5 リリルエの洞窟へ
「リリルエの洞窟?」
それって、リリルエの森の奥の更に奥にあるっていう洞窟の事だよな?でも、村の人達が言うにはあそこは何も無いし、村から遠いから行っても疲れるだけらしいけど……
「そこって、本当は何かあるの?」
「それは……」
なんだか言い辛そうにしている……じゃあそうだな、あのカラスと知り合いなのかもしれないという事で……
「じゃあ、誰かと待ち合わせしているとか?」
「そ、そう!そうなの!待ち合わせしてるの!だから、すぐ行かないといけないの!」
思いっ切り誤魔化しているとわかる素振りでリアナがそう言った。じゃあそういう事にしておこう。
「……そうなのか……うん、いいよ。外には兵士達もいるし、俺がリアナをリリルエの洞窟まで連れて行くよ」
「……!うん、ありがとう!」
リアナの顔がパアァっと明るくなった。初めてリアナの笑顔を見たけど、すごく似合っている。いい笑顔だ。
「本当に行くのか?」
すると、フリンが冷めた表情でそう言った。こんなフリン見た事ないな…そういえば、リアナを見てから態度が変だった。というか、リアナもフリンが喋っているのを見ても驚いていない……この二人って知り合いだったのか?俺がそう考えていると、リアナが真剣な表情でフリンを見た。
「うん、あなたも一緒に来て」
「一緒に……?」
「うん」
「どうしてもか?」
「どうしても」
フリンは険しい表情で考え込み、一度、俺の方を見たかと思いきや大きくため息を吐いた。
「……わかったよ。ついて行く。ついて行きゃいいんだろ」
「ありがとう……」
よくわからないけど、話しは終わったらしい。リアナとフリン。二人の関係は気になるけど、今はリリルエの洞窟だ。少し遠出になるからしっかり準備しないと。そう思い、俺はボロボロのクローゼットからお手製の木の槍を取り出した。
「……おい、それって……」
「何?これ?もちろん槍だけど?」
「お前、今朝も持ってってなかったか?」
「そうだね、全部で十本あるんだ。それがどうかした?」
「いや、なんというか……用意周到だなぁって……」
「?、ありがとう?」
俺は、何故か呆れ顔のフリンに見守られながら、出掛ける準備を始めた。
「私も手伝う」
リアナが手伝いを申し出てくれた。
「ありがとう。じゃあこのカバンに食料を詰めてくれる?」
「うん!」
なんだかリアナが嬉しそうに見えて俺も嬉しかった。何で嬉しそうにしてたのかはわからないけど。
「しかし、やたらと兵士の数が多いな。その例の指名手配者ここにいると思ってんじゃねぇか?」
「えっ?」
フリンが窓の外を眺めながら言う。それを聞いてリアナが怯える。
「フリン!」
「あっやべ!」
俺がフリンを叱責し、フリンは両の羽で口を塞いだ。まったく……だけど、兵士の数が多いのは厄介だな…相応の覚悟を持って森に向かうべきだな。そう思いながら準備を進めた。
「あー疲れたー。少し休もう」
「って…フリン!俺の頭の上に乗っかるな!まだそんなに時間経ってないだろ!」
「お前らのペースに合わせんの疲れんだよ。世のカラスを見てみろ。人に合わせて飛ぶ奴なんかいないだろ」
「確かにそうだけど重いんだよ」
と…思っていたんだけど、案外簡単に村を出られた。村を出る際に兵士達に見つからないか心配だったけど、その兵士達の指揮をしていたアスモナードって騎士が結構いい加減な性格だったらしく、兵士達の巡回ルートが滅茶苦茶で、すんなりと村を出る事ができた。騎士は兵士よりも偉いらしいけど、あのアスモナードって騎士は見習わないでおこう。
「そういえば、嬢ちゃんが待ち合わせしてる相手ってどんな奴なんだ?」
「えっと…優しい性格だよ。いつも私の事を心配してくれる。でも、少し口が悪くて他人の事を「貴様」って呼ぶの」
貴様って…ちょっと話し辛そうな人だな……というか、人なのか?待ち合わせ相手って?あのカラスの可能性もあるけど……そう考えているとフリンがブルブルと震えだした。
