悪童、再び参上。
「さぁて、大人の事情だとか国の思惑なんて無視して俺らは俺らのやりたい事やろうか。」
まずは作戦会議だな、と言うカケルの言葉を合図にして全員が動き出す。
「とりあえず近場のダンジョンに潜って、誰よりも先に最奥を目指す。強さを示すチャンスだ。」
「...設備の整った拠点は必須。最低でもトイレとお風呂は綺麗な所が良い。」
「ダンジョンに潜るのは賛成かな、早めにダンジョン内の環境や変化を調べないと。」
「第二のスタンピード殲滅を急ぐべきだ。今でも苦しんでいる人がいるんだ。」
狭い部屋の中を様々な意見が飛び交う。
それぞれに思うことがあり、成したい事がある。
カケルを旗印に集った才能溢れる人材が、そのチカラを更に伸ばした上で自由に行動を始めるというのだ、方向性を間違えればそれは一般人にとって厄災にもなりうる。
「俺もスタンピード殲滅を優先すべきだと思う。ダンジョン対策本部の連中との折り合いもあるだろうけど、そこはカケルやタモツが上手いこと調整すればどうとでもなるだろ?」
その強大なチカラを持つ自分達に安心感を与える為にも、まずは自分達の在り方を示す必要があると思う。
そしてそれ以上に両親の様に住む場所を追われる様な辛い目にあって欲しくない。
「うーん、拠点を確保しつつ迅速にスタンピードを殲滅してダンジョン攻略に乗り出すか...対策本部の連中との折り合いもあるし、動くならすぐにだよなぁ。」
両手を絡ませる様に遊ばせながら唸るカケルの姿を見るのはいつぶりだろうか。
小さい頃から知っているその仕草は、悪童が輝く前の前兆である。
「これからの方針はカケルに任せるよ。俺は俺のやれる事をやろうかな、ユイこれの事なんだけどさ...。」
こういう時のカケルは良い考えが出るまで自分の世界に入り込んでしまう為、放置して別のことをしていた方がお互いにとってベストなのだ。
ケセラセラのことを話せば、あっさりと食い付いてくる研究バカと、それに便乗して話に加わって来る脳筋バカをこちらで引き受ける。
部屋でのんびりと弓の手入れを始めるメグとスタンピードについて情報を集め始めるタモツ。
全員がカケルに方針の決定を委ねれば、カケルもさらに集中を深め思考に沈んでいく。
時計の針が深夜を廻り、闇夜がその深さを増した頃に悪童の思考は集束する。
「うしっ、方針は決まった。とりあえず全員で動き出すのは明後日からだから、各自しっかり休息を取って置く様に。」
「「「了解。」」」
「そんじゃ明日早いし俺帰るわ。」
そんな言葉を残して颯爽と去って行くカケルと付き添って行くメグを見送れば、タモツとリュウも帰ると言って家を出て行く。
「気を付けて帰れよ...ん?あれ?ユイさーん?帰宅されないので?」
「え?だって帰る場所ないし、ハジメの家に泊まっても大丈夫かな?」
まさかの展開にあんぐりと開いた口が閉まらない。
「へ?あー、大丈夫だけど帰らなくて平気?」
「検証班に参加するのに全部捨てて来ちゃったから、基本ホテル暮らしなんだよね。流石にこの時間じゃ厳しそうだし...いいかな?」
どうやらこの研究バカは検証班に参加して未知を研究する為に、これまでの生活の全てを捨て飛び出してきたらしい。本当に残念美人だよお前は。
天井を仰ぎ見ても状況が変わることはない。
ましてや断って外に放りだすなど絶対に出来ない以上は家に泊めるしかない。
「とりあえず部屋戻るか。」
大人しく後ろを付いてくるユイを相手に、大変よからぬ妄想を浮かばせる脳内悪魔との激闘を繰り広げながら自室へと辿り着く。
「あーベッドはユイが使ってくれ。俺はリビングで寝るから、何か必要なものある?」
理性という名の脳内天使が援軍として現れてくれたおかげでユイの安全は守られたが、しかし、ここしばらく忙しくしていた為に溜まっている。
据え膳とまではいかないが、それなりの年齢の男女二人が同じ部屋で寝るとなれば色々とマズイ事態に陥る可能性は否めない。
それなのにだ、こっちのそんな心中を読まないユイは一緒で良いわよ、なんて言ってくる。
「まだ本調子じゃないんでしょ?これから忙しくなるんだからしっかり休まないと。はい、ハジメは壁側ね。」
ポンポン、と誘う様にベッドを叩く仕草が妙に色っぽく見えてしまうのは脳内悪魔の仕業か。
明かりに誘われた蝶の様にフラフラとベッドへ入ってしまえば、逃げ道を塞ぐ様にスッと横に詰めてくるユイ。
どきどきと高まりを見せる鼓動は落ち着かず、時折触れる身体の柔らかさに心が昂まる。
((やばい、眠れない。))
今年28になるハジメもこれまでの人生で恋愛経験が無いわけではないし、そういった経験もある。
だが、三年の引き篭もり期間で人と触れ合う事をしてこなかったハジメの耐性はほぼゼロ。
対するユイは研究一筋に生きて今年で24になる。
恋愛経験なんて皆無の為、当然にこういう経験は無い。
お互いがお互いを妙に意識し過ぎた為に、僅かな身動ぎですらどきどきしてしまい眠れない時間が過ぎていく。
「ハジメ起きてる?」
「...どうした?」
時刻は午前3時。
ようやく眠気が来た頃に掛けられた言葉に反応してしまえば、胸の鼓動が僅かに煩くなる。
「私って検証班にいた頃からずっとハジメに助けられてて、次々と新しい発見をするハジメに嫉妬したり憧れたり、凄い事すればその分ダメダメなとこにも惹かれたり...気が付けばハジメのことが好きになってた。」
真夜中の告白。
嬉しく思うも答えが直ぐに出てこない。
ユイは美人だし、心配症なとこはあるが面倒見も良くて、何より検証癖と言えばいいのか似たような感性で居られるから一緒に居て楽しい。
だからこそ、自分のような人間は相応しく思えない。
未だ自分に自信を持てないハジメは返答に戸惑っていれば、背中に感じる温もりが動く。
「突然こんな事言われても困るよね。なんか今しか無いって思えて...ごめんね。」
離れていく温もりを愛おしく思えるも、ほんのすこしの距離を詰める一歩を踏み出せない。
(覚悟決めろよ、男だろっ!)
