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勇者を諦めたらスライムに勧誘された件~俺がダンジョンのボスだって!?~  作者: 飛龍 ナツキ
ダンジョンのボス、始めました。
13/40

遠い日の記憶

 広間を通り抜けて、それぞれの自室がある通路へと向かう。


(確かサリーは、俺の向かいの、マリオンの部屋の一つ奥、っと……)


 ノックしようと正面に立つと、扉の奥から刃物か何かを磨いている時のような、鋭い音が聞こえて来た。不思議に思いながらも、改めてノックをする。


「開いてるデス!」


 どうやら、彼女は起きているようだが、折角だし部屋を尋ねてみた。一歩踏み入ると、彼女は一瞬目を丸くしたが、直ぐに嬉しそうな笑みに変わった。


「おや? マリオンかと思ったらミヒトだったデス! いらっしゃいマセー!」


 嬉しそうにはしゃぎながらも、彼女が大切そうに抱えているのはいつかの細剣だ。あの時は一瞬過ぎて見えなかったが、こうして近くで見ると、刀身はこの上なく純白で、しなやかな形をしていて美しく、見惚れてしまい思わず息が漏れる。


「ふふふ、このワタシの愛刀が気になるデス? お目が高いデース! なんとこれは、ワタシの家系で代々受け継いできた、唯一無二のレイピアなのデス!」


 聞いてもいないのに、自慢気にすらすらと語り始めた言葉に恥じず、その細剣は素人目に見ても迫力があり、相当に貴重な物であるというのがわかる。


 純白の質感からして素材は彼女達の牙と見て間違いなさそうだが、吸血鬼の牙は人類の技術では溶接が出来ないため、武器としては短剣や暗器しか作ることが出来ない。


 しかし、彼女の細剣は、しなやかに研ぎ澄まされているのにも関わらず、継ぎ目一つ見つからない。……吸血鬼だけに伝わる、加工技術でもあるのだろうか?


「そういえば、サリーは魔法は使わないのか?」


 吸血鬼は人間離れした筋力もさることながら、高度な魔術を使ってくることでも有名だ。しかし、彼女の剣捌きは見事なものだが、魔法を使っているところを見たことが無い。


「んー……、たぶん、訓練したら覚えられるデス。でも、必要ナイと思うデス」

「必要無い? 色々なことが出来るし、あるに越したことは無いと思うんだが……」


 魔法が使えないぶん憧れが強く、魔法が必要ないという状況が思いつかないミヒトに、サリーは自分が剣士であることに意味があるのだと、教えてくれた。


「この剣には使い手が必要デス。それに、魔法って色々と時間が掛かるでショ? 剣の方が、たくさん守れるから好きなのデス!」


――守りたい者が居るから、真っ先に切り込む前衛の道を選んでいる、ということか。


 彼女らしからぬ……といっては失礼だが、普段は子供のように無垢な星が輝いているルビー色の瞳に、まるで高貴な騎士のような鋭い一筋の光が差しているように見えた。


「ミヒトも、仲間になったからには危なくなったら守ってあげるデス!」

「はは、頼もしいな……」


 サリーは得意気に鼻を鳴らして磨き終えた剣を納刀すると、ところでマリオンはどうしているのかと聞いてきた。普段は彼が起こしに来るらしいので、気になったのだろう。


「祈りの途中だったよ。サリーがまだ寝てるかもしれないから、見て来てくれと頼まれた」

「ふうん……、それなら、もうちょっと寝ててもよかったデスネー」

「へ?」

「ミヒトがどんな風に起こしてくれるのか、見てみたかったデス!」


あのなあ、と呆れて額に手をやったところで、ミヒトはそういえば、と考える。マリオンの話をしていたら、気になっていたことを思い出した。


「マリオンはどうして弟ってことにしたんだ? 種族も違うだろうに」

「ちっちゃくて可愛かったからデス」

「そんな理由かよ!」

「……と、いうのは軽いジョークで」


 ずっこけかけたミヒトが、顔を上げてサリーの話を聞く。


「ワタシが守ってあげなきゃ、って思ったからデス」


 そう口にした彼女は、いつになく真面目な顔をしていて。


「ねえミヒト。ミヒトから見て、マリオンは大人に見えるデス?」


 そんな問いを投げて来るものだから、返答に困ってしまった。彼の年齢は自分と同じ十七――ぼちぼち独り立ちし始める年頃ではあるが、大人かと言われれば、自信が無い。現に自分だって、足りない物が多すぎて迷いと悩みの連続だ。


「マリオンは自分のことを子供じゃない、なんて言うケド……、ワタシには、大人にならないといけないって、無理してるように見えるデス。見つけた時だって……」


 人にやられたのであろう打撲痕と、魔物にやられたのであろう魔障痕でボロボロだったにも関わらず、酷く疲れた顔をしてぼんやりとこちらを見つめるだけだった。


 少しして、降りて来たのが吸血鬼だと分かった時。彼は、どうか自分を食べてくれと懇願した。……どこか、ほっとしたような顔をして。


「この子はワタシが守ってあげないとって……。今までずっと、お姉ちゃん達に守られてきたから、今度はワタシがお姉ちゃんにならないとって、思ったのデス。気まぐれだったのかもしれない。でも、この気持ちは嘘じゃないデス」


