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世界は僕らに優しくない  作者: 乃東生
〜 昔日の幻影に惑う 〜
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69.暴挙と策略


 扉を開けると外にも兵士がいて、その兵士の背後に見えた人物にシィアは眉を寄せる。


( …何で()()()が… )


 扉を閉めると言われ完全に廊下へと出たシィア。そのシィアに会いに来た人物、耳をピンとたて僅かに目を細めた狼獣人――、プロメテがこちらを見下ろす。



「ワイズが呼んでいるわ。一緒に来て」

「……」

「……聞いてるの? 早くしなさい」

「……」



 返事をしないシィアにプロメテは視線を鋭くする。

 それでも黙ったままでいると警備の兵士も気になったのだろうこちらをチラチラと見だし、プロメテは焦ったようにシィアへと手を伸ばした。



「さっさと来なさいよ!」



 シィアを捕まえようと伸びた腕をパシリと弾く。



「――!」

「嘘だ、プロメテが言ってることは全部嘘だよ。何でそんな嘘をつくの」

「はっ! な、何言って…」



 動揺を顔と声に出したプロメテ。流石におかしいと思ったのか兵士も動いた。



「おい――」



 かけられた声に、咄嗟に反応したプロメテの足が空を舞い兵士の首へと決まる。

 声をあげることもなくドウッとそのまま崩れ落ちた兵士。


( ――えっ!? )


 驚いたのは一瞬、すぐにハッと我に返りシィアは身を翻す。でも、純粋な獣人でバインガレエズの一員であるプロメテの方が圧倒的に速い。

 ――迫る殺気。

 後ろから襲った首への衝撃と、シィアの腕にあるアミュレットの発動はほぼ同時だった。だけどほんの少しプロメテの方が勝った。


 トーリがくれた白銀のブレスレット型のアミュレット。傷つくのが嫌で貰って以降しまい込んでいたが、この前の襲撃のあとトーリに厳しく言われて渋々つけていた。そしてそれは基本、シィアが危機を感じないと発動しない。つまり早めの危機管理能力が必要なのだ。


 なのでアミュレットは発動したが、ただ少し遅く。シィアの意識は衝撃と共に落ちた。




 倒れたシィアをプロメテは忌々しそうに見下ろし、舌打ちをついて小さな体を掴みあげる。伊達に獣人ではない。こんな子供一人の重さなど何の苦もない。


 そのまま首の骨が折れて死ねばいいと思ったがアミュレットが発動して命を奪うまではいかなかった。

 だが()との約束としてはそれで良かった。言われているのは『生きている』が条件だ。だから手足が折れてようが構わないのだけどアミュレットが発動してはもうそれも出来ない。それが余計に腹立たしい。

 まあ、アミュレットの存在は確認したので次は失敗しない。


 扉の向こうで動きが見られる。咄嗟のことで配慮が出来ずに物音をたててしまったので仕方がない。

 全てはこの半端な獣人もどきが素直について来なかったからだ。小脇に抱えたシィアを見下ろし、プロメテは再び舌打つとすぐにその場を離れた。

 






「倒れていた兵士は恐らく厳しいかと…」

「そうか…。 …で、あの子はまだ見つからないのだな?」

「建物内にはいないようです。狼獣人の女の方も見当たりません」

「捜索範囲を広げてくれ。それと私の弟を呼んで来てくれるか、たぶん広場にいるだろう」



 わかりました。と、報告に来た兵士が去って行くとクロビィスは小さな息を吐く。

 シィアが連れ去られた。そしてそれを行ったのは確実にシィアに会いに来た狼獣人だ。

 バインガレエズのプロメテと名乗っていたそうだが、今日来ている獣人たちの出席名簿にその名はなかった。

 


「どうやらさっき出て行った獣人の子が連れ去られたみたいね」

「しかも犯人は獣人だって?」

「内輪揉めってやつだな。はた迷惑な」

「獣人なんて招くからこんなこと――」

 

 