「ユイっ俺はさ、ついこの間まで引き篭もりで嫌なことから逃げるしか出来ないダメな奴だったけど、ユイと一緒に居た時間はすごく楽しかった。きっと俺以上に相応しい男はいっぱいいるのに俺なんかでいいの?」
「格好悪いとこも全部含めて好きになったの、俺なんかなんて言わないでよ。」
温もりを追いかけ振り返り思いの丈をぶつければ返ってくる答えは甘く優しい。
カーテンの隙間から差し込む月明かりがユイを照らし、その美しさは息を飲むほどでゴクリ、と喉が鳴る。
そっと手を伸ばせば身を委ねてくるユイの身体を抱き寄せ、守りたい、と思えるほどに華奢な身体を優しく抱き締める。
薄暗い部屋に浮かぶケセラセラの淡い光が一瞬煌めいたかと思えば、指先に伝わる硬い感触。
「これは指輪?ケセラセラが創り出したのか?」
折角だからとユイの手を取り指輪を嵌めれば、偶然かはたまた必然か、薬指にぴったりと嵌まるケセラセラに苦笑いが溢れる。
二人で右手の薬指にケセラセラを嵌めて顔を見合わせれば、自然と近付く二人の距離は重なる。
僅かに感じる違和感をおかしく思えば、離れていくユイの顔にあれ?と拍子抜けした声が漏れる。
急激に襲ってくる眠気に抗う事も出来ず、再び意識を失った締まらない甘い夜だった。
再び目を覚ましたのは二日後の朝。
隣で眉間に皺を寄せたまま眠るユイを起こさぬように、そっと起き上がろうとすれば動かぬ身体はユイに覆い被さる形で倒れこむ。
-ガチャ。
「ありゃ、お邪魔しちゃったかな?また倒れたって聞いて早めに来てみれば朝っぱらからお盛んな事ですなぁ、別に仲間内での恋愛禁止は設けてないけど良識の範囲内で行動してくれな。計画的な家族設計ってのは割と重要だから、余計なトラブルを生まない為にも自制ってのは大事だよ、うんうん。」
「いやっ、これは違っ」「何が違うのかな?意識取り戻したその日にまた意識失くすって全く反省してないよね?散々に心配掛けておいて、目が覚めた途端にこれじゃカケルの心配も案外的外れじゃないかも。はぁ、どうして格好良い時と悪い時の落差がこんなに凄いんだろ?」
タイミングを見計らったようなカケルの登場によって破られた静かな空間は、普段以上に饒舌なカケルによって怒れる彼女を呼び覚ます事になる。
それから数分に渡ってユイの怒りを懇々と受け続け、カケルの揶揄いを甘んじて受け、ようやく解放された頃には検証班のメンバーが家に集っていた。
「さて、俺たち検証班は今日から別の名称に変わることとなった。詳細は書類に纏めてあるから各自見てもらうとして、俺たちはこれから冒険者組合-ギルド-と名乗る事になる。」
書類に目を通せば、カケルの行なった事はスタンピード被害からの財産防衛やダンジョンで得た物資や資源の売買といった事を専門にした会社の設立だった。
ダンジョン法に行動を制限されないように、スタンピード被害に悩まされている人達に雇われる事で財産防衛という抜け道を利用でき、今後のダンジョン資源の活用を考えて会社の在り方も自由が効くようになっている。
そして心配していたダンジョン対策本部との折り合いもついたのだろう。
書類の最後に押された印字には対策本部の名も連なっている。
「そんじゃ早速行きますか!こっから最前線まで最速で駆けるつもりだから、精一杯付いて来いよっ!なははっ!!」
「「「了解!」」」
ニートのダンジョン攻略記。
検証班改め冒険者組合-ギルド-を名乗ることとなったハジメ達は第二スタンピード殲滅へ向けて、その歩みを速めていく。
彼らを待つ第二スタンピードではどんな事が起こるのか。
次回、初依頼、初っ端から全開だっ!
乞うご期待。




