蠢く陰謀!目覚めた先で食うカツ丼。
スタンピードの激戦を終えたハジメは、ケセラセラ発動による魔力切れで昏睡状態に陥っていた。
ケセラセラ発動の際に使用されたゴブリンの魔石は総計85個という膨大なコストを使用したというにも関わらず、ハジメに掛かる負担は初めて魔法を発現させた時よりも重篤で、意識を失って五日が経過してなおハジメは目覚めない。
そんなハジメを置いて外の世界は激動に揺れていた。
ハジメを除いた検証班のメンバーによるスタンピードの残党に対処した後、ダンジョン対策本部はその存在を世間に公表し、スタンピードの殲滅完了を宣言。
避難を行なっていた地域の住民を家に戻すと同時に、破壊された地区の復興作業を急速に進めた。
世界は絶望の中に希望を見出し、ダンジョン対策本部は世界中から注目を浴びる事となった。
その中心にいるのは、橘林檎率いる特殊部隊の連中である。
彼等は検証班の発見した魔法と魔武器の情報を各国へと発表する事で、その名声を高めると同時にダンジョン攻略の全権を握る事となる。
当然それに反発したカケル達はダンジョン対策本部からの脱退を決意するも、橘の強行策により検証班のメンバーは軟禁拘束され、ハジメもまた昏睡状態のまま拘束される。
そんな世界の大きな流れに一人取り残されたハジメの目覚めはもうすぐである。
ピッピッと規則正しく鳴る機械音が耳に届く。
どこか聞き覚えのあるその音に関心が向けば、それを切っ掛けに徐々に意識は覚醒へと向かう。
ふと頭によぎったのは、以前やらかした天井発言からのいらぬ誤解。
そっと開けた目に映る白い天井に心の中で、知らない天井だ、と呟けばタイミングばっちりで開く扉にどきりとする。
「目が覚められたのですか?」
「あ゛ぁ゛」
返事をしようと声を出そうとすれば、ガラガラのしゃがれた音が発せられる。
それに気が付いた看護婦から水を手渡されるも、上手く握れずに落としてしまう。
こちらを安心させるような笑みを浮かべて、そっとストローをあーんと差し出されれば、若干の恥じらいを感じながらも喉の渇きを癒すためにパクリと咥えチューチューと吸い上げる。
機械音しか聞こえない静かな部屋に響く水を飲む音が妙に気恥ずかしく、顔を赤くしていればこちらを見てニコリと笑顔を見せる看護婦に苦笑いを返しながら、黙々と水を飲む。
満足するまで水を飲んだ後、空腹を感じ食事をお願いしようと思えば響くノックの音。
「どうぞ。」
「周防さんの意識が戻られたと聞いたので参りました。体調はどうですか?」
看護婦と入れ替わるように部屋へ入ってきた、見覚えのない紺のスーツ姿の男に戸惑いながらもどうにか返事を返していけば、現状の自分の立場を説明される。
「周防さんは現在、ダンジョン法と呼ばれる法律の違反を行なった罪状で拘束されている状況になります。ここは一般病棟とは隔離されて病棟で、主に重犯罪者なんかの治療を行う施設です。」
「えーと、俺はこれからどうなるんですかね?」
ダンジョン法の内容はある程度の内容は把握している。
当然、スタンピードに対峙したことが法律違反となることも重々承知の上での行動だったが、心の何処かでカケル達ならなんとかするだろう、と考えていたりもした。
「医師からは意識が無い以外は健康体だと診断が下っている以上は、これから情報統制に協力してもらう事になる。断る場合は法的措置を行う事になるので返事は慎重に行うように。」
「はぁ、なんだかよくわかりませんが逮捕されるのは嫌なのでそちらに従いますよ。」
なんだか面倒事な感じがするが、逃げ出そうにも凝り固まった身体は水のボトルすら握る事も叶わないほどに弱っている。
とりあえずの了承を告げれば、即座に用意された車椅子に乗せられ車に移され、となすがままにされていれば気が付けば見覚えのある場所に着く。
「ダンジョン対策本部か、なんだか久々な気がするな。」
「無駄口はやめておきなさい。今は橘がトップに立った事で以前より君には厳しい場所だ。」
迎え入れたのはくたびれたスーツ姿の男性。
「貴方は以前カケルと話し合いをしていた、えっと名前を伺ってませんでしたね。」
「和田雄三-わだゆうぞう-だよ。今は下っ端職員に成り下がったダメ男だよ。さて世間話はここまでにして、行くとしようか。」
和田に車椅子を押され連れて来られたのは、調書室のような密閉された部屋。
緊迫した状況なのだろうが、不謹慎ながらも空腹が限界を迎えて腹が鳴る。
「さて、君のよく知る御堂君からの願いの一つを叶えるとしようか。」
「カケル?」
ことり、と置かれたのはカツ丼。
部屋に流れる妙な空気。
「...これは御堂君が君がここに連れて来られることがあるなら、まずはカツ丼を出せと言うから仕方なくであって、私の意志ではない事は理解してくれたまえ。」
警察の調書室のような部屋で出される食事がカツ丼とはなんともベタな展開だ。
若干ネタバレが早いので気まずさが出るが、流石は悪童、いつだって遊び心を忘れないお前は最高だよバカヤロー。
「折角なので頂きます。」
動かしづらい手でどうにか食べたカツ丼の味は、久々の食事という事もあってか非常に美味しかったが、胃が驚いてしまい三口程度が限界だった。
満たされぬ空腹を水で誤魔化しながら、面倒な話しが始まりを告げた。
ニートのダンジョン攻略記。
バラバラになった検証班のメンバー、そして拘束されたハジメはこれからどうなるのか。
橘林檎がトップになった対策本部の意向はどういったものなのか。
次回、吼える鬼には豆を撒け。
乞うご期待。