 部屋の隅の貴族たちの姦しいおしゃべりを視線を向けることで黙らせ、再び思考を巡らせようとしたクロビィスだったが、勢いよく開けられた扉の音で結局それは中断となった。




「クロビィス! シィアが居なくなったって!?」



 トーリは部屋の奥にいるクロビィスへと急ぎ足で近づくと、守るように兵士が前へと出たが「構わない」と静かな声が制す。



「ああ。おそらく、プロメテという狼獣人が連れ去った」

「連れ去った? プロメテ…?」



 プロメテ…と、もう一度呟きトーリは眉を寄せる。

 この前聞いた名だ。確か船の爆発に巻き込まれた獣人の一人で、他の仲間の遺体は見つかったが彼女だけは行方不明のままであったはずだ。



「それは間違いなく?」

「私は会ってないからな。だが兵士の話ではそうだ。薄茶色の毛で茶色の目だったらしいが?」

「…いえ、僕も覚えてはいないので」



 初めてバインガレエズの宿舎に行った時にいただろうけど、名も紹介されてないしハッキリとは覚えていない。

 でもまあ、それはグエンダルにでも聞けばわかるだろう。それよりも、クロビィスにはシィアをよろしくと言ったはずなのに。



「……あまり心配してなさそうですね」

「そうかい? 心配はしてるよ、だから兵士たちにも捜索させているだろう?」



 トーリの咎めるような眼差しにクロビィスは心外だというように眉尻を下げてみせる。

 だけどそれは余計にわざとらしく見えて。トーリが視線をさらに細めると、クロビィスの横で常に影のように控えていた男が「…コホン」と咳をつく。おそらくクロビィスの補佐官だろう。



「大丈夫ですよ。閣下はあの少女に『デルタの目』を預けてますから」

「デルタの目を?」

「ええ。そしてこちらが『バルドラの目』です」



 どうぞと渡されたのは赤い石のついたペンダント。

 デルタの目、バルドラの目。その二つの名はこの国の神話から取ってきたもので、神によって離れ離れにされた恋人たちの名だ。互いに遠くから見つめ合うことしか出来なくなった恋人たちの神話に則り、片割れを持つ者を見つけることが出来る。

 デルタの目に関しては割と貴重なもので、国の宰相だからこそ持たされていたのだろう。でも、そういうわけか。



「戻ってこないとこちらも困りますので」

「だろうね」



 言うように困った顔で言う補佐官からジロリとクロビィスへと視線を戻す。



「…どこまでが(はかりごと)の内ですか?」

「謀だなんて。私は必要になるかもしれないと思って渡しただけだよ」


 

 それが全てではないのか? と思うが今はそんな話をしてる場合ではない。

 狼獣人であることは間違いないと思うが、それが本当にバインガレエズの一員かわからない。その上一緒にいた兵士が瀕死の重傷を追っているということはどう考えても良くない状況だ。アヴァロンが仕掛けて来た最中だというのも付け加えれば尚。



「…少しの間お借りします」



 そう言って背を向けたトーリに「気をつけるように」とクロビィスの声。

 気をつけるようなことが起こるとわかっての言葉なのかと勘繰りたくなるが、それもさっきと同様に今はパスだ。

 トーリは肩越しに振り返り小さく頷き部屋を出た。取りあえず向かうはバインガレエズたちの元。


 下の騒動はほぼカタが付いている。脅威だったのは爆破石のみ。それをどうにかすれば残った人間などバインガレエズたちの敵ではない。ただよくあれだけの魔石を集められたとは思う。その元を辿ればアヴァロンが変化した理由に辿り着けるだろう。だけどそれは自分の関与するところではない。

 

 アヴァロンの人間たちを縛るのは兵士に任せバインガレエズの面々は既に高みの見物状態である。

 


「爆破石っていったって爆発させなきゃただの石だよなぁ」

「だよな。それにあんなもん使うより殴り飛ばす方が早いだろ」

「まあ数が多くてめんどくさかったけど。 ところで取り上げた爆破石持ってんだけど? 確か発動条件は――」

「おい! 馬鹿止めろ!」



 発動条件は魔力だ。だから獣人たちでは起動できない。だからと言ってアヴァロンの人間たち全員が魔力持ちというわけではなく、発動させるためだけの魔石を持っていた。

 そんなことを知ってか知らずか、どうでもいいのか。お手玉のようにもて遊ぶ獣人たちの元へと向かい、トーリはグエンダルの姿を探す。



「グエンダルは?」

「あ? えーっと…、ああ、あそこだ」



 鼻先をあげて匂いを辿った獣人が指差した方向にはグエンダルと、ワイズとダレルもいた。三人共に険しい顔で。


 「――グエンダル」と声をかけると黒毛の狼獣人が振り向く。そして険しい顔のままに先に口を開いた。



「お前、シィアに会ったか?」

「え?」

「ワイズがシィアの匂いがしたって言うんだ。でもシィアは建物内だろ?」

「……」



 流石と言おうか。


 トーリは苦い顔でひとつ息を零し、先ほど聞いたことを三人へと伝えた。




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