「フリンどうしたんだ?」
「いや、なんだか寒気がしてさ、嫌な奴を思い出しちまった」
嫌な奴……フリンで嫌な奴……フリンはカラス……森でリアナの居場所を教えたのもカラス…………まさかな……
その頃リーン村では、騎士アスモナードが兵士相手に癇癪を起こしていた。
「バカ野郎!城を出て二ヶ月以上経っているというのに、まだガキは見つかんねぇのか!」
「申し訳ありません!村の隅々まで探しているのですが、影も形も無く……やはり、この村にもいないのでは?」
「家の中は探したのか?」
「は?」
「家の中も探したのか聞いてんだ!いいか!この村は王国のド田舎だ!どうせ俺ら都会の者を妬んで嘘をついてるに違ぇねぇ!わかったらさっさと探しやがれ!」
「りょっ了解しました!」
兵士が走り去って行く。ったく…使えねぇ、今みてぇに発破かけてやんねぇとキビキビ働かねぇんだからなぁ、とんだ無能集団だぜ。そう思いながらアスモナードは花壇に腰を下ろし、頬杖をついた。その姿を村の人達は煙たく見ていた。
しかし、例のガキ…"忌み子"はどこにいるんだ?奴を探し出せば国に貢献ができて、俺も出世街道まっしぐらだから、こんな役に立たない集団率いて捜査隊を結成したっていうのに、一向に見つかる気配が無い。国を出て二ヶ月以上経ってるから、このままおめおめ帰る事もできねぇし……さて、どうすっかなぁ……
アスモナードがそう考えていると一人の兵士がやって来た。
「アスモナード様!指名手配者と思しき少女を見たという少年を連れて来ました!」
「何!?本当か!どいつだ!」
「俺だよ」
連れて来られたのは鍛冶屋の息子のセスだった。セスは険しい表情ではアスモナードを睨み付けていた。
「お前がそうか、その生意気な目付きは今は置いといてやる。話せ。何処で見た」
アスモナードの言葉を聞いて、セスはより一層表情を険しくした。
「教えてやんねぇ」
「何?」
「教えてやんねぇって言ってんだよタコ!そのアホ面引っさげて王様に「何も見つかりませんでした!ごめんなさーい!」って言いやがれバーカ!」
「ぐぬぬぬぬ……!」
アスモナードはセスの煽りを受けて額に血管を浮かび上がらせ、力いっぱいにセスの顔面を殴った。周囲にいた兵士や村の人達はどよめき、倒れたセスに元大工のガルとパン屋のルルエが駆け寄った。
「セス!ああ、血が!」
「こんな事して、アンタそれでも騎士かい!」
「あーうるせぇうるせぇうるせぇ!」
アスモナードが腰の剣を引き抜き、剣先をセスに向ける。村の人の悲鳴が上がる。
「ろくに国へ貢献もしねぇこの村と村の住人を見てるとイライラすんだよ!騎士様だぞ俺は!この俺を侮辱しやがって…ぶっ殺してやる!!」
アスモナードがセスに剣を突き刺そうとしたその時、ガルが割って入った。
「待ってくれ!」
「あ?俺はこいつを処刑するのに忙しいんだ!後にしろ!」
「人相書きの人物なら私も見た!教える!」
アスモナードの眉がピクリと動く。
「……本当か?」
「本当だ。光の神にも誓える」
アスモナードはその言葉を聞いた瞬間、一定の冷静さを取り戻し、構えた剣を下した。
「……言え」
「リリルエの森だ。そこにティオという村の少年と共に行っているのを見た。あの子は優しい少年だ、戻って来たら聞いてみるといい。さっきまでのアンタへの無礼も謝罪する。だから、セスは…この子は許してやってくれ……」
ガルは震えながら頭を地面に付けて謝罪する。ルルエも続いてそう謝罪する。
精一杯の謝罪、そして、光の神への誓い。その誠意を目にしたアスモナードは、手にした剣を鞘に収めた。
「フン、いい、光の神に誓った者に免じて許してやる」
「あ、ありがとうございます!」
アスモナードはマントを翻してその場を立ち去り、歩きながら腰に付けた道具袋から、一つの赤い宝石を取り出して不敵な笑みを浮かべながら眺める。だが、俺への侮辱は村も同罪だ……そう恨み節を心中に吐出しながら……




