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第二の試練2

 それからしばらく歩いたが、一向に目的地らしき泉は見えない。


 疲れも溜まってきた頃、先頭のミヒトが突如足を止めた。


 半ば惰性で歩いていた後続のミサク達は急な静止についていけず、ぶつかりそうになりながらもなんとか止まり、仔狼はティナの脚に追突した。


「どうしたの、ミヒト」


 ミヒトと同じ方向を見たミサクが絶句する。

 冷や汗を流し、彼が見つめる先では、無数の青い瞳がこちらを睨みつけていた。

――恐れていた、雪狼の群れだ。


「最悪……。よりによって、巣に迷い込むなんて……」


 見たところ、少なくとも三十頭はいる。いくら戦闘慣れしたミサクでも、一度に相手取るのは七、八頭で限界だ。これはミサク一人で戦う場合の話であり、連携を取ることで多少効率は上げられるものの、魔力切れを起こしやすく撃たれ弱いマリオンや、水分が凍り付いてしまうこの地形では何も出来ないティナを守りながら戦うのは不可能だ。


 かといって、足の速い雪狼が三十以上。範囲魔法で怯ませて逃げるにしても、これだけの数がいれば魔法を避け追ってくるものが居るかもしれない。


「どうにかして、逃げ出さないと……!」


 焦るミヒトの足元を、ふわふわしたものがすりぬけた。


「……!」


 仔狼は、雪狼の群れを見ると尾を揺らしながらゆっくり接近した。

 一際体の大きい、数メートルはあろう雪狼が、のっそりと前に出る。

 緊張して見守る一同の前で、雪狼が頭を下げ、愛おしそうに仔狼の顔を舐めた。


「……親子、だったのね」


 こんな状況でありながら、親子の深い愛情を垣間見て、ミサクの表情が綻ぶ。

 仔狼は甘えた声で鳴きながら、何度も母親である雪狼に鼻先を擦り付けた。


 再開を終えると、母狼はミヒト達に背を向ける。

 同時に、こちらを睨んでいた群の気配が消えてゆく。

 去りゆく姿を見守っていると、ふと母狼が足を止め、振り向いた。


「ね、ね、ついてこいって言ってるよ! 行ってみようよ!」


 溶けてすっかり元通りになったスーが、身体を震わせてそう叫んだ。真偽のほどは定かではないが、彼らが立ち去るでもなく、ただこちらを見ているのは事実。


「……行ってみる、か?」


 ミヒト達は顔を見合わせ、恐る恐る歩を進め始めた。深雪のように深みを帯びた風格のある毛皮を纏った巨大な銀狼は、鼻を鳴らして正面を向き、ゆっくりと歩を進める。



 雪狼の親子を追うこと、数十分。

 親子が潜り抜けた密集した木の隙間を同じく潜ると、そこには――


「……わぁ……!」


――白銀に煌めく、美しい泉があった。


 泉の周囲では、沢山の雪狼や、一回り小さい仔狼、ほわほわしている赤ちゃんの雪狼などが、追いかけっこをしたり、泉の水を飲んだり、楽しそうに暮らしている。


 ミサクは再度紙を開き、目的地詳細を確認する。

 広場の光景も、泉の形も、目の前のものに瓜二つだった。


「目的の泉は……雪狼たちの巣だったのね」

「なるほどな……。あいつがついて来てくれて、むしろ助かったってわけか」


 もしもあの時仔狼が居なければ、自身の子供がはレティア気が立っていた巨大狼によって、八つ当たりじみた狩りの対象にされていたことだろう。


 そうなれば、この泉に近づくのは不可能だった。

 幸運に感謝しながら、底に何かあるという泉を覗き込む。


「この泉の底には、特殊な鉱石が沈んでいるみたいね。常冬の森にある凍らない泉の魔力が凝固して、底に沈んでいる……って書いてあるわ」

「底って言ったって、見えないぞ……」 


 かなり澄んだ泉なのだが、思いっきり顔を近づけても顔が反射するばかりで全く底が見えない程、この泉は深い。


 ずっと覗き込んでいたミヒトが、ふと泉に手を突っ込んだ。


「冷たっ……!」


 途端、身震いして手を引き抜く。


「見た目は凍っていないけれど、温度は氷点下よ」

「いや、その……潜って取れるかなって……」

「態々そんな無謀な挑戦しなくても、道具を使えばいいじゃない」


 ミサクは鞄からロープを取り出すと、先端にフックを付けて泉に投げ込んだ。

 なるほど、と感心するミヒトの前で、ロープはどんどん泉に飲まれてゆく。


 やがて、握られているロープの先端の方まで泉に沈んでも、底に着いた感触はない。


「……ミサク、そのロープ、どれくらい長いんだ?」

「そう、ね……魔力に呼応して、千メートルくらいは伸びるのだけど……」


 ということはつまり、この泉の深さは、それ以上あるというのか。

 二人の顔に、冷や汗が流れる。


「底なし泉、とはあったけど、ここまで深いなんて……」


 想定外の事態。どうしようかと顔を見合わせていた一同の後ろで、大きな水音が響いた。

 驚いて振り向けば、ティナがキッと引き締まった表情で口を開いた。


「私、潜ってきます!」


 臆病な彼女らしからぬ大胆な宣言は、周囲を驚愕させる。

 千メートルを超えるダイビング。

 あまりにも無謀に感じるそれを、当然ミヒトが止めに入る。


「い、いくらセイレーンだからって、こんな冷たい水を、一キロ以上も潜るだなんて……」


 無茶だ、と言おうとしたミヒトの言葉を、「大丈夫です」と遮る。


「元々深海に住んでいたので、寒さも深さも平気なんです。まかせてください!」


 それだけ言い残すとティナは大きく尾を振り、その勢いで水に潜っていった。

 後には、白銀の水面に浮かぶ波紋だけが残る。


 ***


 彼女が潜ってから、一時間は経っただろうか。

 一向に浮いてくる様子の無いティナを待ち、心配そうに泉を眺める一同と、伏せをして泉を覗く仔狼の目の前で、水面がポコポコと泡立った。

 それからすぐに、ティナが顔を出す。


「ぷはっ……」


 一息つくと、彼女は水中から手を出し、握っている物を見せた。

 それは丸く削られた水晶のようだったが、白と呼んでいいのかすらわからない程に純白で、雪の上に置きでもすればそのまま見失ってしまいそうだ。


「これで、合ってますか?」


 ミサクは、手元の資料とティナが持ち帰った水晶玉を見比べる。


「ええ。間違いないわ!」

「良かった……」


 ティナは顔を綻ばせ、胸に手をやった。

 しかし、この泉は一体どれほどの深さがあったのかと、ミヒトが問いかける。


「測ってはいませんが……体感だと、三千メートルくらい、かな?」

「三千!?」


 予想をはるかに上回る数値に驚いたミヒトが声を上げる。


「でも、不思議なんですよ。いくら潜っても、全然暗くならなくて……水中はどこもキラキラしてて、とっても綺麗でした」


 嬉しそうに語られると興味が湧くが、彼女以外にそれを体感するのは無理だろう。

 ともあれ、無事に二つ目の素材を入手することが出来た。

 後は、森にあるという一つだけだ。


 雪狼達に別れを告げて、ミサクは雪上に大きな魔法陣を浮かび上がらせ、ミヒト達と共に次の目的地へと転移した――

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