表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/108

吼える鬼には豆を撒け。

「さて茶番はここまでにして、そろそろ本題に入ることにしよう。」


どうぞ、と渡される栄養飲料を受け取り空腹を誤魔化しながら話しを聞いていく。


「君が寝ていた十日間で世界は大きく変化した。諸外国は私たちの提供した情報を元に反撃の手段を手に入れ、少しずつではあるが各地で発生しているスタンピードに抵抗出来るようになった。」


まず驚いたのは十日も眠っていた事。

以前やらかした魔力切れでの昏睡は二日だったので、今回も数日程度だと思っていたのだが予想を大きく上回る結果に頭が痛くなる。


こちらは自分がいま置かれている状況すら碌に把握出来ていないのだ、世界がどうと言われても反応に困ってしまう。


「はぁ、それで私はこれからどうなるんでしょうか?病室では協力しなければ逮捕がどうとか言われましたが、実際のところは?」

「...相変わらず橘のやり方は強引だね、ご迷惑を掛けたようで申し訳ない。君の処遇については御堂くんとの契約によって守られている...僕の最後の仕事だったからね、安心していいよ。」


少し寂しそうな表情を見せる和田の姿とくたびれたスーツがあまりにもマッチし過ぎている。


哀愁漂うその姿に不満をぶつけるのも憚られるも、ここまで連れて来られた以上は守られているとは言いがたい。

だがそれ以上に聞きたいことが多い事もあって、とりあえず一旦置いておくことに。


「まぁ処遇についての詳細はおいおいで構いません。話に出たカケル達は今どうしてます?」

「御堂くん達が今何処にいるかは私には知らされていない。本部長の座を降ろされた後に橘の指示で身柄を拘束されたというのは噂で聞いたが、それ以外の情報は制限されているようでサッパリ分からないよ、すまないね。」


ダンジョン対策本部も色々とあるのだろう、せめて自分と関わりのない場所でやってくれれば良いのに、と思わないでもないが、巻き込まれた以上は仕方ない。

哀愁漂う和田を少しばかり不憫に思いながら、現状の打開策を練ろうと口を開きかけたその時。


-ガチャリ。


ノックもなしに現れた面倒な人物にため息が漏れそうになる。


「人の顔を見るなり溜め息を吐くなんて礼儀知らずにも程があるわね。」

「橘くんここに何の用かな?周防くんの処遇に関しては既に決定している以上、周防くんをどうこうというのは許さないよ?」


キッと鋭い目つきでこちらを睨む橘林檎と唯一頼れる味方?の和田の間に走る緊張。


「噂の情報提供者が来ていると聞いたので顔を出したまでです。少々聞きたい事があるので二人にしてもらえるかしら?」

「病み上がりの彼を無理矢理ここへ連れて来たのは君の指示だろう?僕が<偶然>介入しなければどうしていたつもりかは聞かないけども、僕がここにいる以上は非人道的な行為を許すつもりは無い。それを理解したならすぐに退出する事をお勧めするよ。」


ばちばちと火花を散らしながら言い合う二人を見る限り、橘林檎は俺を餌にカケル達との交渉にでも使うつもりなのか。

それを許そうとしない和田は、カケルと交わしたという契約を守ろうとしているのだろう。


その契約の内容は詳しく知らないが、カケルが絡む以上はこちらが不利な条件なはずはない。


「では彼自身に答えてもらいましょう。周防ハジメ、私たちダンジョン対策本部に協力するつもりはあるかしら?その情けない姿を見る限り戦力としては期待しませんが、貴方の知識や発想は私たちの役に立つでしょう。どうします?」

「へ?あーいや、そのなんですかね。普通の一般人の自分じゃあ役立てる事なんて無いですし、出来れば家に帰して貰えると嬉しいかな、と。」


青筋が浮かぶ様子からどうにも納得してもらえなかったらしい。


「だそうだ、周防くんが一般人である以上は強制的な命令をすることは許されてはいない。それに組織は良くも悪くも注目を集めているんだ、あまり軽率な真似は辞めた方が良いと思うが?」

