第五十四話 負けさせたくない剣 ー矛盾ー
拘る…
こだわる…
わからない…
勝てばいい…
負けたくない…
負ければ…
負けた剣…
わからない…
ーーーー
朝
春日が目覚める…
剣士学園の寮とは違う日差し…
(そうか… 家か…)
起きたくない…
忘れたい…
だが、
身体は鍛錬を求めている…
ーーー
木刀が… 重い…
もう、止めよう…
横に置く…
手は、意に反して動く…
気がつけば
いつも通り、鍛錬を始めている
身体が重い、もう止めよう… そう思う
いや、もう少し… 求める自分がいる
決めきれない…
そのまま鍛錬を続けている…
ーーー
止まらないまま 昼になる
(何をやっている…)
自己嫌悪が湧き上がる…
ーーー
父はー
ー勝ちたくなかったのか?
祖父もー
ー苦悩したことがあるのか?
俺はー
ー何のために、この技を使っているのか
負けたらどうなる
学園から去るのか…
この技を使う事を辞めたら…
自分は何をしたい…
自分はどう在りたい…
そう…
どう在りたいか、だ。
(どう在りたいか、だ。)
自分にきかせるように復唱する
ーーーーーーー
刀を振る
父の教えられた鍛錬の動き
一つ一つは短いが
延々と繰り返す
身体に染み込ます
自問自答…
自分はこの術が好きののか?
ーわからないが、この術は自分でもある
負けたくない
ー誰だって、負けたくはない
なぜ勝ちたい?
ー違う、勝ちたいんじゃない
なぜ負けたくない?
――自分の剣が、「負けた剣」だから
これ以上、負けさせたくない
「……あ」
止まる
負けたくない、じゃない
負けさせたくない
……何を?
春日の動きが、止まる
自分を?
違う
この術を――
自分では感じたことが無い感覚に襲われた…
この… 受け継がれてきた術… か…
父の教えを
祖父の教えを
母の思いを
負けさせたくない…
「負けた剣」ともう言われたくない
それなら、
祖父は負けてよかったのか?
違う 間違う事なく 違う
負けたことを含めて、術を認めていた…
「負けた剣」
その意味が分からない
やはり負けたくない!
(「あなたのは、ちょっと寂しい剣の在り方ね」)
――あの時の言葉
寂しい?
そんなことはない
(「でも、それ……斬るための剣じゃないはず」)
違う
これは――
「勝つための動きだ」
口に出る
……そう、思っていた
だが
(「……違いますよね」)
――否定できなかった
言葉が、残る
(「本当は――」)
(「戦わない場所へ行く歩みじゃないのかな」)
その女性は柔らかく微笑んでいた
戦わない場所へ?
「違う!」
吐き捨てるように、
否定するように、
叫んでいた
俺は本山先輩と戦って勝ちたい!
木刀を握る手に力が入る
俺は鷹宮先輩とも戦いたい!
そして…
そして…
澪先輩に勝ちたい… …
違う… 違う… 違う… 違う…
「澪先輩は 違う…」
何故?
わからない
ただ――
あの人には
“負けたくない”とも
“勝ちたい”とも
思えない
木刀を握る手が、わずかに震える…
「戻ろう……」
逃げるように帰ってきた家
――答えは、なかった




