ダンジョン経営はこれからだ!
「みんな、お疲れさま」
勇者訓練生達はミサクが無事に連れ帰り、先程までと比べると静かすぎるようにすら感じられる洞窟内で、各々がくつろぎ始める。
「ふぅ……。子供達は元気で可愛いけれど、少し疲れますね」
ティナは大人しく話しかけやすいので様々な生徒が集まり、やれ魔法を見せてほしい、やれ尾を振って見せて欲しいと大人気だった。
集まってきた子供を思い出して顔を綻ばせるティナの隣で、サリーが片手を上げた。
「とっても楽しかったデス! 懐いてくれてかわいいし、あとなんか美味しそう!」
「間違っても吸うなよ、サリー」
明るく、精神年齢が子供に一番近いであろうサリーもまた人気で、剣士を志望している生徒達が集まり人外の身体能力にどうにか一太刀入れようと四苦八苦していた。
「大丈夫デス! というより、血なんて怖くて吸えないデス……」
今まで何度か飲めたのは緊急事態だったからだと怯えるサリーに、苦笑するミヒトの傍で、「うぅ……」という呻き声と共に誰かが壁を背にして崩れ落ちた。
「なんだ? 大丈夫かマリオ……ン?」
疑問形と共に、ミヒトが言葉を中断する。
彼の金髪に、二つの白いリボンが飾られていたからだ。
「……えーっと……、似合ってる、ぞ?」
「違います……掛けてほしいのはそういう言葉じゃないです……」
どうやらこれは自分の意思でやっていることではないらしい。
「教えていた子から善意で結んでいただいたのですが……」
自分は男だと言っても『カワイイからいーじゃん!』と可愛らしい衣服を着た魔導士志望の少女に、結ばれてしまったらしい。
「断れば良かったじゃないか」
「そうなんですが、教えて貰ったお礼とまで言われてしまっては……」
なるほど、確かにそれは断りづらい。
優しく気の弱いマリオンなら尚のことだろうと、腕を組み納得する。
「でもそれ、本当に可愛いデース! よくにあってマス!」
「嬉しくないです……」
悪意やからかいなんかではない真っ直ぐな賛辞が、マリオンに深く突き刺さった。
苦笑するミヒトの元へ、ぴょんとスーが跳ね寄った。
「でも、なんだかいい感じだよね!」
いい感じ、とはこのダンジョンスクールのことで、まだ始めたばかりではあるが、記念すべき一回目は生徒達も全員満足し、お礼を言って戻って行った。
これで、彼らは魔族に対して偏見を抱くことはなくなっただろう。
流石に大陸中央付近の大都市となれば幼い勇者候補生の段階で魔族は悪だという概念が植えつけられているため、この方法で教育するのは難しいだろうが、比較的外側に近く、田舎村から出て来た候補生が多い町の生徒から教育していけば、いずれ結果は出るだろう。
これからの世界を作っていくのは幼い子供だ。
魔族は必ずしも敵ではない。それを知った勇者候補生はやがて勇者となり、学んだことを色々な場所で広めてくれるようになるだろう。それが少数なら危険行為だが、大多数になれば人々も耳を傾けるようになる。少しでも、魔族への差別は減るだろう。
「とはいえまだ一回目。油断は出来ない。……でも、今、確実にいい方向に進んでいる気がするよ! 俺、今正しい道を歩めている気がする!」
自信満々に目を輝かせるミヒトにはもう臆病者だった面影はなく、ティナ達は顔を見合わせて、表情を綻ばせた。
「さあ、俺達のダンジョン経営はこれからだ!」
「「おー!」」
威勢の良い返事が、ダンジョンに反響し、響き渡った――
皆様のおかげで最後まで書ききることができました。新章の構想はあるので、そのうち続きを書く日が来るかもしれません。ここまでご愛読いただき、ありがとうございました。




