037 退室
ヤヤに面と向かって、言われた一言はかなりの衝撃だった。
お陰で心臓が滅茶苦茶なスピードでドクドク言っている。
「ん? どうしたの、レンタ?」
僕の顔を覗き込むように、下からのアングルでややの顔が近づいてきた。
何かリアクションをしなければと焦る僕の頭に対して、体はピクリとも動かない。
「ん? ん~~?」
その間にも、眉を寄せたヤヤが、右に左に首を振りながら、僕に顔を近づけてきていた。
距離が刻一刻と近づく中、妙に静まり返った教室に「ん、んんっ」という咳払いが響く。
「レン……夏川君、ここ教室なんだけど?」
その声に背筋が急速に冷凍されたような悪寒を感じ、僕は声の方へと振り返ることができた。
だが、視線を向けた先が安息の地とは限らない。
僕を待ち受けていたのは、笑顔の陽菜だった。
だが、陽菜の幼馴染である僕には、笑顔に見えるそれが、最大級に不機嫌な時の顔だと知っている。
その表情に恐れを抱きながら、陽菜が不機嫌なのはなぜかと考えれば、すぐ答えに思い至った。
つまり、話も進めずに、教室の入り口でヤヤに対して顔を赤らめて動揺している僕が見苦しいということだろう。
可愛らしい外見でありながら、特定の男子と仲良くしない陽菜は、潔癖なところがあると思う。
つまり、目の前で幼馴染が、ヤヤに照れている姿を見て、目障りだと感じているのだ。
それに気づいた僕は、この状況から脱出するために、アダムへと歩み寄る。
ヤヤと陽菜、更にクラスの視線を感じながら、アダムの横に立った僕はヤヤに質問を投げかけた。
「と、とりあえず、護衛なんて、この国の学校にはない文化だから、アダムを学校においておけないんだよ、ヤヤ」
ヤヤの世間知らずをこの国の出身じゃないという形で乗り切ろうと公算を立てていた僕は、あえてそこを強調して、アダムを置いておけない旨を伝える。
すると、ヤヤは大きく頷いた後で、アダムに視線を向けた。
「アダム、ホームで待機」
「はい。マスター」
ヤヤの指示に大きく頷くと、アダムはそのまま教室を出て行ってしまう。
アダムは平然とした態度に見えたが、ヒト型ゆえについヤヤに尋ねてしまった。
「ヤヤいいのか?」
「なにが?」
ヤヤは僕の言葉の意図が分からなかったらしく、首を傾げて尋ねてくる。
反射的に説明して伝わるのだろうかとも思ったが、ヤヤは疑問を疑問のままにしておかないタイプな気がするので、ちゃんと言葉にすることにした。
「ほら、普通、連れてきておいて、すぐ帰れって、悪いというか、申し訳ないというかさ……」
そこまで言葉にすれば、ちゃんとヤヤにも伝わったらしく「なるほど」と何度も頷いている。
僕はそんなヤヤから視線を外して、二谷先生を見た。
どこか緊張を解いた風に見える二谷先生の様子から考えて、アダムに脅威を感じていたのだろう。
口はともかく、面倒見のいい二谷先生なら、いざという時生徒を守ろうと考えていたんじゃないかと思った。
で、そうなると、アダムの体格はやっぱり脅威だよなぁと、僕は一人納得をする。
「レンタ!」
「え?」
不意打ち気味にヤヤに声を掛けられて、僕は何も考えず視線を向けた。
「ありがとう!」
「なにが?」
急な感謝の言葉に、戸惑い以外の感情は出てこない。
「アダムをちゃんと人と同じように考えてくれて、なんか、それが嬉しかったから」
そう言いながら向けられたヤヤの笑顔に、僕は言葉を失うことになった。
修正報告
2021.05.23
前:僕が見苦しい手負いことだろう
後:僕が見苦しいということだろう、
前:僕はややに質問を投げかけた。
後:僕はヤヤに質問を投げかけた。
前:乗り切ろうと降参を立てていた僕は
後:乗り切ろうと公算を立てていた僕は
前:首を傾げて訪ねてくる。
後:首を傾げて尋ねてくる。
前:不意打ち気味にややに声を掛けられて
後:不意打ち気味にヤヤに声を掛けられて




