目覚めのキスはご所望ですか?
ハジメが魔力切れにより意識を失った頃。
ダンジョン対策本部に所属した検証班のメンバーは、ハジメによって発見された魔力水の研究を行なっていた。
「だーかーらー、ハジメはこれの効果を調べてくれって私に届けさせたのっ!それを全部使おうってのは横暴にも程があるでしょ!?」
「あぁん?これは俺のためにハジメが持たせたもんだろうが、だいたい欲しけりゃ自分で作れば良いじゃねぇか。」
「それならリュウが自分で使う分を作ればいいじゃない!これは一刻も早く研究して実用化させるべきよ!」
「実用化ならしてんだろうがっ、右腕だけじゃ足りねぇから左腕にも刻印をしてくれって話しなのに、なんでお前らが使うって話になんだよっ!」
あーだこーだと喧しく言い合いをするユイとリュウの二人に巻き込まれまいと距離を取る本部の人間をよそに、過熱していく二人の口論は未だ決着が付きそうにない。
ハジメからの手紙を受け取ったカケルは早速に魔力水に挑戦して、あっさりと成功させてしまえばそれを手に二人の仲裁に向かう。
「なははっ、相変わらずハジメのやる事は予測が付かないから面白いよなっ。ほいっ、魔力水一丁上がり。」
「...リュウ良かったね、カケルが魔力水持ってきてくれたみたいよ?それで左腕にも刻印が出来るわね。」
「お?悪りぃなカケル。ほら、新しい魔力水来たんだしハジメのくれたやつ返せよ。」
ハジメ製もカケル製も性能は変わらないのだが、何故かハジメ製の魔力水を手放そうとしない二人に呆れるカケル。
「それならハジメに直接聞けばよくね?」
「えっ?」「お、そりゃいいな。」
こんな時でも有言即実行なカケルの手には既にコール中の携帯が握られていて、スピーカーに変えられた状態でハジメの応答を待っている。
-プルルルル、プルルルル
幾度目かのコール音の後に響く留守番電話サービスの機械音声にみんなで顔を見合わせながら、まさかね、と冗談を口にする。
ハジメに対してのみ心配性が天元突破しているユイの顔が徐々に蒼褪め、焦ったように何度も電話を掛け直す。
何度掛けても繋がらない電話に涙ぐむユイを宥めながら、スタンピードの状態を本部の人間から聞き出せば、まだハジメの家までは到達しておらず時間的な猶予でいえば最低でも五日はあるだろうとのこと。
それをユイに伝えても心配は収まらないのか、戻らぬ顔色に周囲も少しずつ焦り出す。
「しゃーない、そろそろスタンピードもどうにかしなきゃと思ってたし、元検証班で出動しますかっ!」
嫌な空気を一変させるカケルの言葉を待っていたかのように、スッと姿を現したメグが研究班から魔武器を受け取りカケルの傍に寄る。
リュウはカケル製の魔力水を手で弄りながら、左腕もハジメに描かせるか、と勝手に予定を立て始めそそくさと準備を始める。
ようやく目に光が戻ったユイは、必要そうな物資をかき集めながら準備を整えていく。
「最悪、あのバカがまた眠りこけてたら起こすには目覚めのキスしか無いな。その大役はよろしくなユイ、なははっ!」
「えっ?えぇ!?」
顔を真っ赤にしながらも小さく頷くユイに、まじかよ、と驚愕するカケルの下に駆け寄ってくる人影が一つ。
「勝手に行動を決められるのは困ります。せめて事前に報告した上で、こちらの連絡を待ってからにして下さい。」
「あー、貴重な情報提供者が危機に陥っているようなので、救出作戦を行いたいと思います。この作戦は独自行動を許可された五名で行いますので、物資等の支給以外に本部に迷惑は掛かりませんので、ご安心ください。」
そういう事では無くて、と喧しく食い付いてくる橘女史を適当にあしらいながら、カケル自身も準備を整えていく。
事態を聞きつけ駆けてきたタモツに、出発は明朝だから遅れるなよ、と声を掛け自室へ向かうカケルとメグに呆気に取られながらも、準備を始めるタモツに食って掛かる橘女史。
噛み付かれちゃ面倒だと言わんばかりに、そそくさと退散するリュウと適当に引き継ぎを済ませたユイが去ってしまえば、急に静かになるダンジョン対策本部。
「タモツ、貴方も行くつもりですか?」
「ああ、今の状況をお前がどう捉えているかは分からんが、ダンジョン攻略の最前線にいるのはお前たちではなく、検証班のメンバーだ。」
「それは彼らが技術を秘匿するから起こっている事態なわけで、こちらに協力すれば私たちが最前線に立つことが出来るはずです。」
遅々として進まないダンジョン関連の研究は、あくまで非協力的な検証班のせいであると言う橘女史に、ため息を吐きながらそれを訂正していく。
「いいかよく聞けよ、あの日君たちが馬鹿にして追いやったハジメという男が検証班の躍進を支える土台骨なんだよ。カケルという男が持つ才能を輝かせているのは彼なんだよ。」
「...彼の経歴は調べましたが、検証班の中で唯一何の取り柄もない男でしたよ?実際に会ってみてその戦いを見ても大した事のない方でしたが?」
はぁ、と深いため息を吐き呆れた表情を見せるタモツに噛み付くように文句を口にする橘女史をあしらいながらタモツも自室へと去っていく。
一人取り残された橘女史は、思い通りにならない検証班のメンバーに苛立ちながら、その原因となった男へと恨みを募らせていく。
様々な思惑が渦巻くダンジョン対策本部より、明朝、スタンピードの最前線へ向かう部隊が出立することとなった。
それはスタンピードを目前にしながら、自室で眠りこける引き篭もりの男を救う為の戦い。
「よしっ、今日も元気に行きますかっ」
ニートのダンジョン攻略記。
昏睡状態のハジメの知らないところで起きたハジメ救出作戦、それはスタンピードを止めることが出来るのか、検証班のメンバーが再び集う時、物語は加速する。
次回、絶体絶命!水洗トイレの落とし穴。
乞うご期待。




