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世界は僕らに優しくない  作者: 乃東生
〜 昔日の幻影に惑う 〜
68/73

68.再びの襲撃


 爆発音は間を置かずに幾度か続き、そこに張り上げた声が交ざる。



「正義は我らに!」

「裁きは下された!」

「獣と手を取る者も同罪である!」

「同志よ続け!アヴァロンは――」



「…ふむ、アヴァロンか…」


 

 爆発音と共に徐々に近づく声。苦々しい顔で呟いたクロビィスを警備についていた兵士たちが囲う。



「閣下、後ろへ! 建物内へ避難を!」

「きゃあぁ!何!? なんなの!」

「へ、兵士よ、私たちも一緒に守ってくれ!」

「まず優先するべきは閣下だ!」

「はっ!? 何言ってるのよ!私も早く助けなさいよ!」

「うわぁ! また爆発したぞ!」



 クロビィスを守る兵士と貴族たちで騒然とする場。トーリはシィアをテラスの隅へとやった。



「シィア、ここにいて」

「トーリは?」

「僕は下に行ってくる」

「シィアも行く!」

「いや、シィアはここに居てくれ。状況を確認してくるだけだから」

「でもっ!」



 トーリが行くのならシィアだってついて行く。

 ぎゅっと服を掴んで見上げるとトーリは眉尻を下げる。そして困ったトーリが助けを求めたのは、形式上の自分の兄。

 (トーリ)の視線を受けてクロビィスは軽く目を瞬かせたあと小さく息を吐く。



「…シィア、君は私と来なさい」

「え?」



 急に後ろからかかった声に振り向くと兵士に囲まれたクロビィスと目が合う。



「あの…、でも…」



 今までのやり取りからシィアの中ではクロビィスは悪い人ではないという位置だ。それにトーリの兄で、偉い人。そんな人から言われた言葉を無視することは出来ずに、トーリとクロビィスへと視線を彷徨わせ、最後はやはりトーリを見上げた。



「シィア、クロビィスと一緒に行って」

「……でも」

「それじゃあこうしよう。シィアは僕の兄を守っててくれるかい? その方が僕も気が楽だ」

「……」



 ズルい言い方だと思う。きちんと自分の利もいれてシィアが断わりにくいことを言う。大体クロビィスの周りには兵士たちがいるのだ、シィアがいる意味なんてないだろう。

 

 渋々と頷くシィアにトーリは緩く笑って。自らが引き合いに出したクロビィスへと顔を向けた。



「シィアをよろしくお願いします」

「ふむ…、だけどお前の話だと、お願いするのは私の方じゃないのかい?」

「それは、」

「……ふ、まあいいさ。ところで――、……大丈夫なんだね?」



 大丈夫、とはトーリ自身のことだ。トーリは喧騒としている下に降りようとしているから。そしてとうとう広場にいる兵士たちのすぐ側で爆発が起こった。

 


「…爆破石を使っているのか。しかも随分と大量だな…」

「閣下そろそろ本当に非難を」

「ああ、わかっている」



 爆発で一度外に向けた視線を元に戻しクロビィスはトーリを見る。先ほどの答えを促すように。



「僕は大丈夫ですよ。それは、貴方も知ってるでしょう」



 トーリは綺麗な笑みを浮かべて答える。それはまさに作ったような笑顔で、感情を窺わせないそれにシィアは首を傾げるが、クロビィスは少しだけ眉を寄せ静かに目を伏せた。

 


「わかった。ただちゃんと気をつけるように」

「もちろん、そうします」

「ああ。…じゃあシィアはこちらに」

「うん…」



 もう了承したことなので今さら嫌だとは言わないが、トーリを何度も振り返り後ろ髪を引きながらシィアはクロビィスの側へ。そして兵士に囲まれながら建物内へと入り廊下を急ぐ。

 

 廊下に出た途端、いや、トーリの姿が見えなくなった途端、耳を倒したシィア。当然尻尾もダラリと下がる。

 そんなシィアを見てクロビィスは苦笑を浮かべた。



「確認してくるだけだと言っていたからすぐ戻るだろう」

「…うん」



 大丈夫なのはわかっている。だって下にはバインガレエズの面々がいるのだから。むしろここにいるより安全かもしれない。

 そう、わかっている。わかっているのだけど…。



 シュンと肩を落とし歩いているうちに扉の前へとたどり着き、兵士に促され部屋に入ると中には同じように避難してきた貴族たちがいた。

 先ほどのパニックは落ち着いたのか、彼らはまずクロビィスに視線を置き、そのあとに続いたシィアに顔をしかめた。

 

