あれとそれとこれとどれ?
順調に進み続けるダンジョン攻略は特に詰まる事なく三階層を突破し、四階層まで到達していた。
現在確認されているダンジョンの到達階層は合衆国チームの記録した九階層。
十階層は他の階層とは異なり守護者-ガーディアン-と呼ばれているモンスターが確認されていて、未だに突破出来ずに足踏みしているのが全世界の攻略状況である。
「階層移動で区切りも良いし、ここらで拠点設営して休憩にしようか。役割分担は事前の打ち合わせ通りでよろしく。」
「「「了解。」」」
タモツとリュウに背負っていた設営道具一式を渡してしまえば、ユイと共に夕飯の準備に取り掛かる。
なんだかんだ半年近く一つ屋根の下で過ごした仲である、息の合った動きでテキパキと準備を済ませれば調理開始。
「ハジメあれ取ってー」「ほい。」
「ありがと。」「ユイそれちょうだい。」
「はい。」「ありがと、はいこれ。」
「んーこんな感じでいいかな?」「あ、カケルそれ取ってくれ。」
あとは味を見て終了。
息ぴったりの二人の調理はあっという間に出来上がってあとは味を見て完成である。
「...いや、どれだよっ!?てか何?どんだけ息ぴったりなんだよ!」
「あー悪い、そっちの鞄に食器とか入ってると思うから取ってくれない?」
つい流れのままにカケルにも言ってしまったが、当然に伝わるはずもなくニヤニヤとした表情を浮かべながら食器類を手渡してくる。
「もう熟年夫婦のような貫禄が出てきてるじゃん、なに?結婚するの?」
「いや、まだしないから。」
「へー、まだしないんだ。まだ、ねー。」
なんだよ、と返すもにやけた表情を崩さないカケルにせめてもの復讐をと晩飯の量を少し減らせばカケルが吠える。
わんわんと喧しいカケルをいい加減うざったく感じ始めた頃に拠点の設営を終えたタモツとリュウも合流してきて、ユイもメグを呼んできて全員集合。
初のダンジョン飯の開始。
母に鍛えられた料理の腕を存分に発揮したユイの飯は非常に美味い。
もう全員の手が止まらない。
「こりゃうめぇな、ハジメもいい嫁さん貰ったな。」
「だな。これは美味い。」
先程のカケルとのやり取りを聞いていたのか揶揄いながら料理を頬張るリュウにジト目を向けながら食べ慣れた料理で腹を満たしていく。
黙々と食べ進めるメグの隣で以前ほど顔を真っ赤にするような事は無いが、わずかに頬を染めたユイが同じように黙々と食事を進めている。
ダンジョン内だというのに賑やかな食事も終わり、見張り番の順を決めれば早めの就寝。
運良く三番手に決まったハジメにはやりたかった事が山ほどある。
早速取り掛かろうとすれば、それを察したのかユイがひょこっと顔を出して隣に収まる。
「あれ?見張り番じゃないの?」
「カケルが検証で結果出してくれた方がありがたいって言って送り出してくれたの。」
目をキラキラと輝かせながらいくつかの機材を抱えたユイはそう言ってるけど、きっと行きたいオーラ全開で隣に居られたから堪らなくなったんだろうな、と心の中でカケルに手を合わせておく。
ほら行くわよ、とスキップでも刻みそうなほどに軽い足取りで道中で集めたサンプルを取りに行くユイの姿は、出会った当初の研究バカを思わせて懐かしく思える。
半年間で家にあった文献-ラノベ-を読み漁り、存分に蓄えた知識と持ち前の才能で次々とダンジョン関連の謎を解き明かしていくユイは本当に凄まじい。
異様なまでの知識欲が成せる事なのか、今や出会った頃とは立場が逆転してしまうほどにユイの閃きに教えられ続けている。
「待ってくれよ、そんなに慌てても研究材料は逃げやしないって。」
苦笑いを零しながらユイの後を追いかけダンジョンで見つけた事や物について話し合っていく。
「ダンジョンの中と外じゃ身体強化の程度が変わると思ってたけど、それほど大きな差じゃなかったよね。LV1、2だと違いをしっかり感じたかもしれないけど、みんなLV20越えてるからかな?」
「そうね、検証班の頃に提唱されてたダンジョン外での弱化については訂正が必要よね。」
ダンジョンに入ってまず感じたのは、魔力の充足感。外では休息以外では回復しなかった魔力が呼吸してるだけで微量ではあるが回復するのだ。
