表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/40

赤の勇者の贈り物

 偽善じゃないかって、皆が言うの。

 本当の善って何かしら? 誰も答えてくれないわ。

 手の届く物は見過ごさない。無償の正義を貫く者。

 それが“勇者”ではないの――?



「それでね、ちょっと苦戦したんだけど、カウンターでズバッと!」


――あの日以来、ミサクは時折ダンジョンを訪ねては、街の情勢を教えてくれたり、たわいもない土産話を持って帰って来るようになった。


 ミヒトの生き方を認めたミサクは『あなたの分まで立派な勇者になる』と言ってくれ、ミヒトも勇者としての世界を話を通じて垣間見るのは最近の楽しみの一つになっていた。


「ミサクは凄いよな、剣も魔法もなんでも出来て」

「なんでもは言い過ぎよ。あたしにも苦手なことはあるわ」


 盾を扱うこととかね、と苦笑するミサクを見ていて、ふと彼女がこのダンジョンに突入して来た理由を思い出し「そういえば」と話を切り出した。


「あの時、ミサクが受けた依頼ってなんだったんだ?」


 ああ、とミサクが声を上げる。ミヒトが無事だったことと、変わった友人が増えたことで本人もすっかり忘れていたが、ミサクはある悩みを持ってここに来ていたのだ。


「ちょっと前にね、村の近くで群れている魔物を、食糧を求めて下りて来る前に討伐する依頼を受けていたの」


 その村はとても貧乏で出せる報酬も少なく、そのため討伐予定日ギリギリまで誰も受けずに残っていたのを、正義感から受諾したものだ。


 しかし、それは間違っていたと、近くで活動している他の勇者に諭された。


「こうして少ない額でも引き受けるヤツが居るから、村の人間は誰かに頼めば良いと思ってしまう、そんな姿勢で、本当に誰も引き受けなかったらどうなると思う、って……」


 そうしたら何の準備も出来ていない村に魔獣が攻め込むことになるのだと言われ、何も言い返せなかった。それどころか、後悔の念がどっと押し寄せてきたのだ。


「あの時攻めて来ると言われていた魔獣は、比較的弱いものだった。依頼を受けずにおけば、もしかしたら村自体が成長出来たのかも知れないのに、って……」


 偽善で、余計なことをしてしまったのだろうかと、ミサクの顔が曇る。

 ミヒトが「余計なんかじゃないさ」と声を掛けた。


「もしもその時にミサクが行かなければ、村の誰かが死んでしまっていたかもしれない。それに、ミサクが来てくれたことを喜んで、お礼を言ってくれた人も居たんだろ?」


 ミサクの脳裏に、二人の少女の姿が浮かんだ。


「……ええ。可愛らしい女の子達だった。綺麗な花の首飾りを作ってくれたわ」


 老齢化の進んだ村で数少ない子供だった二人は魔獣が来ると聞いてずっと怯え隠れていたが、ミサクが助けてくれたと知ると、揃ってにこにこと礼を言いに来てくれた。


 顔を綻ばせるミサクに対し「余計な善意なんて無いんだよ」と嬉しそうに発して、ミヒトも釣られて笑みを浮かべた。


 その様子を、陰からこっそり見ている者が一人。

 手提げ袋を持ったまま、広間の入り口でまじまじと仲睦まじい二人を見ている。


「……誰か帰ってきた?」


 職業柄、魔族の気配に敏感なミサクに見つかり、隠れ見ていたマリオンはビクりと肩を竦ませて、おそるおそる二人の前に出て来た。


「邪魔したら悪いな、と思いまして……」

「ああ、幼馴染の会話をか? そんなに気を遣わなくてもいいんだぞ」

「いえ、それもあるけれど、そうではなくて……」


 マリオンは、ミサクの方をちらりと見て、何かを言おうと口を開いたが、ミサクがその口を手で塞ぎ、彼を小脇に抱えたがためにその先が発されることはなかった。


「ごめん、ちょっと急用を思い出した!」


 ぽかんとするミヒトにそう告げて、ミサクは奥の方へと走る。


 そこでマリオンを降ろすと、凄まじい気迫を纏って睨みつけた。顔を真っ赤にして、無言で睨まれ続けて、マリオンは視線を手で遮りながら顔を背ける。


「わ、わかってます。言ったりしませんってば……」


 何を、とは言わないまでも、ミサクはあからさまにホッとして胸を撫で下ろす。マリオンはわかりやすい、と内心思ったが、口にするメリットも無いので黙っていた。


「ど、どこで気づいたの?」


――それ聞く? とマリオンは思った。正直言って、この上なくわかりやすいし、逆にあんな態度を見せられて何も感じないミヒトははっきり言って異常だ。


 しかしそんなことを言えば彼女を動転させるのは必然。顔には出たかもしれないが口には出さず、咳払いをして、それらしい別の理由を彼女に告げる。


「あー……、えっと、夢魔って、人の情みたいなものを食べる魔物でしょう?」


 それは魅了された時のトキメキであったり、キスを求めるほどの激しい愛であったり、寝込みを襲われ、強制的に与えられわけがわからないまま溺れる快楽であったりと、様々だ。もっとも、最後以外は得られるエネルギーがとても少なく、感覚的にも味見程度だが。