「いつまで上官気分でいるつもり?今のトップは私なのっ、周防っ貴方も貴方よ!引き篭もりニートの貴方を雇ってあげると言ってるのよ?大人しく協力しなさいよっ!」


苛々した様子の橘の刺々しい言葉に若干ではあるが傷付くも、以前のように簡単に折れたりはしない。

右手に嵌めているケセラセラを撫で、一度深呼吸をすれば波打つ心に平穏が戻る。


そんな様子も気に入らないのか、更にヒートアップしていく橘の罵詈雑言はもはや組織のトップとは思えない程に酷いものである。


「御堂たちといい、アンタといい、一体何様のつもりなのよっ!ダンジョン対策本部は世界から注目を浴びてるの、私はその期待に応えなきゃいけないの!人類が神の試練に打ち勝つ為には一丸となる必要があるのが分からないの?」

「以前にここで役立たずの烙印を押された事があります。自分のような役立たずを雇わなくても大丈夫でしょう?たがだかスタンピードと戦っただけで十日も寝込む無能にやれる事なんて殆どありませんし、他の有能な方に協力を要請するのが良いと思いますよ。」


ドンっと拳を机に叩き付け、こちらを親の仇のような目で睨んだかと思えば、踵を返し部屋を出て行く橘。


その様に目の前のくたびれた男も苦労しているんだな、と思わなくもないが、こんな組織に使い潰されるなんて真っ平御免である。


ようやく静まった部屋に浮かぶ苦笑いと溜め息の応酬もそこそこに、眠っていた間の話をかい摘みながら聞いていけば、どうやら検証班の手柄を全てダンジョン対策本部の手柄という見方で捉ええた上で、その中心に上手い事躍り出た橘は色々と苦労しているらしい。


一向に進まぬ魔法の研究に、カケル一人に圧倒された本部の連中、周囲から掛かる圧力。

以前会った時よりも痩せて見えたのは見間違えでは無いのかも知れない。


「いやぁ、お恥ずかしいところを見せてしまったね。橘も悪い子では無いんだけどね、どうにも結果を急いてしまう癖があるのが玉に瑕でね。」


こちらの心中を悟ってか、先程の頼りになる感じは鳴りを潜め、同情を誘うような雰囲気へと変わった和田がしみじみと語る。


部屋に流れる穏やかな時間。


当然そんな安息は長くは続かず、ドカドカと聞こえてくる足音と共に彼方へと消え去ってしまう。


「おうこら、引き篭もり野郎!橘さんからの誘い断ったらしいじゃねぇか!てめえ如きが何様のつもりなんだよ、あぁ?」


普段の強面を更に凶悪に変えた男が扉を開けると同時に恫喝まがいの勢いでこちらに詰め寄ってくる。


こんな乱入者は予想していなかったために、二人して固まっていれば、それに調子を良くした強面の男は更に勢いを増していく。


「前に散々やられたのにまだ殴られ足りねぇのか?今回は助けてくれる嬢ちゃんもいねえし、お前が首を縦に振るまでボコボコにしてやってもいいんだぞ?」


どこか見憶えのある男だと思っていたが、以前に対戦した男だったか。

まだ固まっている和田は頼れそうにないし、男の言う通り助けてくれる人間も今回はいない。

それが男を勢い付かせている要因なのだろうか?


