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昼寝は作業効率を上げるらしい。

酷い頭痛と倦怠感の中で、揺蕩う意識をどうにか自らの手に引き寄せれば夢から醒める。

目を開ければ、血塗れのタモツに背負われる形で運ばれていた。

背後からは剣戟の音が聞こえていて、未だに戦闘中だという事が窺える。


「タモツ、簡単に状況を説明してくれる?」

「っ!?目が覚めたのか!!」


ああ、とタモツの背から降りながら身体の調子を確かめる。

全身に回った毒の影響で臓器は腐り、傷口は爛れていたのだが、今は傷跡すら綺麗さっぱりと消えていて残っているのは血の跡位か。

唯一視界が色を失くした以外は。


「状況はあまり良くない。襲撃者の六名は相当に鍛えられてるらしく身体能力で言えばリュウをも凌ぐ程で、それに加えて魔法もある。今は大きな怪我無く戦えているがいつまで続くかはわからない。」

「そっか、足引っ張って悪かった。タモツも応急処置して前線に戻ってくれ。俺は...片付ける準備してくるよ。」


やけに集中出来ている自分を不思議に思いながらも、今の状況では悪いことじゃないので心の隅に留める程度にしておく。


タモツが前線に戻るのを見送りながら、魔力を滾らせケセラセラに送り込む。

白と黒の世界で輝きを増すケセラセラに込める願いはただ一つ。

大切な人達の無事だけ。


その為には、安寧秩序を乱す奴等をブチのめす。


ハジメ自身のチカラはある程度完成された部分はあるが、ハジメの強さは潜在能力では無い。

ハジメは周囲にいる才能溢れる仲間達から様々な技術を取り入れ、模倣し扱う事がハジメの強さの一端を担っている。


メグから習った遠距離攻撃における知識と技術。

リュウから身を以て叩き込まれた近接戦闘の技術と感覚。

タモツから学んだ様々な知識と活用法。


ケセラセラはそれらを実践する為の補助としては最適で、身体強化から擬似的な魔法の再現までこなしてくれる。


踏み出す一歩は衝撃を生み出し身体を前へと押し出してくれる。

身体にぶつかる抵抗は空気の流れを追い風に変え更に加速させ、未知の領域へと足を踏み入れる。

手に馴染む程に使い込んだサバイバルナイフの扱い方は嫌という程に叩き込まれた。


疾走。


すれ違い様に手首を切り付けるも、レベルアップを繰り返した対策本部の連中は硬い。

だが隙は作った。

それを見逃すほどリュウは甘くは無く、大胆な踏み込みで相手のを浮かせたと思えば、かつてゴブリン戦で見せた脅威の蓮撃。


距離を詰められやや苦戦気味のメグの相手に横槍を入れれば、苛立たしげにこちらを睨んでくる。


「糞ニートがっ、大人しく死んどけや!」

「残念、もう立派に社会人やってるよ。」


大剣の魔武器を小枝でも振り回す様に軽々と扱う相手から逃げながらも、炎弾を撒き散らせば怒り狂う相手にほくそ笑む。


「相変わらず猪みたいな戦いしか出来ないみたいで安心したよ。前回同様このままこんがり焼いてあげようか?ははっ」

「舐めてんじゃねぇぞコラァァアア...あっ。」


ハジメの背後で弓矢を番えるメグの姿にようやく気が付いた様だが既に遅い。

炎弾と強弓に四肢を撃ち抜かれた男はその場で崩れ落ちる。


「...無事で良かった。じゃ、また後でね。」

「ああ、このままカケルの援護に回るからフォローよろしく。」「...ん。」


やや目減りした魔力と落ち着き始めた戦場を考えながら、二人相手に立ち回るカケルの援護に来れば喧しい声が響く。


「なんで生きてるのっ!?もう手遅れな程に毒は回ってたはずじゃない!」

「橘林檎か、ダンジョン対策本部ってとことん俺の事嫌いだよね。」

「なははっ、これで形勢逆転だな。ハジメが死にかけてた時はヒヤヒヤしたけど、これで終わりっと。」


未完成の聖剣を振り抜けば、その場に崩れ落ちる様に倒れる男。

対策本部で残されたのは橘林檎だけ。


「さて、処罰は受けて貰うのは当然として、なんで俺らを狙った?地位も名誉も十分過ぎるほど手にした筈だろ?」

「...貴方達が動き出した事で上層部は焦ったの。この半年間で諸外国に抜かされた対策本部と世界を牛耳る組織にスカウトされたスタンピード殲滅させた英雄達。どれだけ頑張っても認められない苦しさが貴方達に分かるっ!?」

