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038 下校

「よし、まあ、色々あったが、今日はここまでだ」

 二谷先生の言葉を受けて、教室の雰囲気はガラッと変わった。

 これまでが『待て』だったとしたら、二谷先生のホームルーム終了の言は『よし』に当たる。

 ガラリと教室の扉が開いて、二谷先生が出ていくと、その直後、ヤヤに対する好奇心を爆発させたクラス中の視線が、一斉にこちらに集まってきた。

 半ば覚悟していたとはいえ、始まるであろう質問責めの時間に身を強張らせたのほぼ同じタイミングで、立ち上がったヤヤが僕に質問を投げかけてくる。

「えっと、ここまでってことは、帰っていいのかしら?」

「え? うん、まあ、そうだね」

 僕が頷くとほぼ同時に、スガちゃんが「レンター」と僕を呼びながら近づいてきた。

 一斉に質問をぶつけても、僕たちが対処できないと思ったのだろう。

 予想に反して、スガちゃん以外のクラスの面々はこちらをじっと見ているが近づいては来なかった。

 とりあえず、もみくちゃを回避できたことに安堵した僕は胸を撫で下ろす。

 が、そのタイミングで、近づいてくるスガちゃんをヤヤは左手の平を向けて押し留めた。

「「へ?」」

 僕とスガちゃんの声が重なる。

「ごめんね、レンタはこの後、私と約束があるんだ!」

 ニカッと笑ったヤヤは、スガちゃんにそう断言した後で、僕に視線を向けた。

「ヤヤ?」

「エルが待ってる! 行こう!!」

「い、行くって……」

 僕の体は思考とは関係なく戸惑いの声を上げる。

 ヤヤから『エル』と聞いただけで、行く先が秘密基地であることも、昨日の続きを始める気なのにも気づいたけど、体の反応はワンテンポ遅かったようだ。

 そんな自分の体のタイミングのずれを僕が認識し、スガちゃんがクラスを代表して「ちょっと待ってよ」と口にした瞬間、教室後方のドアが開け放たれる。

「あ、アダム!?」

 ドアから入ってきた大男の姿に、僕たちへの好奇心で取り囲んでいたクラスメイト達が、一歩、二歩と後退った。

 そして、例の如く、ひょいひょいと左右の腕に僕とヤヤは抱えられてしまう。

「え、ちょ、どういう?」

 目の前で起きた出来事に、驚きながらも、声を出せただけスガちゃんはスゴイなと、僕は妙な感心をしていた。

「えーと、こういう場合は、あれだね、挨拶……『皆様、また明日お会いしましょう。それではごきげんよう』」

 これまで聞いてきた口調と明らかに違う言葉遣いで放たれたヤヤの別れのあいさつに、僕は(ああ、ゲームからの引用かぁ)と内心で理解しながら、ポカンとしているクラスメイト達を見る。

 予想外の出来事が立て続けに起きると、思考がマヒするんだよなぁと、僕は軽い同情を抱き、目を閉ざした。

 その直後、体に感じるアダムの腕の感触、風圧、音、もろもろの状況で、教室から運び出されていることを察する。

 ややあった後、感じたのは例によって空を飛ぶ感覚だった。

 僕がわざわざ目を閉じたのは、昼間、視界良好の中で命綱もなしに空を飛んだら漏らす自信があったからである。

 目を閉じていれば、少なくとも直接見るよりは怖くはないのだ。

 いや、正直に言えば、目を閉じていても、受ける風圧や呼吸のし辛さで、自分の状況をある程度は想像できてしまうので、怖いことは怖い。

 でも、僕は、怪我をした時に、患部を直接見るのと見ないのとでは、痛みが違って感じるタイプなので、直接目にしないことが大事なのだ。

 だから、ギュっと目をつぶって、終わりの時をひたすら待つ。

 長いのか短いのかもよくわからない時間が経過したのち、風圧も息苦しさも消え去ったタイミングで、アダムの腕が動き、僕の足裏は地面を捉えた。

修正報告

2021.05.23

前:戦気先が秘密基地であることも

後:行く先が秘密基地であることも


前:教室工法のドアが

後:教室後方のドアが


前:左右の腕に僕とややは

後:左右の腕に僕とヤヤは


前:妙な関心をしていた。

後:妙な感心をしていた。


前:命綱もナジに空を飛んだら

後:命綱もなしに空を飛んだら

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