初依頼、初っ端から全開だっ!
カケルによって設立された冒険者組合-ギルド-の一員となったハジメは、図らずも引き篭もりニートの称号を返上する事となった。
移動中にその事に気が付いたハジメは一人ニマニマと変な笑みを浮かべ、依頼者の下へと向かって行く。
次の戦いの舞台となるのは四国の地。
すでにスタンピードによる被害は14市町村にも及び、複数の県を跨ぐ形で進行するスタンピードの勢力は力を増したギルドのメンバーにしても決っして油断出来るものでは無い。
依頼人である町長に話を聞けば、依頼内容としては町の防衛と可能であればスタンピードの殲滅とのことだった。
こちらをまだ信頼出来ないのだろう、ありありとそんな表情を浮かべる町長とは対照的な温かい住民の歓待を受け、本場のうどんに舌鼓を打てばやる気が漲る。
「じゃ早速やりますかっ、振り分けとしては、俺とメグが斥候、タモツとリュウが防衛線の構築、ハジメとユイはスタンピードの情報集めて効果的な撃退法の模索ってとこかな。スタンピード到着までどのくらい時間があるかも分からない状況だし、危険を感じた際は各自の判断で撤退してくれ。」
「「「了解。」」」
それじゃ解散、とカケルの言葉を合図に動き出すメンバー達。
早速スタンピードの情報を調べてみれば、文献-ラノベ-ではコボルトと呼ばれる二足歩行で犬顔のモンスターが確認されていた。
攻撃方法は噛み付きと爪での攻撃の二種。
素早い動きと集団での行動が特徴で、数で囲まれてしまうのは非常に危険で注意が必要。
弱点という弱点は見つかっていないようで、苦戦するダンジョン対策本部の連中に対するバッシングが某匿名掲示板に大量に書き込まれている。
パタン、とPCを閉じれば同じように収獲の無かったユイが困り顔でこっちを見ている。
「任された仕事はしっかりやるさ。とりあえず、カケル達と合流して実際に見に行こうか。」
「りょうかい。無理は禁物だからね?」
道中でユイの持つケセラセラの特性を調べたりしながら、カケル達と合流すれば遥か前方にコボルトの姿が見える。
頻りに周囲を警戒する姿は猟犬のような恐ろしさを与えてくるので、頭の中でコボルトの危険度を一段階上げる。
「カケル、どんな様子?」
「こりゃ厳しいかもな、まず数が多いし警戒度もかなり高い。それに見た感じで多分ボス級とリーダー級、その下に普通のコボルトっていう組織的な動きがあるように思える。」
「ボス級か、前回痛い目に遭わされてるからね。出来れば各個撃破の形がベストだよね。」
うーん、と唸りながらコボルトを観察するカケルだったが、一当たりしてみるか、とのことで戦闘態勢を取ることに。
メグの腕にある黒い腕輪が淡く輝けば現れるメグの魔武器。
キリキリと弾き絞られた弓から放たれた一矢は前方にいたコボルトの集団に激突。
コボルトを三体も貫くその威力に驚いていれば、再び放たれた矢がコボルトの数を次々と減らしていく。
こちらに近付いて来た時には、コボルトの集団はその数を大きく減らし残り七体。
カケルが一人飛び出していけば、これ幸いとカケルを囲み得意の噛み付きを披露するコボルト達に心の中で合掌する。
コボルト達の鋭い爪や牙の猛攻を上手いこと躱すカケルと若干息の乱れたメグ。
その横でコボルトの速度や集団戦での連携、耐久度等を観察しながら、ある程度の観察が終わったところでカケルに声を掛ければサクッと片付けて戻って来る。
ほれっ、と投げ渡される魔石をみれば、大きさや色合い等はゴブリンの魔石と殆ど変わらない。
いくつかの魔石を入手した後は、貸し出されている拠点へと戻り作戦会議。
「一体ごとの戦闘力はゴブリンより低いと思うが、やっぱり数が厄介だな。前回みたいに群勢を引き連れて襲撃されちゃ手が足りなくなる。」
