040 前提
「それにしても、感情の獲得をするなんてね……私以外の人間……いや、レンタとかかわったことが影響しているのは間違いないね」
ヤヤはそう結論付けると、僕に向けて笑みを浮かべて見せた。
「エルも、レンタさんの影響は大きいと推測します」
そう頷きながら、エルもヤヤの言葉を肯定する。
だが、何かした意識もない僕としては、戸惑いの方が大きかった。
「いや、僕は別に何もしていないよ?」
自分の印象のままに口にした言葉に、ヤヤは大きく首を振る。
「それは、レンタが自分の価値を正しく認識していないだけだよ。結果として、レンタはこうして、エルに感情というものを意識させている。つまり、レンタがなにもしていないのなら、存在だけで強い影響を与える因子を持っているってことだよ」
そのヤヤの言葉は、あっさりと僕の胸を高鳴らせた。
「い、因子っていっても……」
僕を認めてくれたという嬉しさで、思考力が落ちた頭を無理矢理動かして、冷静になれそうな逆説を組み立てる。
「エルはヤヤ以外に、僕しか会ったことが無いんじゃ無いの?」
導き出した僕の考えは、妙に状況に嵌まってしまった。
秘密基地の中で生み出されたエルが、ヤヤ以外の人と会う機会はあっただろうかと考えれば、僕が特別だった部分は、その存在ではなくて、初めて会った人間ってとこだろうと思う。
少し寂しいというか、残念な気もするけど、その方がしっくりくるし、納得しやすかった。
だけど、ヤヤは平然と首を左右に振る。
「そんなことないよ。私はこの国に保護して貰う代わりに技術提供しているからね。その関連の人たちはエルに会っているよ」
「へ?」
予想とは違うヤヤの言葉に、僕は再び目を点にすることになった。
それから上手く動いていない頭で、エルを見れば、ヤヤの言葉を頷きながら肯定する。
「レンタさんはお会いになっていませんか? 今日、マスターが出向かれた学校にも、関係機関の方が同行されていたと聞いていますが……」
エルの言葉で、そんな話があったことを思いだした僕は「ああ」と声を漏らした。
「今日マスターに同行された方々の幾人かは、アダム共々お会いしています」
「そう……なんだ」
エルの断言に、自分でも間が抜けてる返事をしてしまう。
如何にヤヤが規格外とはいえ、いや規格外だからこそ、国にお世話になっているというのは、突拍子もないようで頷ける内容だった。
その一方で、もしも二人が言う通り、僕以外の出会いがあったとしたら、僕の存在そのものに価値があるというヤヤの言葉が正しいものになる。
一度はそんなことはないと否定した僕の価値が裏付けられて、嬉しさ、恥ずかしさ、困惑と、様々な感情が溢れ出してきた。
持て余しそうな感情の波のせいで、顔が崩れるのを必死に堪えながらも、僕は話の方向を変えることにする。
そうでもしないと、顔から火を噴き出し、心臓が爆発してしまいそうだったのだ。
「やっぱり、僕が昔『エル』だったことが関係……あるの……かな?」
僕の言葉に、ヤヤとエルは顔を見合わせる。
それから、ヤヤに頷かれたエルが、自分の考えを口にした。
「レンタさんが嬉しいと感じていると教えてくれたお陰だと思います。レンタさんの様子や前後の会話なども合わせて考察した結果、エルの感じたものとの類似性を立証出来ました」
「そ、そう……なんだ」
少し難解なエルの言葉に曖昧に頷くと、今度はヤヤが口を開く。
「まあ、レンタの言う通り、レンタが『エル』だってことも関係しているかも知れないね」
「う、うん」
「まあ、今後ともレンタにはお世話になることになりそうだね」
満面の笑みを浮かべて言うヤヤに、直前の曖昧な返事と違い、僕は「うん」と力強く頷いていた。
修正報告
2021.05.23
前:エルもややの言葉を肯定する。
後:エルもヤヤの言葉を肯定する。
前:自分の印象ままに
後:自分の印象のままに
前:僕しか合ったことが無い
後:僕しか会ったことが無い
前:そんな話が合ったことを思いだした
後:そんな話があったことを思いだした




