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忌み子と黄昏の守護者  作者: 村木隼


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8/8

8 悲劇

 リーン村が燃えていた。何故?どうして?俺はそう考えるよりも先に足が動いていた。


「みんな!」


「あっ!ティオ!」


 右手に持っていた木の槍をその場に放り、燃え盛る火炎の海に飛び込む。建物は燃え倒れ、焼けるような熱さが身を包むが、それはどうでもよかった。ただ、誰か生きている者はいないのか、それが今、自分が思考できる内容の全てだった。


「誰か!誰かいないのか!」


 俺は必死に叫んだ。みんなを探して走り、熱さに喉を焼かれながら、必死に叫んだ。しかし、返事はない、いや、返事など期待していなかったのかもしれない。火は既に広く燃え広がり、建物の中には元の形状を保っていない物もある。人も、もしかしたら……そういう不安があったが、俺はそれを必死であり続ける事で誤魔化し、希望を幻視していた。


 倒壊した建物に道を阻まれる事、実に数回。もう火の海からも出られないかもしれない。それでも、走り探し続けた。すると、瓦礫の下敷きになっている人物を発見した。鍛冶屋の息子のセスだった。俺は急いで駆け寄り、声をかけた。


「セス!セス大丈夫か!」


「うっ……ゲホッゲホ、ティオ……か」


 返事がした!まだ生きている!俺は顔をしわくちゃにして喜んだ。遂に見つけた生存者、助けられるかもしれない嬉しさ。希望が幻視ではないかもしれない。俺はその事実に喜んだ。だが、セスは……


「す、すまねぇ……俺のせいだ……俺が……あいつがを挑発したから……巨人を……」


「何を言ってるんだ!それより速く逃げよう!ここも長くは保たない!」


 ティオはセスに脱出を促す。しかし、セスはうわ言のように謝罪を繰り返し聞き入れない。やがてセスは、既に虚ろになりかけた目に乾いた涙を浮かべながら、ティオの顔を見た。


「ティオ……速く逃げろ……逃げて……逃げて……生きて……くれ……」


 セスはそう言い残すと、顔を地に伏せた。


「セス?セス!セス!!起きろよ!セス!!!」


 俺はセスの身体を揺するが、セスは何の反応も示さない。俺はこの時、直感で理解してしまった。かなり走った。ここは村の奥の方だ。それでセスしかいなかった。だが、そのセスも助からなかった。つまりは誰も助からない。俺は誰も助けられない。現実は無常で、自分自身は非力である、俺は膝をついて、その事実を痛感した。


「ティオー!」


 そんな時、フリンが決死の形相でティオの下へ飛んで来た。


「ティオ!やっと見つけた!速くこの村を出るぞ!」


 フリンがティオに呼びかける。けれどもティオは動かない、動こうとしない。みんなが死んだ、みんなを助けられなかった。その悲しさがティオに生きる意思を奪っていた。


「どうしたんだティオ!動け、動くんだよ!」


 フリンは足でティオの服を引っ張って無理矢理にでも動かそうとするが、カラス一羽の力がどれ程のものか、大した事はない。故に動かす事は叶わず、ただ、刻一刻とみんなに平等に訪れた死が近づいて来ていた。


「……!うわっ!」


 遂に、自分達のすぐ近くの建物が、二人めがけて倒れ掛かってきた。フリンはそれにいち早く気付いた。それでも逃げようとはしなかった。ティオがいて、自分だけ逃げる訳にはいかなかったからだ。逃げなかった。つまりは死ぬ事を覚悟したのだ。


 建物が倒れ掛かる。二人がそれに潰される。その寸の所で、風が吹いた。一陣の()()()()()()()疾走する風が、火炎を避けて素早く、ティオとフリンを攫って、村の外まで走り出た。


 気付いたら村の外にいる。近くに放った木の槍が落ちてる。村の入り口付近か?突然の事で頭が追いつかない中、ティオとフリンは、フードを被った黒い服の中年男に抱えられている事を今知覚した。


「無事か?」


 ティオとフリンは突然の事で声が上手く出ない。その様子をよそに男は淡々と続けた。


「どうやら間に合ったようだな。……で、ついでにこいつも拾った訳だが……」


 男はフリンを見る。


「こいつは非常食か?」


「何で食う発想が出る!イカレてんのかてめぇ!」


 フリンは当然のように怒った。男はそんなフリンを見て驚いた。


「喋るカラスか?世の中は広いな」


 男はその場に座り込み、懐から白い紙に包まれた小さく細長い棒?のような物と、先が赤い小さい枝をを取り出し、細長い棒を口に加えた。何をしているのかと思った矢先、今度は小さい枝を靴の裏に素早く擦り付けると火が付いた。男はその火を棒の先に近付けて、火を移した。


