第2章 片道切符の護衛依頼
「この依頼、お願いします」
ユウリが紙を受け取る。
「薬草なら──あれ?」
目が、行先の欄で止まった。
「アルフヘイン?」
「うん」
「商隊護衛だよ?」
「読んだよ」
ユウリはネイルの顔を見てから、依頼票へ視線を戻した。
「最低六人。ほかの冒険者と一緒に行くことになるけど」
「……六人」
「そこも読んだ?」
「今、聞いた」
「じゃあ、少しだけ確認しようか」
責めるでもなく、ユウリは紙を二人の間へ置き直した。
ネイルは、人数の書かれた欄を見る。
五人。
自分のほかに、五人いる。
(数え直しても減らんぞ)
(黙ってて)
「魔王領の一部を通るからね。最近は侵攻も増えてるし、この人数は必要なんだと思う」
「道は分かる」
「一人で行ける、って話じゃないよ?」
「……分かってる」
ユウリの指が、人数の欄に置かれていた。
ほかの五人は、ネイルの力を知らない。敵が来れば、自分たちの持つ手段で戦おうとする。その中で、顔も力も隠しながら、六人目の役目を果たさなければならなかった。
一人なら考えずに済むことが、まだ出発もしていないのに増えていく。
「知らない人たちとの長旅になるよ。大丈夫?」
「大丈夫。端の方で、サポートするから」
「端にいても、一緒に行くのは変わらないよ」
ネイルは、依頼票から顔を上げた。
ユウリは笑っていなかった。返事を急かすこともせず、待っている。
ネイルは背中の杖を持ち直した。
「うん。一緒に行く」
「……そっか」
そこでようやく、ユウリの口元が緩んだ。
「あと、この依頼は片道だけ。商会は向こうで三か月ほど滞在する予定なんだって」
「三か月も?」
「商会と帰るならね。先に戻りたくなったら、向こうで別の護衛依頼を探すことになるかな。今の情勢で、一人で戻るのは勧められないから」
ネイルは、行先の名をもう一度見た。
そこへ着いた自分が、すぐに帰りたくなるのか。それとも、しばらく残りたくなるのか。
今は、どちらも想像できなかった。
「帰り方は、着いてから決める」
「一人で帰るとは、決めてない?」
「うん」
ユウリは頷き、手元へ書類を引き寄せた。
「報酬は六等分で。それから、募集に出す名前は──」
「いつもどおりで」
「匿名ね」
ペンが紙の上を走った。
「ネイルちゃんの名前があれば、すぐ集まると思うけどなぁ」
「依頼を見て決めてほしいから」
「顔合わせでは、自分で名乗るんだよね?」
「うん。その時に言う」
同じ依頼を受けた相手には、自分から話せばいい。
最初から名前を当てにして来られると、出会った時にはもう、何もかも任せるつもりでいる者もいた。それでは困る。
「分かった。人数がそろったら、テルリングで知らせるね。準備だけはしておいて」
ネイルは指にはめた銀色の指輪に触れた。呼び出しがあれば、これが光って教えてくれる。
「うん。ありがとう、ユウリ」
「どういたしまして」
ユウリが記入を終えた紙を重ねる。
ネイルは一度だけ指輪を撫で、カウンターを離れた。
出口へ向かう途中、掲示板の前を通る。
薬草採取の依頼票は、まだ残っていた。
(主。薬草は?)
(今日は、いい)
(暇なのだろう?)
(旅の支度をする)
パレードの笑いを背中に聞きながら、ネイルはギルドの扉を押した。