聞けばコボルトの数は確認出来るだけで五百体以上いたらしい。
今回相手した二十体前後の集団ではメグの遠距離からの射撃で数を減らせたが、五百体ともなれば焼け石に水だろう。
「...前回みたいに魔力切れが起こると思う、ハジメ何かないの?」
人をどこぞの便利道具を出すキャラクターと勘違いしているメグに苦笑いで返せば不満そうな顔。
「方法がない事は無いけど、現状じゃ魔石が足りないかな。」
「...どういう事?」
「事前に魔力水で矢を生成しておけば本番で魔力を節約出来るし、特殊矢なんかにも手を出せそうだけど、肝心の魔石がほとんど無い。」
ボスゴブリン討伐時には周囲にあった魔石全てをケセラセラが飲み込み、その後に回収した魔石は全て対策本部に徴収された俺達には手元にあるコボルトの魔石六つしか無いのだ。
「とりあえず当面はこれで我慢してくれ。ユイに詳細は伝えてあるから、後で矢の生成に挑戦してみてよ。」
「...ん。ありがと。」
会話をしつつ魔石三つを魔力水へと変化させメグへと渡せば、先程までの不満そうな顔は消えて僅かに綻ぶ笑顔。
「魔石不足ね流石に出回ってない以上は買い漁る事も出来ないし、こればかりは少しずつ貯めていくしか無いな。」
「そうだな。ケセラセラのコスパが悪過ぎてアレも奥の手中の奥の手だしなぁ、とりあえず残り三つの魔石はタモツ達の罠に使ってみるよ。うまくいけば多少は楽出来るだろうし。」
「あーアレか。話聞く限りじゃ強いけどリスクも大きいからな、ハジメの昏睡癖にも困ったもんだよな。なははっ!」
うるせぇよ、と雑談を交えながらタモツ達の帰還を待っていれば汗だくの二人の姿。
聞けば広範囲に渡って空堀を築いたらしく、炎天下の中での作業で汗まみれ泥まみれになったらしい。
内心では俺じゃなくて良かった、なんて思っていればリュウによって明日はお前も参加しろ、地獄を味わえ、との事で参加が決定してしまう。
その後は風呂から上がった二人も交えて雑談だったり、作戦会議だったり、試作品の相談だったりとワイワイしていれば晩飯の時間に。
泊まっている宿の食堂に足を運べばスタンピードの前線とは思えないほどに豪華な食事の数々。
皆でがっつくように料理を頬張り、宿自慢の温泉を堪能すれば気力が漲る。
これが店主の策なら分かっていても嵌ってしまうかも知れないね、などと冗談を交わしながら夜は更けていく。
目覚めた後は、朝風呂を堪能し美味しい朝食を頂いてやる気は充分。
意気揚々と拠点を出ればタモツの先導の下、防衛線へと向かう。
そして目の前に広がる惨劇に絶句。
ぐちゃぐちゃに荒れた田畑にこれでもかとばかりに抉られた空堀。
「え?これ何があったの?ここだけ怪獣大戦争でも勃発してるの?」
「あー、昨日リュウの奴が無茶してな。この辺一帯の空堀自体は完成が見えてるから、今日は山岳部の罠や防衛拠点の設置がメインだな。」
言われるままに肉体労働に明け暮れる。
途中で飽きたリュウの泥団子を頭から被り、全身余す事なく泥まみれになりながらも必死で働けば、昼食のぶっかけうどんがまぁ美味い。
昼からも罠の設置やバリケードの作成、リュウの相手などの激務を終え疲れ果てた身体で拠点へと帰れば、変わらず待っていくれている温泉が物凄く嬉しい。
「たまには汗まみれになるのも悪かねぇだろ?」
「だね。明日は筋肉痛確定だけどね。」
そんな言葉を掛けてくるリュウに冗談交じりの返事を返せば、自然と溢れる笑顔が心地いい。
初めは苦手だったリュウだったが、今ではカケルと同じくらいに頼りに思えてるのだから人間は不思議な生き物である。
そんな事を考えていれば、思い悩んだ顔を浮かべるタモツが隣へと寄ってくる。
「タモツもお疲れさま。」
「ハジメ、俺にもリュウのような刻印を入れてくれないか?」