「だから僕も、人が人を想う気持ちが、香りと味でなんとなくわかる、というか……」


 これは事実半分、嘘半分。感じるのは事実だが、純粋な夢魔ではないので隠してる恋心を見抜けるほど感度は良くない。しかし、言い訳として咄嗟に持ち出した話にしては十分な説得力があり、恋心が味になるという不思議な話にミサクが興味を持った。


「ふぅん……。あたしからしてた香りって? どんな味がしたの?」


「瑞々しい果実のような甘酸っぱい香りですね。味もそんな感じですよ」


 少々酸味が強かったですが、と続けるマリオンを見ながら、ミサクは味を想像してみるがやっぱりわからないし、感情が味になるという原理もわからない。


「後はそうですね、グレープフルーツの皮を齧ったような苦味が……」


 苦いという単語に、ミサクがピクっと肩を震わせる。

 マリオンは察して「鈍いですもんね、彼」と苦笑した。


「全くよ。あんなプロポーズまがいのこと言っておいて……」


 ふいと目を逸らすミサクを見て、それであんなに荒れていたのかと苦笑する。

 当初は正直突然襲い掛かってきたミサクのことを怖く思っていたが、詳細を聞けば聞くほど同情した。二人で一緒になろうだなんて、誰が聞いてもプロポーズだと思うだろう。


 だというのに、ミヒトはそのことを記憶の片隅に追いやって、あろうことか魔族とはいえ複数の女性とダンジョンに籠っていた。


 ……ミヒトの話を聞けない程冷静さを欠くのも、当然だろう。



「……二人とも、いつのまにそんな仲良くなったんだ?」



 突如声を掛けられ、ミサクが跳ね上がる。


 聞かれたのかと焦る様子を見て、二人が盛り上がっていたところに割り込んでしまったかと勘違いし、ミヒトは気まずそうに頭を掻いた。


「ごめん、邪魔した?」

「う、ううん、そんなことは……、あ、そうだ!」


 わざとらしく音を鳴らして手を合わせ、ミサクはバッグを漁り始めた。

 そこから、折りたたまれた紙を取り出し、ミヒトに渡す。


「知り合いの錬金術師にね、良さそうなレシピ貰ったんだけど……」


 錬金術師とは、鉱物から薬草まで、魔力を用いた調合において多くの試験に突破した者達を差す。基本的に自ら危険な場所に出向くことはなく、主に魔導具店に賞品を卸す他、冒険者が持ち込んだ素材を使える状態に錬金することで生計を立てている。


「俺達、そんなに金無いぞ」


 紙を広げながら、ミヒトが内容を確認し、目を見開いた。


「どう? 効果は保証されているらしいのだけど……」 


 マリオンが中身を見ようと背伸びしていることに気づき、ミヒトが少し屈んで見せると、「いいですね、これ」と目を輝かせる。


「費用はあたしが出すわ。……この前のお詫びも兼ねて、ね」


「でも、いいのか? 希少素材の錬金って結構いい値段するんじゃ……」


 遠慮しようとするミヒトに、ミサクはふふんと胸を張ってみせる。


「これでもあたし、勇者としてはエリートなのよ。……本当は、完成品を持っていきたかったのだけれど……」

「何かあったのか?」

「素材がちょっと、あたし一人じゃ難しそうで……」


 困り顔でそう言われ、一体何が必要なのだろうと、ミヒトは紙をめくる。

 そこには、材料の詳細情報が書かれていて、その入手方法に目をやり、ミヒトがうわ、と思わず声を上げた。


「火山の頂、底無し泉の底、蜃気楼の森に住む妖精の宝物……」 


 地図と共に示された詳細を、険しい顔で読み上げる。

 ミサクどころか、熟練の勇者でさえ一つでも持ち帰れるか怪しいものだ。


「これ……、いけるか? 無理では……?」


 半分諦めが入りながらも、改めて地図を見直し、考える。


――いや。人間基準で考えたらどう頑張っても無理だろうが、もしかしたら……。


「やる後悔よりやらない後悔って言いますし、行ってみましょうよ!」


 判断を下す前に、マリオンに背中を押され、頷いた。


「そうだな、皆に相談してみよう」


 ミヒトは奥に引っ込んで、自室で遊んでいたサリーとスーに軽く説明して、一緒に来ないかと誘った。答えは勿論、二つ返事でYESだ。


 続いて、水辺に戻りじっと水底を覗いた。ティナは昼寝の真っ最中。

 ゆったりと沈んでいる彼女に、水面を突きながら何度か声を掛けてると、ゆっくり上がって来て不思議そうに首を傾げたので、事情を説明すると快くついて来てくれた。


そして今、ミヒト達の素材集めの旅が始まる――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