1354. 商会との話し合い(4)
『経営の安定性はどうなのか』という隆一の質問に対して、カジーヴ・ピケッタはちょっと考えてからカップをローテーブルに置いて隆一の方を真っすぐに見つめて口を開いた。
「当商会の直接所有している交易船は3隻、他と提携して積み荷を動かす権利がある船があと5隻あります。
提携している船は沈んでも全部が一気になどと言ったことにならない限り、多少は痛いですが商会自体への経営的な危機にはなりません。
直接所有している船は失った場合は損失を全額当商会が被ることになるので、1隻ならまだしも同時期に2隻沈んだら……どこか大手商会の傘下に下るか、貴族に身売りする必要が出てくるかも知れません。
ですので、できる限り同じ時期に危険がある海域に行くことがないよう、細心の注意を払っています」
「ふむ。
ちなみに今まで南大陸との交易をおこなおうとして、船を無くしたことがあるのか?」
2隻無くしたら存続の危機になるとしたら、船を失うかもしれないような新規航路開拓は難しい気がするが。
「南大陸の交易の難しさとその利益に関してはそれなりに知れ渡っていますからね。他の商会と共同で何度か船を出そうとしましたが大型な海洋型魔物に襲われて這う這うの体で逃げ帰る羽目になったり、なんとか南大陸に辿り着いても商売になるような大きな都市を見つけられなくて利益が微々たるものだったりといった感じでそれなりに大きな赤字になりました。もっとも、数年に一度試す程度は耐えられる程度の損失ですので、今でも定期的に新しい事を挑戦しているのですが」
カジーヴが応じた。
なるほど。
自分の所の船だけ新規航路を探す冒険は出来なかったのか。
と言うか。
「南大陸の地図は無いのか?」
交易できる都市を見つけられなかったというのは驚きだ。
「必ずしも特産品のある交易都市が海際にある訳ではありませんし、一隻ふらっと入ってきた船との交易を上が認めてくれるような都市が都合よく海岸沿いにあるとも限らないので。
それなりに継続的な利益を示せれば交易も可能なのかもしれませんが、一隻だけなんとか辿り着いた程度だと、そのまま船を分捕ってしまおうと考える権力者も多いのですよ」
苦く笑いながらカジーヴが答える。
沈没したではなく奪いたがる権力者がいると分かるという事は、襲われかけた船は何とか逃げ切れたのだろうが、帰ってこなかった船の中にはそういう現地の権力者に拿捕されたのもある可能性が高そうだ。
「実は……新しいタイプの交易船で、今までの帆船よりも速い物を作れるかもと研究をしている所なのだが。
その船の実用性のテストや実際の交易をおこなう為の人員を求めている。船や金ではなく、船を動かして交易をおこなう人員を提供するのはどの程度出来る?」
金よりも人員の方が隆一的には必要なのだ。
まあ、船を作るのにかかる費用がどのくらいなのかは知らないが。
見通しがつくぐらいの段階で海軍も協力してくるとなったらそれなりに出費の補填があるだろうし、屋敷や工場を何棟も建てられるぐらいの資金があるのだ。
船だって数隻試作するぐらいは可能だろう。
これから色々と特許権から利用料が入る予定だし。
そう考えると、そろそろ国をせっついてパイロットを養成させて飛行具のレンタルビジネスを始めてがっつり豪商や貴族相手に金をむしり取るべきかもしれない。
まあ、下手に儲け過ぎて社会から資金を抜き取って隆一の所で滞留する形になると経済的な悪影響が出かねないので微妙なところだが。
とは言え、飛行具のレンタル料は高めに設定した方が主要な街道よりの街の経済が空洞化しなくていいだろう。
取り敢えず。
水中翼船の開発だ。
「新しいタイプの船、ですか?」
カジーヴが目を丸くして身を乗り出す。
「現存の帆船よりも速く、風が無くても動ける船になる予定だ。
ただし魔石の使用料がかなり高くなるので、実用性は実証実験をやってから判断することになるが、実証実験そのものをやる人員が必要でね。
だから南大陸との交易に興味がある商会幾つかと話をしようとしているところなんだ」
水中翼船の実証実験に失敗したら諦めて現在南大陸との交易をほぼ独占しているコランビード商会に金を出してカカオやシナモンの輸入量を増やしてもらうしかないだろう。
「実証実験の人員ですか。
大丈夫です、信頼できる人間を当商会から提供しましょう!
……現在交易に出ている船が戻ってくるまで時間をいただく必要がありますが」
胸を張って言い切られたあと、ちょっと残念そうに小声で付け加えられた。
「何人ぐらいをどのくらいの期間、いつから提供できるか後でダーシュの方に伝えてくれ」
さて。
人格と熱意的にはそれなりに良さげだが。
他の2商会とも話をして判断をしなければ。
実証実験は海洋性大型魔物との戦闘も含まれるよ〜?