「それで?成果を挙げられる前に潰して現状を維持しようとこんな事しでかした訳か。くそったれがっ!」


激昂するカケルから溢れる魔力が紫電と化し周囲に振り撒かれる。

それを躱そうと後ろに下がれば合流するメンバーの無事な姿に一安心。


「みんなごめん、つい油断しちゃってさ。みんな無事で良かった。」

「ったくよぉ、毎回毎回心配させやがってこの馬鹿たれがっ!」


ごちん、と落とされた拳骨を甘んじて受けながらペコペコと頭を下げていれば、駆け寄って来たユイが泣きながら怒るという器用な真似をしてくる。


「あー、ユイごめんな。とりあえずこうして生きてるから...ごめんって。」

「ケセラセラが上手く働かなかったら死んでたんだよっ!?大体なんで見張り役なのに見張れなかったの?索敵に関してはカケルとメグに叩き込まれたはずだよね?なのになんで...まさかとは思うけど、考えに没頭して周りを警戒してなかったなんて馬鹿な事してないでしょうね?ねぇ、なんで目を逸らしたの?こっち向きなさいよ。ほんとに心配したんだからっ!ハジメの馬鹿っバカっ!」


怒涛の勢いで馬鹿と連呼されるのを耐えていればカケルの方で進展があった様子。

これ幸いと逃げ出せば呆れながらも怒りの矛先を変えるユイに安堵。


「ま、これで対策本部も終わりだな。これまで散々に好き勝手してきたツケは払って貰うから覚悟しとけよ?」

「どうせ無かった事にされるわよ。国の上層部がダンジョン資源に目を向け始めた以上は対策本部は彼らにとって必須。私達が消されるか、貴方達が消されるか...もしくは両方かもね。」

「上層部?糞食らえってんだ。日本が世界に遅れを取った理由は上が馬鹿だからだよ、そして今更慌てても遅い。利権は食い荒らされ日本はダンジョンが生み出す富を眺めるだけで終わる。そう仕組んだし、そう望んだ。今頃世間は大騒ぎしてる頃なんじゃねぇかな?お前らが半年間で起こした問題から何から全てをマスコミはひたすら叩いて、ダンジョン対策本部は今日で終わる。いやぁお前らがチカラに溺れて馬鹿やってくれてたお陰で、色々とスムーズに進むから助かったよ。」


何を、と訝しげな表情を浮かべる橘を余所に表情を青くする数名の男達が喚く。

それを一喝し黙らせるカケルの鬼気迫る表情は、長い付き合いの中でも数回しか見たことのないカケルの本気の怒り。


「テメェらに泣かされた奴の中にゃ俺のダチもいたんだよ。日本を救う?世界を救う?テメェらが一体何したっ!!スタンピードも検証も全部俺たちの手柄奪っただけのハリボテのくせして偉そうにしやがって!」

「...貴方達いったい何したの?」

「橘さん違うんですよ、俺たちは悪く無くて...」

「一般人にチカラ振りかざして脅した挙句、一生残る怪我を負わせるのが悪く無かったらなんだ?ここで俺がお前ら殺しても悪く無いのか?」


ひっ、と後ずさる数名の男達に剣を向けるカケルの目に宿るのは殺意。

後ずさりした先で待つのは、鬼の表情を浮かべたリュウの姿。

前も後ろも鬼に挟まれた男達は救いを求めて視線を彷徨わすも、向けられるのは軽蔑と冷たい視線ばかり。


「これがダンジョン対策本部トップチームの本性とか笑わせるよな、到達階層は8階だっけ?俺らなら一月ありゃ行けるっての。明日からはギルドが日本のダンジョン攻略を指揮させて貰うから、お前らは刑務所で人類存続でも願ってろ。」


そう言い放ち踵を返すカケル。

完全に戦意喪失した男達を引きずりながら上層へと向かうタモツとリュウ。

それに続くユイとメグは橘を拘束しており、手持ち無沙汰なのはハジメ一人。


色を失った世界を寂しく思いながら、仲間達を追い掛けるハジメのダンジョン攻略は始まったばかりである。



ニートのダンジョン攻略記。

どうにか襲撃者を退けたギルドメンバー。

ダンジョン対策本部が失墜し、ダンジョン攻略に動きやすくなった彼らは加速していく。

次回、給与明細と体重計。

乞うご期待。

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