029 急転
ヤヤは両手を合わせて、少し困り顔で「ごめんね、レンタ!」と謝罪してきた。
そして、僕は既にアダムにここへ来た時と同じように抱えられている。
機材の確認が終わったので、ヤヤに報告しようと思ったら、こうなっていた。
「ちょっと、どういうことか、よくわからないんだけど!」
全力で放った説明を求める僕の言葉に、ヤヤは「あ」と言いながらポンと手をたたき合わせる。
その後で、右手の人差し指を真っ直ぐ伸ばして、モニターを指さした。
「時計見て」
ヤヤにそう言われて、モニターの左下に表示された『23:47』という恐らく今の時刻であろう表示を目にする。
「それで?」
何故時計を見せたのかという新たな疑問を増やしながら、僕はヤヤに視線を戻した。
すると、ヤヤは「レンタ、明日学校でしょ? そろそろ帰らないと」と言い放つ。
「は?」
ここまで非常識の連続を重ねておきながら、急に普通のことを投げ込まれて、上手く思考が追いつかなかった。
「いや、だから、レンタは学校に行かないといけないんだから、今日の作業はここまで! 続きは明日だよ!」
「あ、明日って」
完全にヤヤのペースで話が進んでいることに慌てつつ切り返せば、急に彼女の表情が曇る。
「うぇ?」
ヤヤの表情の変化に戸惑いの声が漏れるが、それよりも変化の理由が聞きたくてそれ以上声が出ないように口を噤んだ。
僕のその選択がマイナスに作用してしまったらしく、ヤヤの表情が更に曇る。
想像していなかった表情の変化に、僕が罪悪感を覚えた直後、意を決したようにヤヤが口を開いた。
「もしかして、都合が悪い? それとも……協力したくない?」
コレまで割と強気だった印象のヤヤが見せた上目遣いの問い掛けに、思わず胸が高鳴る。
「つ、都合は悪くないし、きょ、協力はするけどさ……」
顔を覆い尽くした熱に突き動かされ、口にしたヤヤへの言葉は更に頬が火照りそうなほど上擦っていた。
そんな完全に自分の感情を持て余し、気持ちを上手く掌握出来ていない僕に対して、ヤヤの方は先ほどの表情が嘘のように晴れやかな笑顔を見せる。
ぐいっと顔を間近まで近づけて、ヤヤは「これ、明日会う約束が成立したってことだよね」と嬉しそうに目を瞬かせながら尋ねてきた。
僕はどうにか「う、うん」と頷けば、ヤヤはくるりと回転した後で、エルの手を取って燥ぐ。
「エル、コレは友達と約束が出来たと言うことだよね」
「マスター、おめでとうございます!」
ヤヤに両手をつかまれてクルクルと宙を舞いながら、エルも嬉しそうに祝いの言葉を口にした。
今まで友達がいなかったのか……少なくとも、友達と約束する経験は無かったんだろうと思うと、僕はそれ以上何も言えなくなってしまう。
その結果、僕は肝心な自分の置かれた状況というものを失念してしまっていた。
なんだか、一人だけど、ヤヤの役に立てた気分になっていると、その当人から自分の状況を思い出さざるを得ない発言がされる。
「じゃあ、アダム、レンタを家まで届けてきて」
「え?」
「はい、マスター」
心なしか、僕を抱える手に力がこもると、直後、僕の意思など関係なしに視界が変わった。
僕を抱えるアダムが部屋を出るために、踵を返したのである。
身動きが取れず、アダムに抱えられている僕も当然その動きに従うこととなり、死角に移動してしまったヤヤとエルの様子はうかがえなくなった。
とりあえず、不安を感じてしまった僕は、アダムに立ち止まって貰おうと口を開く。
が、僕が口を開いた瞬間、猛烈なGを感じ、視界が明るかった地下基地の廊下から、黒で塗りつぶしたような光景へと変化していた。
鼻で感じる空気の匂いの変化、呼吸もしにくいほどの風圧、そして、急激な体感温度の低下に、自分が来た時と同じく空を飛んでいるのだと悟り身が震える。
直後、アダムの体勢が地面に対して垂直から水平に変わったことで、僕は地面に対して直角に視線を向けることになった。
「ぎやああああああああああああああああああああああああああ」
修正報告
2021.05.23
前:そろそろ返らないと
後:そろそろ帰らないと
前:行かないと何だから
後:行かないといけないんだから
前:踵を介したのである。
後:踵を返したのである。
前:精子を求めようと
後:立ち止まって貰おうと




