1356. 商会との話し合い(6)
交易商として大手なナフザート商会から来た男は、壮年の日焼けしたがっしりした男だった。
大手商会の副会長と言うよりも、交易船の船長だと言われた方が納得できそうな見た目だ。
「アルザック・ナフザードです。どうぞお見知りおきを。
今回は何か面白そうな話があるそうですね。楽しみで年甲斐もなくワクワクしながら来ました」
明るく微笑みながら隆一に挨拶をしてくる。
「招かれ人のリュウイチ・エノモトだ。
今日は来てくれてありがとう。
南大陸との交易で得られている素材の中に、故郷で広く使われていた香辛料が幾つかあることが分かってね。
交易量を大幅に増やしたいと思って、それに協力してくれそうな相手を探しているところなんだ」
アルザックの手を握りながら定型の挨拶を返す。
「南大陸の交易ですか。
我々に会っていただけるという事は、コランビード商会には声を掛けないのですね?」
隆一に勧められたソファに座りながら、アルザックが穏やかに尋ねる。
荒っぽい船乗りのような外見だが、意外と言動は紳士な様子だ。
考えてみたら、日焼けとがっしりした体形だけで隆一が勝手に『船乗りのよう』=『荒っぽい海の男』という印象をを抱いているのだ。本人にとっては中々不公平な評価かも知れない。
がっしりした体形はデブにならないように頑張って運動しているだけな可能性も高い。日に焼けていのだってもしかしたら実は日焼けではなく元々地肌が浅黒いだけな可能性もある。
まあ、若いころは実際に船長として日焼けの跡が落ちないぐらい海に出ていた可能性も十分あるが。
「それなりに大々的に交易量を増やしたいと思っているんだ。
しかも南大陸との交易は海での難が多いというので、素早く動ける新しいタイプの船を開発しようとも考えていてね。
そうなると現在南大陸との交易を独占している商会が今以上に大きくなって、更に他の航路でも他者を締め出すような動きをし始めては経済の健全性が損なわれるだろう?」
隆一は交易した結果を購入する側なのだ。
独占企業なんて、無いに越したことはない。
色々と危険性が高いという話なので流石に利幅の薄い自由競争では厳しいかも知れないが、せめて何社かで競争原理が働く寡占状態ぐらいにはしたい。
寡占状態でも競争状態で、談合なんかしていないことが求められるが。
「新しいタイプの船ですか?」
ぐいっとアルザックが身を乗り出す。
やはり交易で稼ぐ商会にとっては新しい船というのは興味を掻き立てる話らしい。
「形とそれの動きを補助する魔法陣は既に小さな試作品では作ってあるんだ。
これを実際に海で使って、問題点を洗い出して南大陸まで乗っていく人員が必要でね。
だから南大陸との交易に興味がある幾つかの新興商会と、南大陸と現在取引が行っていないが体力はあるナフザート商会にちょっと話を振ってみた」
やはり体力的にはピケッタ商会だけでは厳しい気がするから、ナフザート商会と共同でやって貰う方が良さそうだが、一緒に協力してくれるだろうか?
ナフザート商会は大きいだけあって小回りが利かなそうな気もする。そこら辺を小さなピケッタ商会が補う感じになって欲しいが、二つの商会の力関係がどうなるかが中々デリケートな話になりかねない。
「ははは。
エルダス・コランビードの悔しがる顔が目に浮かびますな。
流石に招かれ人であるリュウイチ殿の推進する動きを正面から止めることは出来ないでしょう!
まあ、裏では色々と邪魔をするでしょうが」
アルザックが楽しそうに笑いながら応じる。
「まあ、ある意味そこは新興商会で今まで色々と痛めつけられてきた新興商会の方がどんな方法で攻撃されるかを良く分かっているんじゃないか?
それに対処するのには助けが必要かもしれないが。
ちなみにナフザート商会は既に大陸中央部との交易で十分儲けているという話だが、何故南大陸への交易に興味があるんだ?」
興味が無ければ今回のミーティング自体が無かった筈。
「いつまでも同じ取引だけやっているのでは商会が腐ります。
随時新しい交易先を見つけ、昔からの航路は独り立ちしたいと頑張る配下の人間に任せて常に成長し続けるのが商会が健全にあり続けるのに重要なのですよ」
アルザックが言った。
なるほど。
変に成功体験に胡坐をかいて停滞することが無いよう、ある程度新しい商品や交易先で儲けが落ち着いたら内部の出来る人間で独り立ちしたい者に譲り、商会本体は新しい挑戦を探していく感じなのか。
バブル期辺りの日本企業もそういう新陳代謝を心掛けていられれば、他国に席巻されずに済んだかもしれないのに。
「ふむ。
新しい挑戦へ貪欲になるのは良いことだな。
ちなみに新興商会や最終的には海軍とそれなりに協力してもらうことになる可能性もあるが、ナフザート商会の方針はどんな感じになるのか?」
「余程特殊な加工品でもない限り、現地では商材を扱う商会と言うのは大手と中小と数多くある筈です。
中小の商会を新興商会に任せ、大手と取引するのが我々になるという感じですかね?
中小商会の方が工夫して色々と細かい違いがある商品を扱っていることもあるのですが、流石にそういうのを全て探して取引するのは無理ですからね。
海軍に関しては、勿論協力させていただきますとも」
にっかり笑いながらアルザックが答える。
問題が無い様だが……まあ、こういう時に問題があるような言動をするアホが大手商会の副会長までにはなれないだろう。
後でダーシュに隆一が何か見落としていないか、確認しておく方が良さそうだ。
隆一的にはちょっと気に入った感じな船長っぽいおっさんw