「あと階層毎にモンスターの戦力が違うかな?一階層ではゴブリン3体程度だったのが、三階層では十体近い数が群れていたよね。」
「文献-ラノベ-的に言うなら、階層毎の難易度の違いが出てるってことかな?モンスターの強さ自体は変わらなかったみたいだし、今はそこまで問題じゃないけど、この先どうなるのかしら。」
階層を進める度に増えていく敵の数は今はいいが、今後の課題となる可能性は高い。
だが、たらればを考えていても仕方ないかと次を考える。
「現状では魔武器や魔装具なんかは問題無く使えてるし、課題といえば荷物だよね。今は五日程度の荷物だから背負えてるけど、これ以上となると人数的にキツいよね。しかも報告ではダンジョンでのPTの人数制限は六人だって言うし...どうしたもんかね。」
「六人以上だと入り口越えた時点で分断されるんだったよね。アイテム袋みたいな道具があれば解決するんだけどねー、荷押し車なんかもこの悪路じゃ厳しいし課題だよね。」
目に見えるだけで山積みな問題点も今後の課題といった程度でしか議論出来ず、妙なモヤモヤ感を感じながら手にした魔石に魔力を注いでいく。
「これに光苔を被せればっと、はい完成。」
「おー、これで荷物から照明関係外せるね。」
手の中で眩しい程に光る光苔を自慢げにしていれば、すぐにカケルから没収され見張りに活用されてしまう。
「ありゃま、もう少し耐久性や限界光度なんかを調べたかったのにな。」
「荷物を削ったせいで明かりが少ないからね、ハジメのおかげで安心して見張りがこなせそう。」
後で感想や改良点なんか教えてね、と話していればわずかに感じ始めた眠気が欠伸を生む。
「そろそろ見張りに戻るからハジメもしっかり休んでね。」
「ああ、見張り頑張ってね。おやすみ。」
おやすみ、と返されユイが見張りに戻ってしまえば急速に勢力を増した睡魔に呑まれるように眠りにつく。
見張りの交代までしっかりと寝た後はタモツと二人で退屈な見張りの時間。
普段はあまり口数の多くないタモツと話す事が思い付かない為に無言のまま過ぎていく時間。
ダンジョンは静かで、時折爆ぜる焚火の音だけが妙に大きく聞こえる。
眠気覚ましに淹れた珈琲を啜りながら、光苔玉の調子を確かめる。
ダンジョン産の照明は意外と長持ちするようで、最初と変わらない光量を保ったまま辺りを照らしてくれている。
同時に感じたのはダンジョンの可能性。
半年間で検証し続けてきた魔石の活用法にどんぴしゃでハマるのがダンジョン産の素材。
これまで人類が築いてきた文明はダンジョンという脅威により脅かされている中、新たに生まれたエネルギーである魔力とそれを活かすダンジョン産の素材は世界市場を大きく揺るがすはずだ。
カケルもその可能性を感じていた為に、会社創設という手段を取った節も見られるし、所属している組織は素材の納品を義務付けている以上はうち以上にその価値を見出している可能性がある。
検証担当としては負けていられない。
心に宿る責任感にも似た好奇心は思考を加速させて、文献-ラノベ-の知識を基に次々とアイデアを生み出していく。
その様子を見ていたタモツから見張りは俺に任せてハジメはそっちに集中して構わない、と言われてしまえばユイとカケルのやり取りを思い出す。
(俺もユイと同類か。)
まさか同じ事をタモツに言われてしまうとは思っていなかった為に若干の恥ずかしさを覚えながらもタモツの優しさに甘える事に。
「すまん、浮かんだアイデアを書き残しておきたいから少しだけ任せていいか?」
「ああ、ハジメの発想は俺には真似出来ないものだからな、邪魔は出来ないさ。思う存分にやって構わんよ。」
すまん、と言い残しメモ書きに箇条書きで思い付いたアイデアを書きなぐっていく。
どんどん埋まるメモ書きとそれを見直し浮かび上がるアイデアが止まらない。
好奇心は猫をも殺す。
そんな言葉があるように、溢れ出る好奇心は忍び寄る危機を気付かせてはくれなかった。
ニートのダンジョン攻略記。
久々の知識欲大暴走に没頭するハジメに忍び寄る脅威とは一体っ!?
次回、ニートと社長とダンジョンと。
乞うご期待。




