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091 方針

「つい思わずというヤツですよね。人間は、感情の高ぶりによって、自分でもコントロール出来ない状態に陥ることもあると、エル達のデータベースにも記録されています」

 僕の手を離れ床に降り立ったエルは、まず最初に落ち込んでしまった陽菜ちゃんにそう言って声を掛けた。

 だが、それだけでは、陽菜ちゃんは自責から復活しない。

 困った顔をして僕を見るエルに、苦笑しながら僕はあることを耳打ちした。

 それに驚いた様子を見せたエルは、少しシアンスタ素振りを見せた後に「なるほど、人間らしいのかも知れませんね」と小さく頷く。

 エルなりにそれで納得したらしく、直ぐに僕の助言を実行に移した。

「生物である以上、心の暴走は仕方ないことだと思います。なので、エルは貴(・)女(・)を(・)許(・)し(・)ま(・)す(・)」

 すると、その言葉に反応して陽菜ちゃんは、おずおずと顔を上げてエルを見る。

「ほんとぉ? 許してくれるの?」

「本当です。エルはびっくりはしましたが、怒ってはいません」

「ありがとう……ごじゃいます……」

 そんなエルと陽菜ちゃんのやりとりを見ていると、脳裏に昔の光景が浮かんできた。

 陽菜ちゃんの基本は真面目な優等生で、普段から落ち着いた性格をしているんだけど、時々、その反動なのか、暴走することがある。

 そして、暴走した後で、猛省して自責の念で潰れそうになるのだ。

 僕自身、自分でわかっていても、止められないことがある。

 結局公開はしていないけど、歌唱動画作りで、納得がいかずに朝を迎えて徹夜で学校に行ったことが何度もあった。

 自分に似たところがある……というか、共感出来る部分があるのは、親近感が湧くもので、真面目で優等生ってだけだったら、陽菜ちゃんとはもっと距離を感じて居たと思う。

 そんなわけで、陽菜ちゃんの暴走、落ち込み、そして復活の流れは、彼女には悪いけど、微笑ましかった。


 しばらく置いて、陽菜ちゃんは立ち直ったには立ち直ったのだが、自分の膝の上にエルを載せてご満悦で微笑む姿は、まるで反省しているようには見えなかった。

 それよりも、僕は陽菜ちゃんの膝の上に乗るエルを見て、体重も普通の五歳児と変わらないんだなぁと、やや……いや、かなり失礼なことを考えている。

 僕の観察する視線をどう解釈したのか、陽菜ちゃんは気まずそうに視線を逸らしながら、急に話を振ってきた。

「そ、それで、私たちは、研究会で、エルちゃんの歌を聴いていれば良いの?」

「陽菜ちゃんそれじゃ、研究会じゃなくて、鑑賞会じゃないか?」

 するりと自分の口から出た言葉に、我ながら上手いこと言えたと思っていると、陽菜ちゃんは真顔で「それもそうね」と頷く。

 なかなか良い出来の返しだったのに、陽菜ちゃんの反応が淡泊すぎて不満なのだが、話はそんな僕を置き去りにして進んでしまうようだった。

「エルの歌声を完成させる工程は、この学校内の設備では、ま(・)だ(・)取り組めないね」

 ヤヤの言葉に、水槽に放り込まれたのを思い出して、確かにリンクは難しそうだと納得する。

 水の中だからって、学校のプールに放り込まれたらどうしようとも思っていたので、それがなさそうだと内心ホッとした。

「なので、振り付けと衣装を研究しようと……」

 ヤヤの言葉の途中で、陽菜ちゃんは目をランランと輝かせて「はい、会長!!」と挙手をする。

 それから陽菜ちゃんは、かなり興奮気味に、鼻息荒く宣言した。

「全力で支援するわっ!!!」

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