「へ?」
能天気な雰囲気から一転して真面目な雰囲気へと変われば、タモツの独白は続く。
「俺は未だに魔法を発現出来ていない。カケルの呼び掛けに応えて検証班に入ったのは、自分の手で誰かを助けたいと思ったからなのに、現状ではろくに役立てていない。そんな今を変える為にもどんなに小さな可能性でもいいからそれに縋りたいんだ。」
想像以上に思い悩んでいる様子のタモツに掛ける言葉が出てこない。
刻印は無意識のうちに魔法を発現していたリュウだからこそ効果を発揮出来たのであって、タモツが使ったところで意味は無いだろう。
すでに検証済みの事案だけにその事実はタモツ自身も分かっているだろうが、それでも僅かな可能性に縋りたいほどに思い悩んでいるのだろう。
「タモツ、刻印は無理だよ。魔法を発現出来て無いからじゃなくて、純粋に魔石が足りない。防衛用の罠に使った分で手持ちが尽きたんだ。」
「...そうか、すまない無茶な頼みをしてしまったな。」
タモツとの間に流れる重たい空気。
諦めムード漂う中、この話は流されようとしていた。
そんな細けぇ事なんざ知ったこっちゃねぇと言わんばかりの豪快な男がこの場にいなければ、の話だが。
「ハジメ、俺の左腕にある刻印をタモツに移してくれや。タモツの思いをカタチに変えれんのはお前しかいねぇと思ってる。こうやって三人でいるのも巡り合わせなんだろうよ、頼む。」
「アホか、リュウの戦闘力が落ちたらプラマイゼロで意味無いだろ。どうせ出し惜しみする奥の手なんて価値は無い、これを使おう。」
そっと指から外したケセラセラから核を抜き、形を保てなくなった魔力水を風呂桶で受け止める。
「これで怒られたらちゃんとフォローしろよ?」
冗談交じりの言葉と共に、タモツの腕を取り魔力水へと浸す。
じわじわとタモツの腕を登っていく魔力水が形を成せずに波打ち波紋を広げる。
「タモツ、成りたい自分を思い描くんだ。自分の中にある一番強い想いをカタチに変えるんだ。」
「...一番強い想いか。」
俺の根底にあったのは憧れ。だからケセラセラは何にでもなれるし、何でも出来る。
その代償は大きいけども、そのチカラは絶大。
世界の常識を改変するほどの可能性を秘めた不条理のチカラ。
タモツの腕で波打っていた魔力水がうねうねと動き出しタモツの手に収まる。
眩い光を放ちカタチを成したそれは手のひらに収まるサイズの正方形のブロック。
「これが俺のチカラ?」
使い道は全く検討がつかないが、ケセラセラと同等の可能性を秘めているなら下手に試す事も出来ない。
「タモツ体調はどう?魔力切れの予兆が出てるなら無理しちゃダメだよ。」
「大丈夫だ、そこまで大きな負荷が掛かった感じはしないし、これはケセラセラほど理不尽なチカラがあるわけじゃないみたいだ。」
「おぉ、やったじゃねぇか!これでタモツも最前線で戦えるわけか!!」
ビシバシと背中を叩いてくるリュウにお湯を掛けて黙らせれば、満足そうなタモツの顔を見て安心する。
「さて、逆上せる前に上がろうか。」
「だな。」「ああ。」
男三人で満足そうに風呂から上がれば待っていたのは豪華な夕食の数々。
腹一杯になるまで食べれば、陽気なリュウが音頭をとって始まる宴会。
普段は大人しく食事を取るタモツも珍しく騒ぎに加わって愉しげに過ごしている。
隣のユイからの視線が若干痛いが、あの姿を見れば多少の居心地の悪さは我慢すべきだろう。
「ハジメっ、お前もこっち来て飲めよっ!」
男たちの大宴会は深夜まで続いた。
スタンピードの到着まで後三日。
ニートのダンジョン攻略記。
新たなチカラを得たタモツは何を成すのか。
スタンピードを目前に控えたギルドの面々はどう戦うのか。
次回、新たなチカラの正体。
乞うご期待。




