093 苦言
「入り口があったんだ……」
永田さんの車が横付けされたのは、コンクリート造りの小さめなビルだった。
それでも廃墟遊園地に比べて、はっきりと人の手入れがされているのがわかる程整えられている。
駐車された場所もしっかりとアスファルトで舗装されていて、その色の濃さから整備されて間がないことを物語っていた。
「あー、一応、あっちは、緊急ハッチだからねー」
「は?」
ヤヤの言葉に、僕はほぼ反射で言葉を返す。
緊急と名前が付くようなものを常用していたのかという驚きと、それはダメだろうという思いが、自分の声の源だと後追いで理解したところで、ヤヤが後頭部を掻きながら理由を口にした。
「あっちの方が、研究室に近いから……つい」
研究室からの脱出用の通路だから、正式の入り口より早く脱出出来るように、距離も短いのかも知れないなと、納得は出来る。
だが、緊急用名のだから、当然それではいけないだろうと思って、とりあえず思ったことを口にした。
「そうかも知れないけど、緊急の脱出用って、研究施設で事故が起きた用だけが用途じゃないんでしょ? ヤヤ自身を、迫り来る脅威から逃がすなら、その脅威に知られる可能性を増やすのはダメだよね?」
この場にはエルを抱きかかえながら同行している陽菜ちゃんも居るので、一応言葉をぼかしてはみる。
チラリと確認した永田さんは、目で「もっといってください」と訴えながらこっちを見ているので、僕の発言はセーフとみて良いはずだ。
「セキュリティのレベルを自分で下げるなんて、とても非効率だよね」
「うくぅ」
僕がそう指摘すると、ヤヤは図星を指されたらしく、言葉を詰まらせる。
コレまでのやりとりでなんとなく感じてはいたのだが、ヤヤは科学者だ体と思うけど、効率性を重んじるのだ。
とはいえ、重んじるからと言って、出来ているかとなると話が変わる。
意外……でもないけど、ヤヤは細かな計画を立て、それに乗っ取って一つずつ工程を進めることも当然出来るのだが、気持ちがノってくると勢い任せで判断する癖があるようなのだ。
本人はそれを余り自覚していないので、こうして指摘すると、機能停止する。
科学者としての実力からして、恐ろしく頭が良いはずなのに、こうして隙……というか、抜けているところは、なかなか可愛いなと思ってしまうところだ。
とはいえ、ヤヤの反応を見てニヤニヤしていると、ゾクリとするほどの冷たい視線を背中に感じたのでフォローに入る。
「まあ、これから、改めれば良いんだよ。永田さんも、そう思いますよね」
恐らく冷たい視線を放っているであろう陽菜ちゃんを見ずに済むように、敢えて永田さんに話を振らさせて貰った。
「はい、改善して貰えると、我々としても助かります」
間を置かず永田さんは僕の言葉に同意してくれる。
すると、ヤヤは「わかったよ、改善する」と受け入れを宣言した。
「プロフェッサー、移動の際の送迎は我々が担当しますので不便はおかけしません」
永田さんはそう言ってヤヤ尼頭を下げる。
二人のやりとりを見ていると、永田さんがマネージャー加湿時当たりに見えるなと思いながら、未だ冷たい視線を放ち続けている陽菜ちゃんから逃れるために、さっさと屋内に移動を仮死することにした。
「じゃ、じゃあ、中に入ろう、ヤヤ」
「そうだね、いつまでもここにいてもしょうがないね」




