以外では戦闘行為が行えず、ステージから降りた場合は攻撃対象にはしないこと。
こちらの勝利条件は大鬼が戦闘不能になるか、場外となること。
一度場外になった戦士は次回の戦闘まで参戦出来ないこと。
説明を終えた後は、ステージ上でこちらを待ち構える大鬼。
大柄なリュウが見上げるほどに高い身長は目測で三メートル近くあり、その身体は筋骨隆々という言葉がぴったりなほどに鍛えられておりヘタな火力では通用しそうにない。
そしてモンスターでありながら人語を理解する程の知性はこれまで出会ってきたモンスターとは違うことが分かる。
「ハジメ、どう思う?」
「正直言って困惑してる、かな。いずれは知性のある魔物も出てくるとは思ってたけど、まさかこんな早くに出てくるとは...それに、最初の口振りじゃ人間相手に何度か戦った事があるような感じだったのも調べて見ないと分からない。」
「相手は一体だけだろ?それにヤバくなりゃ場外で助かるなら、とりあえず一回当たってみて考えりゃいいんじゃねぇか?」
見るからに強そうな大鬼を前にして、やや興奮気味なリュウを宥めながらも碌なアイデアは浮かばずに、大鬼に挑戦する事に。
「...ハジメ、ヤバそうなら速攻でケセラセラを俺かリュウに使え。」
「分かってる、一番臆病で貧弱なのは俺なんだ。ヤバそうな時は躊躇いなく使わせてもらうさ。」
大鬼が待ち受ける闘技ステージの中央へと足を進めれば、ニタリと嗤う大鬼が拳を固める。
それに対抗するように全身に魔力を巡らせるリュウの四肢から漏れ出る光は、以前よりも密度と精度の増した刻印から零れる魔力残滓。
各々が戦闘準備を終えたタイミングで、堪えきれずに飛び出したリュウと大鬼の拳が激突し、その衝突時に生まれた轟音が開幕の合図となり階層主戦が始まる。
一人飛び出したリュウを援護しようと炎弾を撃ち込むも、大鬼の赤い皮膚に弾かれる様にして消える様子に舌打ち。
メグの放つ強弓には回避を選択する事から、大鬼の防御力や魔法耐性などを考えていれば、矢の回避を鬱陶しがった大鬼がカケルやリュウの猛攻を潜り抜けメグへと迫る。
「行かせるかぁあああ!!」
額から血を流しながら大鬼に追い縋るタモツの努力も虚しく、驚異的な加速を見せた大鬼の拳がメグの華奢な身体を捉える。
「...小癪な真似を。」
「はは、悪いな。そんな簡単にやられるほど俺達は弱くないんだよ。」
陽炎。
メグとハジメの魔法を複合させ完成した魔法。
ハジメの生み出した熱を利用し、自身を身を守る為に幻影を生み出す魔法。
「オラァ、余所見してんじゃねぇぞコラァ!」
「ふ、熱い男だ。嫌いではないが少しばかりチカラが足りてないぞ。」
衝撃を纏ったリュウの突撃を真っ正面から受け止める大鬼に驚きを隠せずにいれば、そのわずかな動揺に気が付いた大鬼は、子供と戯れる大人の様な圧倒的なチカラの差で組み付いたリュウを振り払い、標的をメグへと戻す。
乱れた感情は集中力を奪い、魔法制御が緩む。
陽炎で姿を隠していたメグの姿がブレて見え始めれば、それを見た大鬼が吠える。
ただでさえデカい図体を更に膨張させ、片腕だけで人一人分はありそうなほどに膨れ上がった腕を構え、止める間も無く振り抜かれる。
瞬間、空間に轟く爆音とナニかが叩き付けられる光景に時が止まる。
「っ!ユイっ!!」「分かってるっ!」
動き出した次の瞬間には構えた大盾ごと吹き飛ばされるタモツを横目に捉えながら、メグ救済の為にユイを頼る。
爆炎と衝撃と空気。
ハジメの生み出せる最大限のフォローでユイの背を押せば、自身に迫る影がひとつ。
轟音が鳴り響く。
「立ち直りが早いな。先程までは魔力制御が揺らいでいたというのに、もう持ち直し次の手を打つか...小賢しいっ!!」
ケセラセラに頼り再現した陽炎。
それも原理がバレている以上は対策も出来る。
散弾の様に飛んでくる石飛礫のいくつかが身体に刺さるのを感じながら、少しでも仲間の撤退の時間を稼ぐ為に抗う。
「ふんっ、この程度の温度では肌を焼く事すら叶わんぞ?」
「じゃあコレならどうかな?」
空から大鬼に向かって降り注ぐ粉塵。
魔石を粉末状にまで砕いた物を大鬼に纏わり付くように操作しながら時間稼ぎの為の次の手を打つ。
魔石20個分の粉塵を起爆させる。
呼吸時に吸収した分は大鬼の体内で消化・吸収される前に爆発へと変わり体内から大鬼を焼く。
目隠しと攻撃。
時間稼ぎにはぴったりな奥の手も大鬼の怒りを買うだけに留まるが、ハジメの目標達成には近付いたはず。
残ったメンバーは無事に逃げただろうかと周りに注意を向ければ、駆け寄って来たカケルから渡されたのは魔石の入った袋。
「ハジメ、これで俺にケセラセラ使ってくれ。ここで逃げても次に繋がらねぇ...いや、やっぱ今の無し。メグやられて大人しく尻尾巻いて逃げられる程大人じゃねぇんだわ。」
激昂したカケルの顔は血塗れで、片腕は折れているのか力が入っていない。
そんな状態でも闘志に満ちた表情で燃える大鬼を睨みつける気迫に押され、つい頷いてしまう。
「オイ、俺も頼むわ。テメェのケツも碌に拭けねぇんじゃこっから先なんて見えねぇ。」
カケルとのやり取りを見ていたのか、同じ様に魔石の入った袋を押し付ける様に渡してくるリュウの状態は最悪。
以前のスタンピード時よりも重傷なリュウの身体は、全身ボロボロで両腕は力無く垂れ下がり、足を引きずりながら進む姿は狂気的ですらある。
「とりあえずアイツはここで倒す。」
「ああ、俺を馬鹿にした事を後悔させてやる。」
「はぁ、悪いけど俺の分も一発...いや、3、4発殴っといてくれ。行くぞ、ケ・セラ・セラっ!!」
持っていた魔石と自身の魔力、そしてこの場に満ちている魔力を使い発動する魔法。
以前よりも多少使い勝手の良くなったケセラセラだが、二人同時にとなると相当な負荷がハジメを襲う。
敵前にありながら無防備に崩れ落ちそうになったハジメを支えたのは、全身血塗れのタモツ。
手にした大盾はひしゃげ、盾を装備していた腕は折れて変色してしまっている。
それでもケセラセラを発動させ無防備なハジメを守る為に、全身に走る激痛に耐えながらも大盾を構えてくれているタモツ。
そんなボロボロの状態の中、二人の前でケセラセラにより覚醒したカケルとリュウが大鬼へと一歩踏み出した。
ニートのダンジョン攻略記。
一瞬で均衡を破られた階層主戦だったが、ケセラセラにより覚醒した二人が反撃を始める。
想像以上の強敵の出現に苦戦必至のメンバー達に降り注ぐ神の試練の行く末は。
次回へと続く。




