1359. 商会との話し合い(9)
機密保持契約や水中翼船の作成に成功した場合の造船権の詳細、及び10年間は南大陸との交易にのみ使う事、造船したもしくは今回の共同事業内のパートナーから購入した水中翼船の販売先の制限などを合意文書を作成してもらうのに数日かかった。
日本でだったら契約なんて法律の隠れた穴や契約書類の文言の細かい言い回しの不備を利用されたりしないようにと契約文書を練るのに只管時間が掛る上にそれのチェックにも更に時間が掛り、ちょっとした共同事業の合意でも数年かかることは珍しくない。
だが、何と言っても誓約魔術のある異世界である。
最初に契約の意図を明示し、後はかなり大雑把な契約文言でも『契約の意図に沿って誠意をもって対処する』という誓約があればそれでかなりの部分は大丈夫らしい。
今回は後から海軍(国)も加わることを最初から明示してあるし隆一を陥れるようなことをしたら国だけでなく神殿からも報復を受けかねないので、意図的に悪用するリスクは低そうだし。
まあ、それでも何日かは各商会とザファード及びダーシュで色々と話し合っていたので、その間に隆一は探索者ギルドに依頼を出して持ってきてもらった樽入りの海水に半重力魔法陣を刻み込んだジュラルミンの基盤を漬け込んでどうなるか実験してみた。
2日目に微妙に錆っぽい変色が見え始めてきたので、どうやらジュラルミンは海水に弱いらしい。
アルミニウム系の合金で塩に強い物を探す必要がありそうだ。
船のデザインそのものも試作品で適当にやったようにスキー板モドキに半重力魔法陣を設置するのではなく、船底の内側に設置すれば少しは海水との接触を減らせる。が、そうはいっても海水が滲んでくる可能性はあるし海上を航海していたら飛沫の中に含まれる塩が次第に船の中にも入り込むだろうから、塩に強い合金を見つけたとしても、塩に完全な耐性があるのでもない限り、防水のカバーで覆った方が良いだろう。
第一、座礁したり海賊に襲われて船底に海水が入ったとたんに一気に水中翼船の挙動が無くなって単なる帆船になってしまうのは困る。
という事で、取り敢えず新しい合金とその防水カバーの製造は隆一が請け負うことになった。
「俺が合金関係の開発をしている間に、船を実際に人間が乗って動かす形にして実証実験をして貰いたいが、どの位のサイズで試すべきかな?
最初は海水への耐性をどのくらい持たせられるか分からないから、出来れば淡水の川か、何か新しい船の実験に使うような施設があるならそういう実験設備でやって貰いたいんだが」
隆一がわくわくと試作品の構造図を見ているフェムト・ピケッタとピルトン・ジャスナルに声を掛けた。
「ヴァーレの内陸側の運河だったらほぼ淡水だと思う。
それともナフザード商会は何か船の実験施設を持っているとか?」
フェムトがピルトンに尋ねた。
「流石にそこまで船の開発に金を掛ける余裕はないし、ウチの商売は外洋メインだからな。
ヴァーレの運河が現実的かな?
ちょっと移動などに時間が掛るからリュウイチ殿との意見交換が通信機だけになりそうだが」
ちょっと残念そうにピルトンが言った。
「……軍の方で、10人乗りぐらいの飛行機の飛行訓練やテストを始めている筈。
それをピルトンとフェムトやその他の技術者や船大工の移動に使って朝晩王都とヴァーレで往復させられないか、聞いてみよう。
あちらが融通を利かせられない様だったら、4人掛けの飛行具だったら試作品があるから、それで適当にちょくちょく行き来してくれれば話し合いもやりやすいだろう」
隆一が王都を出てヴァーレに行くとなるとまた護衛の人員の手配などの話が面倒になるので、実験施設へ行くのは多分遠慮してくれと泣きつかれて、技術者たちに来て貰う必要があるが。
というか。
隆一が王都から動かない代わりに、10人乗りの飛行機を朝晩出してくれと交渉すべきだろう。
「取り敢えず、王都とヴァーレとの素早い移動手段に関してはこっちが何とかできないか、交渉する。そちらは人目のない運河での実験をするための手配と程よいサイズの試作品の製造を始めてくれ。
形だけ出来たら、魔法陣の製造は俺がする」
設置の時に一度出て行って様子を見させてもらいところだが。
契約書に対して誓約魔術が本当にオールマイティに効くのかは不明ですが。