「悪いけど、どれだけ脅されても今のままじゃ協力する気は無いよ。殴るっていうなら殴れば良いさ。」

「...上等じゃねえか。こっち来いや!」


引き摺られるように前回と同じ場所に連れられたなら、逃げ出せないようにか、はたまた観客気取りか、周囲に続々と人が集まってくる。


「ルールは前回と一緒だ。相手を殺す、障害の残るような怪我は避ける、それ以外は何でもありの模擬戦だ。今回は手加減しねえから覚悟しとけ」


軽く頷き返事とすれば、そんな様子も気に食わないのか更に顔を凶悪に変える男。

もはや鬼の形相とも言える男が周囲に開始の合図を促せば、始めっ、とすぐさま返ってくる。


あれ以降もレベルアップを何度かしたのか、前回以上のスピードで迫ってくる姿に殺意に似た何かを感じ、苦笑いが溢れる。


あまり大きな魔法を使って下手に関心を集めるのも得策では無いし、鬼退治といえば定番のアレで行くとしよう。


「おには〜そと〜。」


気の抜けるような声と共に出したのは、機関銃さながらの勢いで撃ち出される豆粒サイズの炎弾。

それなりの勢いを持って放たれたそれは男にビシバシと命中し、熱と衝撃を次々に与えていく。


怯む男がその勢いを落とし、両手を前に構え防御姿勢を取るも、炎弾の勢いは止まらない。

スタンピードでの激戦で急激なレベルアップを果たしたハジメのレベルは既に18であり、魔力量においては検証班でも並ぶものはいない。


次第に耐え切れなくなった男が転がるようにして回避行動をとれば、その後を追う炎弾。


「正々堂々と戦えや!!」


そんな事を叫ぶ男に二割り増しにした炎弾で返事を返せば、次第に男から抵抗が消えてくる。

手加減しているとはいえ元はゴブリンを貫き焼き殺す程の威力を持った炎弾である。


流石にやり過ぎたか、と撃つのをやめれば、それを好機と見た男が凶悪な顔で迫ってくる。


もはやこんな戦闘など面倒でしか無いのだが、殴られるのも癪に触るので、思い通りに動かない身体に鞭打ちカウンター気味に拳を振り抜けば見事にクリーンヒット。


その拳を受け綺麗に半回転を決めた男は床に叩き付けられ、そのまま意識を失う結果に終わる。


あまりに一方的な展開に言葉を失くす観客気取りの人達の方を向けば、一様に視線を逸らされて苦笑い。


「勝負ありって事で良いですかね?一応、酷い怪我はしないように手加減はしたのですが、火傷等があると思うので医務室へ連れて行ってあげて下さい。」


コクコクと頷く同僚らしき人物に後を任せれば、逃げ出すようにその場を去る。


「スタンピードを退けた君相手には要らぬ心配だったようだ。君の強さは特別なものなのかい?」


途中転びそうになったところを支えられ、車椅子を準備してくれた和田がそんな質問をしてくる。


「特別?いやいや、特別なのは他の検証班のメンバー達ですよ。俺にはカケルのようなカリスマ性も無ければ、メグのように上手く武器も扱えない、リュウのように格闘技を覚えてる訳でも無いし、タモツのような経験や知識も無ければ、ユイのような頭脳も無い。無い無い尽くしの駄目人間ですよ。」


共に行動していたからこそ分かる検証班にいる特別達を思い浮かべては改めて凄さを実感する。


それでも。


「それでも、もし俺を特別と思えるならそれは意地ですかね?最初にカケルに言ったんですよ。俺は平凡な人達の目標になると、平凡な英雄になるって。」


最初に思い描いた理想を口にすれば、妙に気恥ずかしく思えて仕方がないが、案外悪くない。


「平凡な人達の目標か、君たち検証班の思い描く理想は随分と楽しそうだ。是非とも仲間に入れてもらいたいものだね...此処は少々息がしづらいから。」


苦笑いを零しながら車椅子を押す和田の寂しげな表情に何とも言えず、無言のまま進んでいく。


そのまま出口へと到着すれば、流れるように手続きを済ませ帰路に着くことに。


家まで送り届けられ、それじゃあね、と簡単な別れの挨拶をされれば、あっという間に去ってしまう。


未だ硬さの残る身体で自宅の扉を開ければ漂ってくる美味しそうな匂いに空腹がその眼を覚ます。


惹かれるようにリビングへと足を進め、ただいま、と声を掛ければ返ってくる三者三様の返事に安堵する...ん?


