7 友達
俺とリアナが焚き火をしていた所に、リアナの待ち合わせ相手であるラスカがやって来た。ようやく会えたラスカにリアナはとても嬉しそうだ。これにて一件落着……と思いきや、現在、物々しい雰囲気になっていて、とても困っています……
「それにしてもフリンとはなんだ?安直過ぎて偽名である意識が感じられない」
「てめぇも大して変わんねぇだろうが!なんだよラスカって、カラスをもじっただけじゃねぇか!そんなんで得意気になってる方がよほど滑稽だわ!」
そう、今まさに二羽のカラスによる熾烈な舌戦が繰り広げられており、俺とリアナは蚊帳の外に置かれているのであります……
「私は本名をベースにしていない分、貴様の偽名より数段優れている。楽しみだな、貴様が自らの安直な偽名により正体がバレて、赤っ恥をかきながら捕まるのが」
「その言葉、そっくりそのままお返ししてやらぁ!」
「フリン!」
フリンがラスカに飛びかかろうとした所で、俺はフリンを呼び止めた。
「あ?なんだ?話しなら後にしてくれ、今俺はこいつの反吐事ばかり吐き出すクチバシをへし折るのに忙しい……」
「本当なのか?フリンが偽名って……」
フリンの動きがピクっと止まる。俺はそれを確かめたかった。フリンとはそれなりに長く一緒に過ごしている。それだけにハッキリさせたかった。今まで噓の名前で友達をしていたのかを。すると、フリンはまるでクチバシに重い枷が付けられているかのように、ゆっくりと口を開いた。
「……ああ、そうだ。フリンは偽名だ」
「……そうか……」
俺はショックが隠し切れず、言葉少なに、ただ一言で返事をする。フリンはそんな俺の内心を察してか、軽口を演じて言葉を続けた。
「俺の本当の名前はフギン。まぁ、とある界隈じゃあそれなりに…いや、そこそこか?有名人でさ、厄介な追っかけに捕まらないように、偽名を使ってたんだ。リーン村じゃこんな話し滅多に聞かねぇし、スゲェだろ?……まぁ……その、なんだ……今まで噓ついてて悪かった……」
「悪かった」か……つまりは、前々から偽名を使って友達をしてた事に、負い目を感じていたって事なのかな?それならそれで俺は嬉しい。だってそれは、負い目を感じているって事は、本当は噓をつきたくなかったって事だから。友達をしていた事自体は噓ではなかったって事だから。それがわかったから、俺は嬉しい。
「いや、いいんだ。今、本当の事を言ってくれた。それだけで俺は満足だ」
俺は笑顔でそう言った。すると、フリンは照れ臭そうに羽でクチバシを擦った。
「ハッ!お前ならそう言うと思ったよ!」
俺とフリンはさっきまでの重い雰囲気を吹き飛ばすように笑い合った。リアナはそんな光景を何処か羨ましそうに見ていた。そしてラスカは、まるで元の重い雰囲気を取り戻そうするかのように、冷めた表情でフリンに話しかけた。
「フギン、貴様どういうつもりだ?何故、この小僧と親しくしている。その意味がわかっているのか?」
そう言われたフリンは途端に真剣な表情になり、ただ、一言だけしっかりとした口調で言い放った。
「わかってるよ」
ラスカはフリンのその答えに、呆れたように溜め息を吐いた。
「……まぁいい、貴様の主義志向など私の知った事ではない。だが、守らなくてはならない事柄というものがあるのでな、貴様はその小僧と別れを告げろ。我々の旅にそいつは不必要だ」
……今、なんて言った?「別れを告げろ」って言ったのか?俺は、言葉の意味が上手く理解できず、困惑の表情でフリンの方に視線を移した。俺に見られたフリンは、一度、俺から顔を逸らした後、再度俺の顔を見て言った。
「まぁ、そういうこった。俺は、こいつらと一緒に行く事になっているらしくてさ、誰にってのは秘密だが……」
秘密……か。フリンは秘密が多い。先程の偽名もだし、何で人語を話せるのかだって教えてくれない。どうしてだ、フリン?俺がこうして状況を飲み込めずにいると、ラスカが更に口を開いた。
「それと、これはリアナも同じ意見だ。小僧、貴様はさっさとあの村に帰るべきだ。そうだな、リアナ」
ラスカがリアナの方を見る。そうなのか、リアナ?俺もリアナの方を見ると彼女は戸惑ったような表情をしながら言った。
「……うん……ごめん……」
俺はその言葉を聞いた時、胸が痛くなった。言葉少なで、本人の意思かも不明な曖昧な言葉。しかし、それでも胸が痛くなった。その時、俺は無意識だったのか、それとも意識はあったが意識的にやったと思いたくなくて忘れていたのか、気付いた時にはリーン村の方へ走っていた。
何で?何で俺、走っているんだ?ただ、ついて来なくていいって言われただけだろ?村に帰れって言われただけだろ?フリンが二人について行くだけだろ?そもそも、俺の役目はリアナをラスカと会わせる事で、ついて行く事じゃなかったろ?なのに何で、俺、こんなに、泣いているんだ?孤独感を感じているんだ?何で、何で……
俺は、その場で立ち止まった。両手を膝に置き、吐きそうな位に呼吸が乱れていた。苦しかった。だが、それ以上に、何故か、過剰な程に悲しかった。泣き叫んだ。軽快な口調が耳に入るまで……
「おーい、何そんなに泣いてんだよ。正直引くぞ」
顔を上げると、フリンが俺の目の前を飛んでいた。何故?どうして?フリンはリアナとラスカと一緒に……そう疑問が次々と浮かぶ間に、フリンが喋った。
「あー、えっと、まぁ、行かねぇ事にしたんだよ。あいつらと一緒に」
「行かない?どうして?」
俺が疑問にした事をそのまま口に出した時、フリンは照れ臭そうにして言った。
「友達だからな。それにお前、意外と寂しがりだし、ほっとけねぇだろ」
普段フリンの口からは絶対でないであろう台詞に、頭が追いつかない。だが、頭はわかっていないが心はわかっていたようで、自然と俺は笑顔になっていた。
「うわっ!なんだ気持ち悪い。本当にどうしたんだお前?頭でも打ったのか?」
「頭打ってないし、なんでもない!」
俺とフリンは普段と同じように、言葉を交わし合った。だけど俺は……いや、フリンもかな、お互いその普段と同じような言葉を交わし合うのが嬉しくて、笑い合った。
「じゃあ、帰るか!」
「うん、リーン村へ!」
そう決めた矢先、鼻が妙な臭気を感じ取った。
「何か……臭くないか?」
「……確かに、なんだか臭い……煙臭い」
「ちょっと上見て来る」
フリンが空を飛んで、木の上から辺りを見渡した。すると、血相を変えて俺の方へ降りてきた。
「走るぞ、ティオ!」
「え?どうして……」
「説明してる暇はない、行くぞ!」
フリンが全速力で飛んで行き、俺はそれを追いかける。フリンがこんなに慌てるなんて何事だ?そう考えながら嫌な胸騒ぎを覚えた。何故なら、行く先がリーン村の方だったから。
「着いた!……これは……」
「どうした!……んだ……」
しばらく走り、ようやくフリンの案内する場所についた。だが、そこで目に付いたのは、さっきまでしていた焚き火とは比べ物にならないぐらい大きく、優しい温かさなどなく、悲惨を想起させる熱さがそこにはあった。
「何で……何でこんな事になっているんだ……」
リーン村が……燃えていた……