「アンタそれ……」


「ん?そこなカラスさんはタバコがわかるのか?」


 タバコ……どうやら、その棒はタバコというらしい。男は棒を手に取り、口から煙を吐いた。その煙は独特な臭いがして、さっきまでいた村の火のそれとは違うと感じた。


「これはちょっとした貰い物でさ、この煙がとにかく美味いんだ。言っとくが、貴重だからやらねぇぞ」


「いらねぇよ。しかし、貰ったか……」


 フリンが何やら考え込んでいる。それをよそに男は、未だ放心状態の俺に声をかけてきた。


「して、お前さんは、どうしてあそこにいたんだ?」


 男に問われたが、俺の内心はそれどころではなかった。ガルさん、ルルエおばさん、セス、エミちゃん、ロゾ先生、みんな……みんな死んでしまった……親しかった人達が急にいなくなってしまった。その事実に俺の心は乱れに乱れていた。だが、それと同時に一つの疑問が脳裏に浮かんでいた。


「おーい、聞こえてるかー」


「どうして……」


「ん?」


「どうして、兵士達がいたのに、こんな事になったんだ……」


 当然の疑問だ、国民を守る兵士達がいたのなら、こんな事が起こるはずがない。しかし、その虚ろな独り言を聞いた男は涼しい顔で、当たり前の事を言うように答えを口にした。


「そりゃあ、お前、その兵士達がやったからこうなったんだろ」


「……へ?」


 今、なんて言った?この男は。兵士達がやった?そう言ったのか?男の言葉を聞いた時、さっきまで虚無だった俺の心が沸々と熱を帯び、激情が押し寄せた。


「そんなの噓だ!」


「いいや、噓じゃない、遠目だったけど見たもん、俺」


 男が軽い口調で返答し、俺は動揺する。噓に決まっている……でも、見ず知らずのガキに、こんな状況で、こんな質の悪い嘘をつくか?噓をつくのならそいつは相当な悪人だ。だけど、この男はそうは見えない。じゃあ、いや、でも……


 現実を受け止められない俺をフリンが同情の目で見ている。男はそんな俺に呆れているかのように小さく溜め息を吐く。


「まぁ、お前さんがどう思おうか知ったこっちゃないが、現実は見た方がいいぜ」


 そう言って男は、燃えている村の方を見る。


「お前さん、あの村の者なんだろ?」


「え?何で……」


「わかるさ、あの村が燃えてここまで悲しんでる。家族や友達がいたんだろ?辛かったな」


 「辛かったな」そう言われて涙がこみ上げそうになる。そんな俺を見た男は、少し困ったように頭をかいて続ける。


「それでだが、兵士達は村を燃やした。何でかは知らないが、取りあえず村人を殺したかったって事だろう。じゃあ、同じ村人のお前さんはどうなる?って事だ。すぐ離れた方がいい」


 背筋に悪寒が走る。まさか……この男はこう言いたいのか?()()()()()()()()()()()と……兵士達が……俺を……?


「そんな……ありえない……どうして……」


 男が俺を冷めた目で見ている。


「んじゃま、忠告はしたぜ、どうするかはてめぇで決めな」


 男が立ち上がり、村の逆方向へ歩いて行く。そこをフリンが呼び止め、男は歩みを止めて振り返る。


「アンタは何でこの村に来た、それと、名前は?」


 男は、顎に手を置いて考え込み、やがて口を開いた。


「ただの通りすがりだ。それと……アイズだ、そう覚えてくれ」


 男はそう告げるとその場を去って行った。


 フリンは、アイズと名乗る男を見送った後、ティオを心配そうに見た。


「ティオ……」


 ティオは、深く戸惑っている。村の人達の死、今まで憧れていた兵士達に命を狙われる。それらのショックな出来事に思考がパニックを起こし、行動を起こせずにいた。


 すると、フリンはティオに聞こえないぐらい小声で「仕方ねぇ」と言った後、ティオに激を飛ばした。


「いつまでそうしてんだ!リアナが危ねぇかもしれねぇんだぞ!」


 ティオが「リアナが危ない」というワードにピクっと反応する。


「え?どうして……」


「わかんねぇのか?兵士達は何でこの村に来た?リアナを探していたからだろ!」


 俺はハッとする。失念していた、そうだ、兵士達はリアナを探していた。であれば、まだ、飲み込めないけど、村を焼いた兵士達がリアナに危害を及ぼす可能性は否めない。だけど……


「だけど、俺に何ができる?村の人達を一人も救えなかった俺に、何が……」


 そんな弱音を聞いたフリンは舌打ちをして、俺の胸倉を足で引っ張った。


「まだわかんねぇだろうが!お前は助けられるかもしれねぇ奴を助けねぇのか!」


 「助けられるかもしれない」その言葉を聞いた時、夢の中のあの子の「助けて!」を思い出した。助けられるかもしれない?そう思うと胸が熱くなっていくのを感じた。


「助け……られる……?」


「ああ、そうだ。お前なら助けられる」


 更に胸が熱くなる。助けられる。()()()()()()()()!俺は何度もそう考えていて、気付くと近くに放っていた木の槍を拾っていた。そして、虚ろだった瞳は色を取り戻し、その瞳孔には決意が灯っていた。


「うん、行くよ!」


「ああ、行け!」


 俺は走った。リアナのいるリリルエの洞窟へ。走っている最中、夢の中のあの子に手が届かなかった光景を思い出した。あの光景は何度も見た。見るたびにもどかしくて、少し胸が痛んだ。だけど、今度は届くかもしれない、いや、届かせないといけないんだ!そう考えて俺は足に力を入れて、力の限り走った。


 今度こそ助ける為に!

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