「なんでカケル達がここにいんの?」

「なははっ、ハジメの帰り待ってたらご飯作ってくれるっていうから、みんなでご馳走になろうかって流れになってさ。とりあえず話は飯食ってからにしようぜ〜」


戸惑いながらもカケルらしいのかな、と思いリビングへ足を踏み入れた瞬間に腹部に伝わる衝撃。

弱った身体で踏み止まれるはずもなく押し倒されてしまえば、そのまま泣き憑かれる。


あらあらまぁまぁ、と傍観を決め込む外野を恨めしそうに睨めばニヤニヤとした視線を寄越すカケル達にため息ひとつ。


抱きついて離れないユイをあやすようにして背中をさすれば、ようやく泣き止んだユイからのお説教タイム突入。


懇々と語られる言葉の数々を真摯に受け止めながら、食卓に並べられる料理に目が移る。


「ねぇちゃんと聞いてるの!?どれだけ心配したと思ってるのよ、凄い事する度に毎回の様に意識失うってどうなの?心配するこっちの身にもなりなさいよ!大体ハジメはいっつもそう。考えなしに思い付いたこと実行してはやらかすじゃない。そのくせ悪びれもなくごめんごめん、って簡単に済ませちゃうけど、それはどうかと思うわよ。今回の件で分かったけど、ハジメは目を離すとすぐに怪我したり意識失ったりと大変だから、これからは一緒に行動するからね!...なによその目は!大体こんな美人に言い寄られてそんな顔するのハジメくらいよ?ありがたく思いなさいよ!」


本部で鬼退治を終えたばかりなのに、家に帰っても鬼がいたのにはもう驚くしかない。


ただユイのこの感じに帰ってきたんだなと思えるので、ごめんごめん、と頭をポンポンすれば顔を赤く染めたユイがようやく状況を理解する。


ハジメの上に馬乗りになって、散々腕の中で泣いた後にこれからはずっと一緒宣言。

しかも検証班のメンバー勢揃いでハジメの両親の前でである。


いそいそとハジメの上から降りた後は、真っ赤に染まった顔を隠そうと下を向きながら席へと着くユイであったが、耳まで真っ赤なその様は下を向く程度では隠し切れない。


「両親の前でプロポーズとはこらまた大胆な事するもんだね、大事な親友なんだ、幸せにしてくれよ?なんてなっ!なははっ!!」


案の定揶揄い始めたカケルの後頭部をパシっと叩いて、用意された席に着けば掛けられる温かい祝福の言葉にお前ら全員グルか、とがっくりする。


「ハジメ〜おかえり。カケルくんに聞いて今日はハジメの好きな物いっぱい作ってあるからね〜みんなも沢山食べてね〜」

「「「いただきます。」」」


母の言葉を合図に始まった食事は楽しいもので、母に胃袋を掴まれたカケルとリュウ以外も箸が止まる様子はなく、次々と無くなっていく料理に気を良くした母が更に気合いを入れて追加の料理を始める。


そんな楽しげな戦場で上手く動かない身体で食事を満足に出来ていないハジメだったが、隣から掛かるあーんの声に羞恥心を抱きながらも無碍には出来ず受け入れる。


周囲からのニヤついた視線に耐えながら、久々の母の味に舌鼓を打つもろくに味が分からない。


(世のリア充達は平気でこんな事をこなしているのか?俺にはっ、俺には出来ないよ!)


心の中で泣き言を言いながらも受け入れるあーんはハジメの心を蝕んでいく。


楽しい?食事を終えた後は部屋ででみんなの状況を聞く事になったので、支えてもらいながら自室へと向かう。


そして事の顛末を知ることとなり、激動を迎えた世界へどう向き合っていくのか、検証班のこれからを決める話し合いが始まった。



ニートのダンジョン攻略記。

目覚めたハジメと目醒めたユイ、二人のこれからはどうなるのか!?

そして、検証班は激動の時代を迎えた世界にどう動くのか!

次回、悪童、再び参上。

乞うご期待。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