 テラスとは違いここは封鎖された空間。そこで改めてシィアの容姿を認識したのだろう。とても今さらなのだが。

 

 耳をペタンと伏せ、ヒソヒソと囁く声を塞ぐ。どうせ嫌なことを言われてるだろうとわかっているし、聞こえなくても彼らから届く感情はどうしたって良いものではない。

 そしてそういう密やかに話している声は割ときちんと聞こえるものである。それを拾ったのだろうクロビィスは小さくため息を吐き、シィアを部屋の奥へと促がした。



「ここは結界師によって防御結界が張られているんだよ、だから安全だ」

「結界師…、シィアの知り合いにもいてるよ」

「ああ、ウェルネスカ・ジーンバルだね」

「知ってるの?」

「会ったことはないが、でも話は聞いている」



 ウェルネスカの名前が出て、シィアは沈んでいた顔をやっと晴らす。

 ただシィアはクロビィスが言った「話は聞いている」がトーリから聞いたと考えたが、だけどもしここにトーリがいれば、きっと苦い顔をしただろう。どこまで把握されてるのかと。


 シィアはクロビィスに案内されたソファーへと座り、クロビィス自身は立ったまま周りの人に指示を出す。その顔はさっきまで見せていたものとは違いピリッとしたもので、偉い人というのも頷けた。


 

「シィア、今回は魔術師も連れて来ているし、バインガレエズもいるのだからすぐに決着はつく。不安に思うことはないよ」

「あ、うん…」



 一旦指示を終えたクロビィスが机を挟んだ向かいの席に座り言う。だけどシィアは不安に思っていたわけではなくて、クロビィスやその周りが忙しいのに、ただ座っているだけの自分を申し訳なく思ったからだ。

 ちなみに入り口近くにいる貴族の人たちはこの状況にずっと文句だけを言っている。扉の前に立つ兵士の顔が強張っているのに気づかないんだろうか。

 

 それにしても魔術師か…。

 余計に外が気になり、時折聞こえる小さな爆発音にシィアの耳がピクリピクリと動く。

 小さな笑い声が零されたのはそんな時。

 耳と同じに顔を正面に向けたら、座ってなお忙しく人が生き来していたクロビィスの周りが静かになっていて、緩く目を細めたクロビィスがシィアを見る。



「トーリが心配かい?」

「え…、……」



 心配かと言われればそうだけど、そこまで深刻には思ってはいない。だって下にはワイズもグエンダルもいるから。

 何も言えずに黙っているとクロビィスの質問が変わる。



「君はよっぽど好きなんだね?」



 疑問になっているけれどそれは確認で、誰かなんて聞かなくてもシィアは迷うことなく「うん!」と頷く。その間髪入れない返事にクロビィスは柔らかく笑った。



「そういったことが大事なんだろうね」

「?」

「人を人と足らしめるのに必要なことだよ」

「……よく、わからない」

「それでいい。余計な感情は純粋な気持ちを変質させてしまうから。だから君は、シィアは、そのままでいい」



 やはり意味がわからなくて首を傾げるシィアにクロビィスはそれ以上何も言わず。再びの人の往来で話はそこで終わった。

 けれど恐らくそれはトーリになのだろう。なのでもう一度話を聞こうと待っていると、扉の前に立っていた兵士がクロビィスに近寄り耳打ちをする。



「…シィアに?」



 クロビィスが零した声にシィアはピクリと耳を揺らす。

 シィアに何か用事だろうか?

 チラリとこちらを見たクロビィス。視線はシィアから手首にある()()()()()()()()()へと移動し、しかしすぐに何か言うわけでもなく思案すように眉を寄せたあとゆっくりと口を開く。

 

 

「君に会いに人が来ているようだ」

「シィアに?」

「バナシア…ワイズ殿の使いらしい」

「ワイズの?」



 なんだろうと立ち上がり扉へ向かおうとしたシィアをクロビィスが止める。



「待ってくれ、これを君に」



 そう言うと自らが首にさげていた細い鎖のようなものを外し、ギョッとする周りの人など気にもせずシィアを手招くと、それを首にかけられた。シィアの胸元当たりに小さな青い石がぶら下がる。



「…これは?」

「何でもないよ、ただの保険だ。戻ったらまた返してもらう」

「ふーん?」



 何だかわからないけど持っておけばいいのかと、揺れると邪魔なので服の下に入れ今度こそ扉へと向かった。




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