1353. 商会との話し合い(3)
「ピケッタ商会のカジーヴ・ピケッタです。
この度は何か興味深い提案が出来るかもとお伺いしておりますが、当商会を選んでいただきありがとうございます」
リビングに案内されたひょろりと背の高い30代半ばぐらいの男が、隆一にかっちりとした礼をとって挨拶してきた。
最初は隆一の方から各商会の方に出向こうと思っていたのだが、3か所も回るのだしチョコレートや水中翼船の試作品を見せる(食べさせる)ことになるかもという事で、隆一邸に来て貰う事になったのだ。
元々、向こうもそれが当然だと思っていたようだし。
社会的立場的に招かれ人の方が新興商会の副会長より上らしい。
まあ、隆一としては金と技術を提供しても良いと思っているのだ。
此方から訪れて下手に出る必要は無いとダーシュに言い聞かされて、合意した。
今回もダーシュが秘書っぽい感じに部屋の隅に座って記録を取ることになっている。
「招かれ人のリュウイチ・エノモトだ。
今日は来てくれてありがとう。
ちょっと南大陸との交易で得られている素材の中に、故郷で広く使われていた香辛料が幾つかあることが分かってね。
交易量を大幅に増やしたいと思って、それに協力してくれそうな相手を探している所なんだ」
あまりあけすけにこちらの求めることを言うのは交渉としてイマイチなのかもしれないが、何といっても隆一はほぼ研究一本やりで生きてきた理系な人間なのだ。
情報収集や効率化のためにコンピュータのプログラミングやハッキングの技術も身に付けたが、対面で人と交渉する技術と言うのは磨かれていない。
現代地球から考えると遅れていると見做されるかもしれない君主制社会の新興商会の幹部と言え、与える情報を制限した状態で上手い事言い包めて隆一にとって都合がいい様に動かせる気はしない。
なので、正面から体当たりすることにした。
それでこちらを利用しようと考えるようなら、提携相手として選ばなければいいだけなのだ。
そこら辺の見極めはダーシュにも頼んである。
「香辛料、ですか。
確かにあれは高額で取引できますから遠方の交易でも利益が十分出ますね。
今、南大陸との交易と言えばコランビード商会がほぼ独占していますが、当方もなんとか割り込めないか、色々と工夫をしているところなのですよ」
にっこり笑いながらカジーヴが応じた。
「独占している商会だけが大きくなったら、交易量を増やしたところで商品の値段が高止まりしたまま商会の利益として吸い取られるだけになりそうだろう?
だからせめて寡占状態に出来るように他の商会と南大陸との交易を増やしていこうと思っているんだが……ピケッタ商会は南大陸との交易をなんとか出来ないかと試す以外に、他に何をしているのだ?
新規取引先を探している間に力尽きてしまっては困るから、そちらの事業内容を少し教えてもらいたいのだが」
地球でも、事業の拡大フェーズで頑張っている会社はうっかり手を伸ばしすぎて、資金繰りに失敗して倒産するケースも多かった。
南大陸への交易以外で十分な収入と体力があると確認しておきたい。
「我々ピケッタ商会では香辛料や触媒など、少量でも効果が高く、高額で売れる物を世界各地で探してそれの使い方を広めつつ販売先と共に大きくなる努力をしています。
南大陸までは色々問題があって交易先としてまだ取引圏に広められていませんが、途中の南海諸島や、大陸側のメジャーではない港町などに人を遣って色々と積極的に販売できるものを探して取引を増やしています」
カジーヴがそう答え、更に楽し気に色々な新しい商品の発見談とかそれを売り込む苦労話などを教えてくれた。
なるほど。
『新興』と言うだけあって、中々ガッツがあってアグレッシブに頑張っている商会らしい。
「ちなみに。
経営の安定性はどの程度なんだ?
新しい商品探しや販売経路開拓にはそれなりに資金が必要になると思うが」
大学院時代にちょっと顔を出してみた経営論の授業で聞いた話だが、企業経営を考えた際に商品は4つのカテゴリーに分かれる。
種まき段階、それが利益出てきた段階、売れ始めた段階、がっつり売れているがある意味それ以上成長のない段階。
最後の段階の名前がcash cow(金のなる牛)だったところが中々面白かったので記憶に残っている。
この場合、最初は完全に大幅な赤字、二番目の段階でまだ赤字だけどそれが減りつつあり、三番目の段階では黒字が徐々に出てきて、だがまだ事業拡大のための出費もそれなりに多い。最後の段階ではもう事業の拡大は見込めないので出費はほぼなく、只管今まで蒔いた種からの収穫を得る段階で大幅な黒字になる。
Cash Cow段階では成長性は無く最終的には先細りになるから、4つの段階の商品をバランスよく開発・調整していくのが企業経営の肝だと講師が言っていた。
ピケッタ商会の話を聞くとどう考えてもCash Cow段階ではないが、最初の3段階のうちのどれなのか、気になる。
日本だったら金のなる木ってところですかね?
牛がそれ程一般的ではなかったから、『牛』と言う単語が付く言い回しってあまり無いですよね




