089 発足
「えーと……『最新技術に対する研究活動を通じ、社会貢献の可能性を模索し、可能であれば技術研究開発、技能修練等を行い自己の研鑽に挑む研究活動を行う』……ね」
未だ無言のままのジェーン先生が突き出した研究会申請書に書かれた活動目的を、僕は一字一字目で追いながら読み上げた。
なかなか固い内容の文章だなと思っていると、ヤヤが笑い始める。
「見事に具体性がないね!」
「何笑ってるんだよ! ヤヤがジェーン先生に丸投げした結果だろ?」
研究家の設立は、ヤヤが望んだ時点で確定していた。
なので、永田さん達は体裁を整えるため、書類、施設、人員の配備を行ったらしい。
未だまともに声を発さないジェーン先生が、手にした小さなホワイトボードを使った筆談で、背景を教えてくれた。
事前に「これ」と言っていたので話せないわけじゃなさそうだから、いろいろ配慮しているんだろうなぁと思う。
ジェーン先生への同情が、口から長めの溜め息として漏れ出た後で、僕はヤヤに「ともかく、ヤヤが研究会を作ったにも拘わらず、活動について何にも考えてないのはわかったよ」と告げた。
すると、ヤヤは不満げに「失礼な!」と返してくる。
「何で怒ってるんだよ、自分でどうしようって話振っただろ!」
「それは、何から手を付けようかって話だよ」
「そうなの?」
「そうだよ」
ヤヤの断言がかなり不服そうに聞こえたので、僕は誤解を詫びることにした。
「そっか……ヤヤの発言を勝手に解釈して、間違った認識をしてたみたいだ、ゴメン」
「謝るほどじゃ……ないよ」
変な間を開けて返してきたヤヤに疑問を感じた僕は、それをそのまま問う。
「どうかした? 変な間があったけど……」
すると、ヤヤは首を傾げながら「不思議な感覚だった」と答えた。
「不思議な感覚?」
「正直、レンタの反応に怒ってた……それほど強くないから、不満って感じかな」
「う、うん」
はっきり『怒っていた』とか、『不満』と言われたことに、気持ちの上で腰が引けてしまったけど、ともかく話を聞いた方が良いと態度に見せないよう心掛ける。
「にも拘わらず、レンタと言葉を交わすのは楽しいと思ってた……怒ってるのに楽しいって言う複雑な気持ちになっていた……別の感情だと思っていたものが同居するんだなと思うと、凄く不思議だった」
ヤヤ自身、自分の感じた感覚を上手く飲み込めてないのだろう。
言葉を発しながらも、その意味を噛みしめるように、あるいはその感覚を確かめるように、胸に手を当てて、何度も頷いていた。




