092 白熱
「陽菜ちゃん、今日は塾じゃないの?」
「体調不良なの!」
僕の問いに、陽菜ちゃんは元気いっぱいに答えを返してきた。
どの辺が不良なのかと質問したら、とんでもない目に遭いそうなので、その言葉は控える。
「研究会の一員として、校外研究の実態も学ばねばならないでしょう?」
「……まあ、ヤヤが許可したなら……」
校舎裏の駐車場で、僕、陽菜ちゃん、そしてエルの三人は、ヤヤ達を待っていた。
元々、明るく真面目で皆に優しい陽菜ちゃんは、かなりの人気者で、知名度も高い。
そこに、少なくとも高校の校内では目にしないであろう幼い幼女が組み合わされば、自然と視線を集めてしまうのだ。
というわけで、ヤヤが永田さんと車を連れて戻ってくる間、校舎裏の駐車場で四方八方から飛んでくる好奇の視線に晒されることになっている。
僕としてはそれなりに居心地の悪い視線なのだが、陽菜ちゃんは慣れているのか、あるいはエルと手を繋げて嬉しいのか、別段不快そうな顔は見せていなかった。
一方で、エルの方は視線を浴びるという初体験に心弾ませているようで、思わず胸が多々溜まりそうな至福の笑みを振りまいている。
陽菜ちゃんとエルがそうして笑みを振りまいていることもあって、こちらに向けられる視線が減ることはなかった。
いや、むしろ増えてる気がする……。
というわけで、居心地の悪い僕は現実逃避を兼ねて、研究会の部室での一幕を回想することにした。
最初にテンションを振り切ったのは陽菜ちゃんだった。
陽菜ちゃんは昔から妹を欲しがっていたので、エルをそのターゲットに定めてしまったらしい。
衣装と振り付けという話を聞いた直後、次々と自分のスマホで小さな女の子向けのドレス写真を検索しては吟味し始めた。
コレに呼応して、陽菜ちゃんの選び出した衣装を、持ち込んだ携帯式のプリンターを駆使して、せっせと印刷し始めたのが、コレまでひたすら沈黙を保っていたジェーン先生だったりする。
無表情を保とうとするも、口元に笑みが浮かび、それに気が付いて顔を引き締め、直ぐにメッキが剥がれて口元が緩むというのを何度も繰り返していたところからすると、ジェーン先生も陽菜ちゃんほどじゃないにしてもかなりテンションが上がっていたようだ。
モデルとして巻き込まれる形になったエルだが、自分のために衣装を考えてくれている二人に感動を覚えたようで、終始笑顔を浮かべていたと思う。
残るヤヤは、この輪には加わらなかった。
一瞬、衣装に興味が無いのかと思ってけれど、そうではないことは、ヤヤの直後の行動で理解する。
永田さん達に連絡を取ったヤヤは、パソコン機材を持ち込ませた。
そこまでは何をするのかわからなかったけど、ジェーン先生が印刷した写真データ、陽菜ちゃんが検索したページのアドレスと、衣装に関する写真データを元に衣装のデジタルデータをほぼ瞬時に作成し、パソコンモニター上に出現させた3Dモデリングされたエルに着せていったのである。
こうして、永田さん達が退室した部室では、僕一人を放置して、他の面々がエルの衣装に集中するというとても居心地の悪い時間が発生したのだった。
疎外感の半端ない部室の空気を思い出して僕は、思い出すんじゃなかったと後悔した。
思わず遠い目になっているであろう自分を想像して、苦笑が浮かぶ。
まあ、それでも四人ともそれぞれ楽しいそうだったし良いかと、諦めに似た納得をしたところで、ヤヤを乗せた永田さん運転の黒塗りの高級車がやってきた。




