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道は皆で切り開くもの

「ここが、ダンジョンスクール、ね……」


 ミヒトに招待されたミサクは、興味深そうに辺りを見回した。


 そこでは、勇者を目指す子供達が木の棒を片手に小型モンスターとちゃんばらをしたり、マリオンに魔法を習ったり、今の常識では有り得ない光景ばかり広がっていた。


「これから時代を変えていくのは若い世代……子供だ。子供のうちにモンスターと触れ合い、魔族と交流をすれば、自然と魔族=悪というイメージも抜けると思って」


 水を操るティナに感激する少年を見ながら、ミサクが息を吐く。


「作戦は悪くないけど……方法が危ういわよ」


 当然、ダンジョンでスクールをやるからと言って人が集まるわけもなく、この勇者志望の子供達は、ミサクが『勇者が直々に監修しながら特訓場に連れていく』との謳い文句で付近の町から連れて来たものだ。


「事故は出さないでよね、あたしの責任になるんだから」

「わかってる。ミサクには迷惑掛けないようにするよ。……ありがとな」


 こうして夢に一歩近づくことが出来たのもミサクのおかげだと笑うミヒトから、ミサクは顔を赤くして目を逸らし「……どういたしまして」と早口に呟いた。


「はっはっはー! どうだ! スーはそんじょそこらのスライムじゃないぞ!」

「このっ……!」


 スライムに煽られた少年は熱くなり、やみくもに木の棒を振り回すが全く当たらない。

 半泣きになってきたところを見かねて、ミヒトが少年の隣に立った。


「ほら、こういうタイプには自分からやみくもに狙うんじゃなくて」


 背後に立ち、少年の手に自分の手を重ねてに木の棒を掴む。


「何度か跳ねて、突っ込んできた時に……こう!」

「あいたっ!」


 ミヒトの振った棒が、スーの脳天に直撃した。


「いったー……反則! 反則!」


 ぶーぶー文句を言うスーを無視して、ミヒトは少年に戦闘のコツを細かく教える。……とはいえ相手はスライムなのだが、実戦経験の無い少年にとってはこの戦いはとても新鮮な経験であり、狂暴な狼を相手にするかのごとく、緊迫した面持ちで木の棒を向ける。


「再戦だ! 今度は先生の手を借りず、俺一人で勝つ!!」

「おーそうこなくっちゃ! 勝負だちびっ子!」

「チビ言うなお前の方がチビだろ!!」


 もう許せねえとキレた少年がスーを追い、スーはきゃーきゃーはしゃいで逃げている。


「このっ……」


 ムキになって棒を振り上げようとした時、先程の教えが頭に浮かんだ。


「………」


 足を止め、棒を両手で持ったまま少し下げた少年に向けて、スーが急ブレーキをかけて弾み、突っ込んでいった。


「隙あり――」


 少年はスーの軌道に合わせて棒を置いた。

 スーは見事に棒にめり込み「ぷきゅっ!」と鳴き声なのかなんなのかよくわからない音を出して打ち返される。


「やったぜ!」


 ガッツポーズを取った少年は、起きあがったスーを見て顔の前に手をやり「げっ」と後ずさった。


「やるな! それでこそ我がライバルだ!!」


 スーの顔は棒が当たった時のまま凹み、めり込んだ変な形になっている。


「それより大丈夫なのかそれ!? 気持ち悪いことになってるけど!!」

「大丈夫スライムだから! スーはモンスターの中でも最弱……勝ったからと言っていい気にならないことだな!!」

「最弱とか自分で言うのかよ!」

「誰が最弱だ!!」

「理不尽だなこのスライム!!」



 翻弄される少年と昔スーと出会った頃の自分が重なり、ミヒトの顔に苦笑が浮かぶ。


「本当変わったスライムよね……」

「まあ、アイツは普通ではないな」


 あの戦いに立ち会わなかったミサクはスーの正体を知らない。特に隠しているわけでもないが、説明も難しく、基本的にスライムの姿以外取れないため話してもいない。


「ミサクさん!」「ミサクさんだぁ!」


 声をかけられ視線を下げると、十歳ほどの小さい女の子二人がミサクを見上げていた。

「覚えてますか、私たち、前にミサクさんに助けて頂いたんです!」


「……あたしに?」


「はい! たくさんの魔獣を、ミサクさんに追い払って頂きました!」


 その話を聞いてミサクが「あの時の……」とハッとした顔をする。


「あまりお礼も出来ないのに、一人で一生懸命戦ってくれたあなたを見て思ったんです」

「私達、このままじゃダメだって。魔物が来るたびに、頼ってちゃいけないって」


 茶髪の少女は気の棒を凛々しく構え、地面を思い切り蹴って浮かせた小石を浮かせ、一閃した。小石は、黒髪の少女の隣を通り抜け、壁に強く当たって跳ね返る。


 黒髪の少女は返ってきた小石を首を傾けて避け、魔法書を開くと指先で魔法陣を描き、石に冷気の弾を当てて周囲の大気ごと氷結させて打ち落とした。


「私、パワーと動態視力には自信があります!」「私、人より魔力が多いのです」


 唖然とするミサクの手を片方ずつ取り、少女達が顔を見上げる。


「私にどんな脅威も打ち砕ける剣術を」「私にどんな侵攻も防ぎ守れる魔術を」

「「教えてください!」」


 戸惑うミサクと、二人の少女の視線が交差する。


「……その二人はミサクに救われて、ミサクに憧れて、ミサクのような勇者になるために、講師も居ない小さな村で候補として認められるまでに訓練を積んで、町にまで出たんだと」


