076 恐怖
僕が「ほぼ?」と聞き返せば、永田さんは嬉しそうに頷いた。
つまり、彼の意図したとおりに、僕が反応を見せたと言うことだろうと理解する。
はっきり言って、僕自身、永田さんの手の平の上で転がされていることを前提に話をしないと、簡単に操られてしまうという実感があった。
だからこそ、小さなプライドで苛立って、思考を放棄したりはしない。
僕の大事な人たちに迷惑を掛けないように、立ち回らなければと、何度も何度も頭の中で繰り返した。
一方永田さんは、僕が思考を巡らせている間は待ちの姿勢を取っている。
そうして、狙い澄ましたように僕が覚悟を新たにした段階で答えを口にし始めた。
「我々としても、全面的に彼女には自由に過ごして欲しいのですが、我が国は法治国家ですから、法の制約を科さないというわけにはいきません」
永田さんの顔から、これまでのニコニコが消え、深刻なものに変わる。
「……夏川さんはすでに体感されていますが、あのアダムによる飛行も、彼が航空機に分類されないというムリヤリの理屈で、どうにか『グレー』にしているのです……」
苦悩の混じった永田さんの言葉に『なるほど』と思ってしまう。
ヤヤの行動に制限を掛けると聞けば、反感を抱くところだけど、あの無茶苦茶な行動を看過出来ないと言われれば、その通りだとしか言えなかった。
「まず、夏川さんに協力を願いたいのは、その点……つまり、彼女の行動を常識的範疇に、法に抵触しない範囲に留めるのを手伝って欲しいのです」
永田さんの言葉を聞いた僕は、なるほどと思ってしまう。
確かに、ヤヤの感覚で行動方針を決めてしまえば、問題が起こるのは今日目の当たりにしたところだ。
登校して、数時間を過ごすだけでも大騒ぎだったヤヤが、今後一切問題を起こさないことの方が可能性としては低いと思う。
でも、僕は『ただ……』と、思ってしまった。
「なんで、僕が?」
「簡単ですよ。夏川さんが『特別』だからです」
「そうでしょうか?」
陽菜ちゃんも言っていたけど、僕とヤヤの関係は、恋愛関係に見えるらしい。
とはいえ、実体は『共犯者』……エルの声を蘇らせるための同志だ。
友人としての関係も始めたばかりだし、陽菜ちゃんやスガちゃんには、現時点では及んでないと思う。
そう自分の中の考えを纏めたところで、永田さんに視線を向ければ、それを合図に彼は答え始めた。
「プロフェッサーは、ある国で育てられた少女です。それも、我が国では『違法』な手段で、です」
永田さんの話し始めた内容は、すでに予測していたことだったけど、他人の口から『事実』として語られたことで、無意識に喉が鳴る。
だが、永田さんは、コレまでと違い僕の反応をスルーして話を続けた。
「彼女は薬物投与や電気を使った人体実験まがいの手段で、無理矢理知識を埋め込まれ、同じ環境下にあった他の子供達が命を落とす中で生き延びてきたのです」
一言一言が重い。
僕自身、それは頭の中で想像したことではあるけど、改めて言い切られることで、とても恐ろしくなると共に、ヤヤに対する哀れみのような感情が大きくなるのを感じた。
修正報告
2021.07.06
前:彼が航空機に分類されないのという
後:彼が航空機に分類されないという
前:彼女の講堂を
後:彼女の行動を
前:法に抵触しない範囲で留める
後:法に抵触しない範囲に留める
前:投稿して
後:登校して




