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半歩 ~守・破・離 短き刃 長き道~  作者: 止水


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129/129

最終話  短き刃、長き道   ー桜はまだ咲いていないー

今回で最終回となります

卒業式が終わり数日


剣士学園にも、

いつもの日常が戻り始めていた



桜のつぼみに

色はまだない



明日から春休み



三年生の居なくなった校舎


学生のいない静かな練習場


少しだけ広く感じる廊下


武道館前



春日は立ち止まる


いつもなら


鷹宮先輩たちの声


御影さんの騒ぐ声


大石さんの呆れ声


澪先輩の安心感


本山先輩との張り詰めた空気


けれど、

今は静かだった。


ーーーーーー


道場


誰も居ない練習場


差し込む夕陽



春日がひとり、

繰り返す


踏み込み


捌き


受け


崩し


父に

祖父に

教えられた動き


ひとつ


ふたつ


みっつ


擦れた道着の音


乾いた音だけが響く


試合は終わった


卒業も終わった


先輩たちも居ない


けれど


身体だけは、

止まらなかった


ーーーーーー


「ほう……やっぱり…」



振り向く


澪と雪だった



「春日!」


「澪先輩 本山先輩」



「春日、そう言えば

この前のお礼をしていなかったよなぁ」



「礼?」


「決勝戦の日

私の試合 準備も片付けも全部してくれたろ」

「まぁ、雪は門下生がやってくれていたか」


「はい」

にっこりと雪がほほ笑む


澪が雪をじと目で見る

「まあ… いいや 春日 ありがとう」


「いえ、自分が横で先輩たちの試合を観たかったからですし、

 控え席での観戦をお願いしたのも自分からですから」


「なるほど… まあいい

 お礼に、これを授けよう」


鞄から風呂敷に包まれたものを出す


「大切に使え」

目が一瞬、鋭くなる


春日と雪は感じ取った


そのあと澪は

「出来たら子供にまで継がせろよ」


悪戯気に話しながら、風呂敷を解く


中には

年代物の使い込まれた短い木刀


雪がのぞき込む

少し意外そうな顔


(小太刀の大きさ?)


澪が春日に渡す


「小太刀の木刀……ですか?」


「多分… そうだ」

「昔、 …

 おばあちゃんに貰った」


澪が続けて

「私には短い 使え」




手に触れた瞬間、

古い木の重みが伝わる



「こんな大切なもの頂けません」


「だから、言ったろ 子供に継がす気で使え」


「子供って…」


(いつになるのやら…)

(彼女もいないのに…)


とりあえず、軽く振ってみる


「ん?」


手になじむ


そのまま、動きをひとつ


「どうだ? いいだろ」


「はい すごく馴染みます」


「まるで…」


再び軽く振る


不思議なほど

手に残る


「澪先輩 ありがとうございます」


「大切にします」


「おう 春日、お前は…」


澪が

その短い木刀を見ながら


「雪みたいにはなれない

 私みたいにも… きっとならない」


「だからお前は、お前で行け

  小太刀で…その木刀で…」


春日は少しの間

心の中で何かを噛み締めるように考えて


「はい…」

一言、言葉を返す


そして、

澪に向かって一礼を取る


そのまま再び

短い木刀を振る


今までとは、

少し違う間合い


少し違う拍子


短い動き


樋鳴りが

静かな練習場に響く


また、

木刀を振る


「春日」


「はい」


「それ、折るなよ」


「折りません! さすがに…… そこまで…」



「澪、春日君に失礼だよ」


雪が吹き出す


澪も笑う


春日は

少しだけ困った顔をして


また木刀を振った




春日は


まだ迷っている


強さも


在り方も


正しい形も


まだ分からない


けれど


受け継いだものだけは、

確かにその手にあった


小太刀を静かに構えた


桜は


まだ咲いていない



最後まで読んでいただき、

本当にありがとうございました。


武の道を歩む中で、


強さとは何か。


形とは何か。


守破離とは何か。


そして、

どう在るのか。


迷いながら歩く彼らを書き続けた物語でした。


春日は、

まだ答えの途中です。


きっとこれからも、

迷い、

悩み、

立ち止まりながら、

歩いていくのだと思います。


けれど、

受け継がれたものは、

きっと消えない。


この物語を読んでくださった皆様へ、

心から感謝を。


自分の桜も、

まだ咲いていません。

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