 ミサクはミヒトの方を見て、再度二人の少女を見た。


「やっぱり、ミサクのしたことに無駄なんて無かったんだよ」


 自身の頬を伝うものに気づいて、ミサクは慌てて目をこすった。


「ミサクさん……?」


 心配そうにする二人に「目に砂が入っただけだから……」と取り繕う。


「あなたが思いっ切り石蹴ったりするから……」

「な、なにさ! だいたいアンタだって――」

「あ、ち、違う違う!」


 喧嘩を始めてしまいそうになったところを止め、二人の頭に手を置いた。


「砂っていうか虫っていうか……、それで、どっちから教えて欲しいの?」


 誤魔化すように繋げられた言葉を聞いて、二人が顔を見合わせた。

 彼女達は効き手が逆らしく、同時に手を挙げたと思えばそれがぶつかりあって互いを睨み、棒と魔法書物を構えた。『こうなれば勝った方が……』交差する瞳がそう語っている。


(あれ? この子達もしかして仲悪い?)


 まるで正反対に見える二人の行く末を案じ、ミサクが頭を悩ませる。


「あ、そうだ」


 不意に発された声を聞いて、少女達が振り向いた。


「じゃあ纏めてかかっておいでよ。戦闘に関して同時に見てあげるから」


 二人は顔を見合わせ、まじまじとミサクを見た。

 遠慮は要らないと言われると、二人同時に地を蹴って別方向に跳ぶ。


(気が合わない故か、自然と分かれるコンビネーションはすごいわね……)


 どちらを追うか迷った一瞬の隙を突いて、茶髪の少女が飛び掛かった。


「てぇい!」


 ミサクはひらりと棒をかわし、右足を踏み出した。

 そこを見逃さず、少女は先読みしミサクの右側に回り込もうとする。

 瞬間、視界からミザクの姿が消えた。


「……はい。先ずは一人」


 いつの間にか逆に少女の背後を取っていたミサクは木の棒をひょいと抜き取り、冷気を感じる方向へ振り向いた。


「えっと……、アイスクラッシュ!」


 黒髪の少女が叫んだ頃にはもうミサクは射程範囲外に出ており、後には巨大な氷の砕け散った破片のみが残された。

 ミサクが少女に接近すると、少女は魔法書を捲りながら距離を取り始めた。


「え、えっと……えい、やあ……!」


 魔法書をちらちら見ながら小さな爆発や火で攻撃する少女だが、ミサクはするりと簡単に身をかわし、少女の魔法書を手に取って閉じた。


「はい、終了ね」

「うぅ……」

「二人がかりでこんなにあっさりと……」


 いくら訓練生と勇者で経験の差があるとは言っても、近距離タイプと遠距離タイプを同時に相手取るのは至難だ。


 大抵のパーティに剣士と魔法使いが居ることからわかるように、この組み合わせは単純ながらとても相性が良い。


 高威力の魔法を詠唱するには時間が掛かり、尚且つ魔力を詠唱から召還した魔法陣へ集めることに集中しなければならないため、反応力や機動力が著しく落ちる。


 そこで、剣士が真っ先に飛び出して相手の注意を引くと同時に自分に集中させ、魔法使いが詠唱に集中出来るようにするのだ。


(やっぱすごいな、ミサク……)


 本人は井の中の蛙だったと謙遜していたが、後ろにも目があるのではないかというほどの洞察力と、剣と魔法、どちらにも長けた高い才能は健在だ。


 そもそも、殆どの勇者がダンジョンに挑む前や依頼を受ける前にギルドで同じ目的の勇者を捜して組んだり縁のある仲間を呼んだりする中、完全にソロで活動出来ていたというだけで、勇者として確かな実力があると言える。


「まずあなた。自分で言っていただけあって、反応速度はすばらしいわね。パワーも今の段階でそれだけあれば、まだまだ伸びるはずよ」


 褒められ、嬉しそうに顔を輝かせる少女に棒を返しながら、「ただし」と付け加えられる。


「ちょっと視力と反射神経に頼り過ぎよ。それと動きが大振り過ぎる。少し知能の上がった魔物はフェイントや多数での攪乱を仕掛けて来るから、後隙の大きい動きは控えるように意識して。動きの読みを覚えるのはその後でいいわ」


 先程も簡単なフェイントに引っかかりあっさり武器を奪われてしまった少女には耳の痛い助言で、恥ずかしそうに顔を赤らめ「……はい」と返事した。


「それからあなた」


 呼びかけ、黒髪の少女に魔法書を返す。


「あの氷魔法、すごい威力だったわね。ちょっと驚いたわ。潜在魔力が多いのかしら」

 照れくさそうに帽子の鍔を下げ、「ありがとうございます」と呟いた少女の頭を撫でるように手を置いた。


「だけど、発動までちょっと長いわね。それと、魔法書は確かに便利だけれど、頼りすぎちゃダメよ」

「……、詠唱しようとすると、つい焦って噛んでしまって……」


 魔法書は、魔法使いの為の補助魔具。魔力を込めた指先で呪文をなぞることで、詠唱せずとも魔法陣を呼び出すことが出来る。


 ただし、本自体が重く荷物になる上に、使う時はどうしても視線が魔法書に向いてしまうので、詠唱の長い魔法を多数使い分ける魔法特化の勇者がパーティで使っていることはあるが、基本的には初心者が補助のために使うものだ。


 魔力を増幅してくれる杖を持つことも考えて「早口言葉から始めてみたらどうかしら」とアドバイスするミサクに、少女が頷いた。


「ありがとうございました!」「……精進します」


 頭を下げて礼を言う二人に手を振って、ミサクは彼女達に待つ鮮やかな未来を想って微笑んだ。

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