 彼にはもう、無償で守ってくれて、愛してくれる存在はいないのだと。自分と同じ、そう思ったサリーの決断は、早かった。


「だから、ワタシが……親代わりにはなれないけど、姉として、辛いことも、苦しいことも、引き受けてあげるから――もっと甘えて、自分のために生きて欲しいのデス」


 哀愁を纏った顔で、胸に手を当てる。……そうだ、そういえば、マリオンは今でも『亡くなった両親の自慢の子供になる』ことを決意しているのだ。


 しっかりしているから気がつかなかったが、彼の決意は鋭すぎる。それこそ、自分を傷つけかねない程に。サリーはそれを気にして、家族に近い立場になろうと……。


「あっ! 今の話マリオンにしちゃだめデスよ! ナイショのお話デス!」

「わかってるよ、むしろ――」


 ――サリーこそ、思っていたよりもずっと大人だったんだな。


 そう繋げようとして、余計な一言だとミヒトは口を閉じた。


「……いや、なんでもない。とにかく、誰にも言わないから安心してよ」


 サリーを連れて広場に戻ると、丁度マリオンも帰ってきていたようだ。サリーは「おはヨー!」と元気よく飛びついて捕まえた。


「恥ずかしいから、そういうのやめてください……」


 実年齢からすれば不当な扱いに不満そうな顔をするものの、逃げようとはしない。困ってはいるが、本気で嫌というわけでもないのだろう。


(こうして見てると、本当の姉弟みたいだな……)


 無論種族も生まれも違うため、外見はよく見るほど似ていないのだが、なんだか微笑ましく、兄弟の居ないミヒトは少し羨ましく思いながら、手元に筆を走らせる。


「ミヒトっ! 何してるの?」


 肩の上に、スーが飛び乗ってきた。スーはミヒトが今まさに手を加えている手帳を覗き込んで、書き込まれていく文字を興味深そうに眺めている。


「皆の特徴をメモしてたんだよ。作戦を立てる時に、役立てられないかと思って」

「ふんふん……、ティナは回復魔法が使える、マリオンは防御魔法が得意、サリーは剣が強くて……、ねえ、スーは? ねえねえ、スーは!?」


 書いている途中に肩の上でぴょんぴょん跳ねられ、思わず「うるさい」と返答すれば「うるさい!?」とわかりやすくショックを受けた顔をしてスーが肩から飛び降りた。


「聞いてよティナー! ミヒトがひどい!」

「はいはい、あんまりイタズラしちゃだめですよ」


 うわーん、と声に出して飛びついて来たスーを手慣れた様子で慰めるティナを何気なく見ながら、ふと先程のやり取りを思い返した。スーは、手帳の文字を読み上げていた。


 そう、読み上げていたのだ。スライムが、文字を。


「……、スー、お前字が読めるのか!?」


「え? なに急に。スーのかしこさを認める時が来た?」


 気付いた時には感心したものの、先ほどまで泣きついていたのが嘘のようにコロッと表情を変え、したり顔で振り向かれたものだから一瞬で認める気が削がれ、口をつぐむ。


「どうした? スーの有能さに驚いて声も出ないか! 何を隠そう、ミヒトをここまで導いた完璧な地図を描いたのもこのスーに他ならないのだ!」


 黙り込むミヒトを見てどう思ったのか前向き過ぎる解釈をし、偉そうな態度を取るスーだが、言っていることがスライムにしては凄いのは認めざるを得ない。


「ここで字が書けるのって、スーさんとマリオンだけなんですよ」


 ティナに後押しされ、えへん、と威張るスーを、ミヒトは複雑そうに見る。


(まるでスライムが書いたみたいなきったない字で、ずっと気になってはいたが……まさか本当にスライムが描いていたなんて……)


 となれば、あいつは自信満々で自分の描いた地図を持って突撃してきたわけだ、と前向きな行動力に呆れを通り越して感心しながら、ミヒトは手帳を閉じた。


 一息付いたところで、ふと、夢で見た幼馴染の姿が頭をよぎる。


 強きを敬い、弱者のために力を振るう。物心付いた頃から高潔な勇者だった彼女は、落ちこぼれだった自分にとって初めての友人であり、初めて憧れた人間でもある。


(確か、約束したんだよな。少しでも、あの子と繋がりを持ちたくて)


 彼女は剣も魔法も同期の中で頭三つは抜けていて、故に村を去るのも早かった。僅か八歳にして卒業を迎え、去ってゆく背中を捕まえて、一つ指切りをしたのだ。


(――共に勇者になって、最高のパーティを組もう、と)


 今はもう、けして叶うことのない、とうに諦めてしまった夢。

 天才だった彼女は、もう街に名を轟かせている頃だろうか。


(……約束のことなんて、とっくに覚えていないだろうな)


 切ない痛みが胸を突き、手帳を閉じた。彼女が全て忘れてしまっていたとしても、責める権利なんてない。俺だって、朧げな顔しか覚えていないのだから――

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