第五十五話 視線の先の不在者 ー思いの差ー
学食。まだ冬休み
なのに、いつもの席。
「なんで、三人ともいるの…」
澪が雪と漣を見る
雪がにこり
「澪… 私を置いての抜け駆け練習 だめですよ~~。」
蓮があきれるように
「俺も聞きたい なんで二人とも当たり前のように学食に居るの…」
「……でもさぁ」
澪がスマホを見ながら、ふっと笑う。
「春日から連絡きたよ」
雪は少しだけ身を乗り出す。
「なんて?」
澪、画面を軽く振る。
「明日には帰るってさ」
「ふーん」
蓮、反応薄い。
「あと」
一拍。
「私に“会いたい”ってさ」
その瞬間。
雪の目が、ぱっと輝く。
「え、それって――」
「告白?」
食い気味。
澪、間髪入れず。
「却下」
即答。
雪、固まる。
「早っ!?」
「いやだって」
澪、普通にカフェオレを置く。
「違うでしょ、あれ」
「え、違うの?」
「違う」
一切の迷いなし。
蓮、肩をすくめる。
「まぁ、あいつがそんな分かりやすいこと… しないな。 しかも澪に…」
「たしかに」
雪、納得しかけて――
「いやでも、メールで澪に“会いたい”って言ってるよ!?」
澪、少しだけ考えて。
「……面倒くさい」
「それは同意」
蓮、即答。
雪、むくれる。
「えー、ちょっとくらいドキドキしようよ!」
澪、真顔。
「しない」
蓮、即答。
「しないな」
雪、両手をばたばたさせる。
「なんで!? 青春だよ!?」
澪、ぼそっと。
「たぶん違う種類のやつ」
蓮、小さく頷く。
「うん、たぶん“面倒なやつ”」
雪、肩を落とす。
「夢がない……」
澪はスマホをひょいと取り上げる。
画面を見る。
一瞬だけ――
ほんの一瞬だけ、目が細くなる。
「……戻って来るんだね」
ぽつり。
ーーーーーーーーーー
「失礼します」
控えめな声。
振り向くと、御影が立っていた。
「お、御影」
蓮が手を軽く上げる。
(いつの間に親しく?)
澪が横眼で見る…
御影は一礼してから、少しだけ迷うように視線を泳がせる。
「……あの」
「ん?」
澪が顔を向ける。
「春日くんのこと、少し……」
その言葉に、雪がぴくっと反応する。
「え、なになに?」
身を乗り出す。
御影、少しだけ困った顔。
「いえ、その……」
言いにくそうに、一拍。
「春日くんが悩みだしたの… 私、少し責任感じてて…」
「弓場も……気にしていて」
「弓場?」
蓮が首をかしげる。
「ああ、あの空手の弓場さんね…向洋高校だったかな?」
「はい。」
御影は頷く。
「最近ずっと、その……落ち着かなくて」
雪の目が、また輝く。
「え、それって――」
「違うでしょ」
澪、即答。
「まだ何も言ってない!」
雪も即答。
御影、少し戸惑う。
「違うと思うけど…」
雪だけが納得していない顔。
「えー……でも、春日君のこと気になってるんでしょ?」
蓮が肩をすくめる。
「年末、あのタイミングで実家へ帰るって言われたらなぁ…」
御影も小さく頷く。
「はい……それに、弓場は」
少しだけ言葉を選ぶ。
「“あの人、いつ帰ってくるのだろう”って…」
澪の目が、わずかに細くなる。
御影は続ける。
「弓場、学校が違うので……直接は聞けなくて」
「で、御影が来たと」
「はい」
素直に頷く。
雪、じっと御影を見る。
「……それ、代わりに聞きに来たの? 春日君のこと」
雪、わくわくした顔
御影、少しだけ考えて。
「はい」
即答。
蓮、笑いながら
「御影さんは、意外といいやつだなぁ」
「弓場からしたら、私が春日くんに手裏剣教えているから…」
「知ってるんじゃないかと…」
澪は湯のみを持ちながら、軽く息を吐く。
「で、弓場さんは、何が聞きたいの?」
御影は、ほんの少しだけ視線を落とし――
「……春日くんは」
一拍。
「どうするつもりなんでしょうか 学校を辞めたりしませんよねぇ」
「戻ってきますよねぇ…」
少しだけ、空気が変わる。
雪は首を傾げる。
「まぁ、澪に会いたいって言ってるくらいだし、普通に戻ってくるんじゃないの?」
御影の目が、わずかに動く。
「会いたい? 湊川先輩に?」
「連絡先、知っているんですか?」
澪は、少しだけ考えてから――
「御影さん 春日からは、こんなメールきたよ。」
御影にスマホを見せる
「春日くん… 多分…… まだ悩んでるよ」
ぽつり。
「普通に戻るなら」
「“会いたい” なんてこんなこと メールで言わないよね」
御影が聞き返す。
「でも…」
少しだけ言葉が詰まる。
「湊川先輩には連絡が来て!」
「会いたいって!」
一気に溢れる。
「メール来たんですよね!」
口調が攻撃的に変わる
「でも!」
御影の声が一段上がる。
「私のところにも――弓場のところにも、来てません!」
「それどころか、連絡先すら……」
捲し立てるように、澪に言う
雪が、また違う方向。
「え、それってやっぱり――」
「違う」
澪、即答。
蓮が
「雪 話がややこしくなる すこし静かにしてようか。」
蓮が続ける
「俺たちも春日を気にしてる」
「だけだな、御影」
「春日はここに帰ってくる」
「ただ、澪にメールが来てるってことは、相当悩んでいる」
「実家戻っても――まだ答え出てないな、あいつ」
蓮は少し黙ってから
「あいつのことを思うなら――今は待て」
「今は、あいつの中の問題だ」
「連絡先ぐらいは澪が教えてくれる」
御影が澪をみる
「だけど、今はこっちから連絡はするなよ…」
「還って澪のところへ来たら、次には御影の所に行くはずだ」
「多分ね…」
御影、少し冷静な顔に戻る…
蓮、少しだけ笑って。
「たとえ何があっても――」
一拍。
「恋愛的に、澪は春日を好きにならない」
雪、前のめり。
蓮、さらっと。
「こいつ、ファザコンだから」
「は?」
澪、睨む。
「それ!納得!」
雪が即答!
御影も、少しだけ困ったように笑う。
弓場の気にしているもの。
目の前の人たちの見ているもの。
御影が気にしているもの。
同じ“気になる”でも、方向が違う。
「……ありがとうございます」
御影は、深く頭を下げる。
「弓場には……そのまま伝えます」
澪は軽く手を振る。
「うん、適当にね」
蓮も笑う。
「変に脚色すんなよ」
雪だけが最後まで食い下がる。
「え、でもさ――」
三人、同時に。
御影は、その言葉を受け止める。
学食の空気は、また軽く戻っていた。
だが――
それぞれが見ている“春日”は、
少しずつ、違っていた。
ーーーーーーーーーーー
「でも…」
澪がいたずらっぽく、蓮にきく
「いつの間に、御影さんと仲良くなったの?」
「さぁ…」
(新開地の道場に来てた、なんて――言いたくないな)
この場で一人だけ――蓮は、恋愛の話から外れていた。




