028 気合
僕の確認の言葉から少し、ヤヤの状態はどうなのか、のぞき見ることは出来ないが、鼻声で返ってきた「うん」という消え入りそうな声に、彼女が泣いていたことを察した。
けれど、そこに触れたところで、彼女を救える気がしなかった僕は、自分自身に『僕は早く機材に触りたいんだ』と暗示を掛ける。
それから、僕はヤヤではなく傍らのエルに話を振ることにした。
「えっと、エル、曲のデータってあるかな?」
僕がそう声を掛けると、エルは「お待ちください」と言いつつ、小さく頷いてパソコンの前に移ると、よどみのない動きで楽曲データの収められているディレクトリを開く。
「他の曲データが必要でしたら……」
説明を始めようとしてくれたエルを遮って、まず僕は「ありがとう」と告げた。
それから「この曲だけで大丈夫」とモニターに表示された楽曲データの一つを指さす。
エルは僕の失礼な話の止め方に、気にした素振りも見せず、軽く頷くと一歩後ろに下がってパソコンの前を開けてくれた。
そんなエルに対して、僕は一つ注文を付ける。
「あー、エル、横で見られていると集中出来ないからさ、そのヤヤのところに戻って貰って良いかな?」
本心半分でそう告げると、エルは「わからないところがありましたら、お呼びください」と再び頭を下げた。
それから、僕の目の前に出現させた空中ディスプレイに『マスターの傍に戻る許可を頂きありがとうございます』と文章を表示させる。
確かに半分は泣いているっぽいヤヤの様子を見て欲しいという意図を含んだ発言はしたけど、感謝されるほどじゃないと考えた僕に、その思考を読んだのであろう的確な説明が、新たに表示された。
『我々はマスターやレンタさんの許可が無いと、指定された行動を逸脱出来ないのです』
それを読んで、僕はようやく理解する。
エルがヤヤを心配に思ったとしても、僕の付き添いを命じられた状態では、この場を離れなかったこと、そして、改めて彼女がヤヤの作り上げたロボットであることに僕は気が付いたのだ。
プシューと扉の開く音と共に気持ち小走りで部屋を飛び出していったエルの小さな背中に、少しやるせない気持ちを抱いた僕は、大きく長い息を吐き出す。
そして、自分の仕事をやり遂げようと並べられた機材のチェックに入った。
設置されていた機材は、見た目通りの新品で、それも設置されただけで使われてないとわかるくらい、ボリューム調整のつまみも、チューニング用のダイヤルも、スイッチ類も、新品特有の固さがある。
それに新しい機械の持つ独特の香りも纏っていて、コレが僕のために用意されたものなのだと言うことを強く感じ取ってしまった。
僕は感じ取ったヤヤの情熱に、生半可な気持ちでは答えられないと改めて気持ちを引き締める。
「気合い入れないと……だな……」
そうして、僕は気合いを入れて、念入りに機材やパソコンにインストールされたソフトが立ち上がるかなどを確かめていった。
修正報告
2021.05.23
前:ロボットであることに僕は改めて気が付いたのだ
後:ロボットであることに僕は気が付いたのだ
前:プシューと扉の開く音とも共に
後:プシューと扉の開く音と共に
前:生半可な気持ちで答えられないと
後:生半可な気持ちでは答えられないと
前:ヤヤの状態は同なのか、
後:ヤヤの状態はどうなのか、
前:傍らノエルに
後:傍らのエルに




